注目を集めた三陽商会の2023年2月期(2022年3月1日〜2023年2月28日)決算が4月14日(金曜日)に発表になり、7年ぶりの黒字決算になった。主な数字は以下の通り。ただし今期から収益確認に関する会計基準に変更しており前期との比較は不可能なためカッコ内は参考数字だ。
・売上高:582億7300万円(前期386億4200万円)
・営業利益:22億3500万円(同−10億5800万円)
・経常利益:24億3700万円(同−7億3500万円)
・親会社株主に帰属する当期純利益:21億5500万円(同6億6100万円)
・配当:55円(同0円)
黒字転換と同時に復配(配当総額6億4100万円。配当性向30.8%)も達成した。
この7年ぶりの黒字転換・復配を予想したのか、4月14日(金曜日)にはすでに前日(4月13日)終値1583円に比較して、37円高の1620円で始まっていた。ただし、4月14日終値は1460円と前日比123円安と低調だった。出来高は88万5800株で前日(8万1000株)の10倍以上に膨らんでいた。週が明けた4月17日(月曜日)にはさすがに54円高で始まったが、終値は前週終値に比べて57円高の1517円。簡単に言って、今回の黒字決算はすでに株価に織り込み済みで、かなり利益を確定する売りと今後の好業績を期待する買いが交錯したということで大きな上昇は見られなかった。
2月決算の黒字化はもちろん賞賛に値するものだが、正直言って大江伸治社長の「公約」だった昨年2月期の黒字化が1年ずれ込んだものであるから両手を挙げて賞賛というわけにはいかない。しかし、2015年春夏の「バーバリー(Burberry)」ライセンス契約終結のショックから8年が経過したが、この8年間で失ったものはあまりにも大きかった。
死んだ子の年を数えるように無意味とは知りつつ、「バーバリー」契約終了の影響がなかった最後の年である2014年の同社の12月決算を振り返ってみた。
・売上高:1109億9600万円(前年比+4.4%)
・営業利益:102億1300万円(同+44.8%)
・経常利益:103億4800万円(同+38.0%)
・当期利益:63億1800万円(同+73.2%)
簡単に言って、売り上げはこの9年間で半減し、利益は5分の1になったということだ。社員数については、2008年12月には2001人いた正社員は、2013年、2016年、さらに2018年に早期退職募集を行い、2018年12月末には約740人になった。2022年2月時点の社員数は1235人(同社ホームページ)となっている。
「無意味」ついでに同社の史上最高決算だった2002年12月決算を振り返ってみた。
・売上高:1416億1200万円(前年比+4.7%)
・営業利益:132億9500万円(同+40.7%)
・経常利益:130億4200万円(同+46.9%)
・当期純利益:63億6300万円(同+52.1%)
アパレルメーカートップのオンワード樫山に迫る勢いを見せていた頃の三陽商会である。この頃から「ポスト・バーバリー」の準備を進めていたならば、7年間に及ぶ塗炭の苦しみは味あわなくても済んだのではないか。この最高決算のあとには、リーマン・ショック(2008年)、バーバリー・ショック(2015年)、コロナ・ショック(2020年〜2022年)という3大ショックが三陽商会を襲い、この3大ショックほどではないが2014年消費税アップ(5%→8%)、2019年消費税アップ(8%→10%)という消費税ショックもあったのである。
こうして考えてみると、ただでさえこのアパレルビジネスは社会情勢の変化を受けやすいのが分かる。さらに、1998年首都圏初の都心型店として最初の「ユニクロ(UNIQLO)」原宿店がオープンしたあたりから攻勢を強めたSPA(アパレル製造小売り業)との戦い、2007年6月に発売を開始したスマートフォンiPhoneで決定的になった「通信革命」などのマイナスインパクトをモロに受け止めなくてはならなかったのだ。考えてみれば、援軍になるようなプラスインパクトはこの23年間、全くと言っていいほどなかったのだ。
この23年間を振り返ってみても、三陽商会の新ブランドでこうしたマイナスインパクトを跳ね返すような大々的なヒットを記録したというブランドはない。
何から何まで厳しい23年間だった。むしろそれを考えると、ピークの3分の1、バーバリー消滅前の2分の1に売り上げがなっても、利益を捻出した今回の決算は「よくやった」という労いの言葉をかけたくなってしまうのだ。