製造業では、AIやIoTなどの最新技術の活用が盛んであり、その中でもAR技術は将来性が期待されています。主にデバイスを活用して人間の視覚を拡張する技術であり、製造業では情報の共有や研修などで活用されています。

本コラムでは、製造業で使われるAR技術について解説いたします。使われている事例もあわせて紹介するため、ぜひ参考にしてみてください。

製造業のAR技術の活用とは?VRやXRについても事例を交えて紹介
(画像=MONOPOLY919/shutterstock.com)

目次

  1. AR技術とは
  2. ARの仕組み
  3. ARデバイスの一例
  4. AR技術が注目される背景
  5. AR技術を活用するメリット
  6. AR技術とスマートファクトリー
  7. 製造業で利用されているAR技術の事例
  8. 活用が進むXRの技術
  9. 製造業におけるVR・MRの活用例
  10. ARを始めとする発展した技術を活用しよう

AR技術とは

ARとは、Augmented Reality(拡張現実)を略した言葉であり、コンピューターを使用して人が知覚する現実環境を拡張する技術・環境のことです。もともと人の持つ知覚は視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の5種類です。

AR技術はこれらの知覚を拡張させますが、特に「視覚」に対して現実環境を拡張する技術といった部分で活用されるケースが多いです。近年では、ARを含む生産現場で活用できる新しい技術が続々と生み出され、IoT、AI、ナチュラルインターフェースなどを活用した製造業向けのソリューションが多数登場しています。

その技術を正しく効果的に応用している企業はまだ少ないですが、一部の分野では積極的に活用されており、伸び代は大きいことから、今後はますます活用する分野が増えると予想されています。

ARの仕組み

ARを理解するためには、まずは大まかな仕組みを理解することが重要です。現在のARの技術は、カメラで撮影した映像として映し出された対象物を別の方法で認識させ、その情報をインターネット経由で取得し、また映像に重ね合わせて統合して表示させます。

身近なところでは、スマートフォンのARアプリが登場しており、ビジネスツールとしてだけでなくコンシューマー向けゲームにも応用されていることから、「既に体験済みだ」という人も多いでしょう。

これらのアプリでは、スマートフォンのカメラを通して映し出された街の風景を見ると、建物や土地に関連する付加情報が表示されるものが多いです。このときの付加情報はアプリの目的によって異なりますが、例えば文字・画像・映像など、複合的な情報を提供しています。

ゲームアプリでは、カメラを起動して写した景色にキャラクターが登場するものが多いです。また、ARの仕組みにはいくつかの種類があり、代表的なものはロケーション型・マーカー型・マーカーレス型の3つです。

ロケーション型

ロケーション型とは、GPSなどの位置情報をもとにARを表示させる技術です。例えば、スマートフォンのGPSの位置情報や電子コンパスを使用し、カメラの位置や見ている方角などから、場所や位置を特定し、サーバー側の別の情報を組み合わせて、画面上の映像に重ね合わせて表示させます。

製造業のAR技術の活用とは?VRやXRについても事例を交えて紹介

マーカー型

マーカー型は、マーカーと呼ばれるコンピューターを用いたAR技術です。認識可能な図形を事前に準備しておき、カメラを向けたときにそのマーカーを認識することで、マーカーに用意されたさまざまな情報を取得し、映像に重ね合わせて表現します。

マーカーレス型

マーカーレス型はマーカーを使用せずに、カメラの画像や映像を向けたときに対象物を認識できる方法です。主にその画像に関する情報を取得し、映像に重ね合わせるAR技術です。

ARデバイスの一例

AR技術は、最新の技術を盛り込んだスマートフォンと併せて利用することで、優れた機能を活用できます。スマートフォンには、カメラ、インターネット接続、位置・方角を特定するGPS機能、電子コンパス機能、描画機能、高速演算処理機能などの優れた機能を持ちながらも、高いポータビリティによってさまざまな場所で利用できるという特徴があるからです。

スマートフォン以外では、タブレット、メガネのようなグラスウェアデバイス、Oculus RiftといったVRデバイスがあります。デバイスごとに特化した機能があり、さまざまなAR技術をサポートします。

製造業のAR技術の活用とは?VRやXRについても事例を交えて紹介

AR技術が注目される背景

AR技術は単独で利用するものではなく、他の新しいデジタル技術との組み合わせによって、その機能や効果が最大限に発揮できます。例えば、製造業ならDX(デジタルトランスフォーメーション)、スマートファクトリーなど、AR技術の応用によって、活躍できる分野が潜在的にもまだ数多く残されており、「AR技術をどう活用すればよいのか」といった将来的な可能性が注目されています。

これまでの日本の製造業は、熟練した技術者による高い技術によって支えられてきた印象が強くあります。少子高齢化が進んでいる現代においては、現場で働く若い人材が減り、熟練工の高い技術が引き継がれなくなりつつあります。

引退する熟練した技術者の後を継ぐ若い作業員にとっても、これまでのような職人かたぎの現場で時間をかけて技術を学ぶことが難しい状況です。こうした技術引き継ぎのサポートとして登場し、注目されているものがAR技術です。

製造現場において、位置情報、画像解析技術を駆使し、現実空間に再現したデジタル情報を重ねて表示することで、作業支援・現場研修・点検・保守といった点で活用できるだけでなく、バーチャル空間でのシミュレーションを行える「デジタルツイン」といった形で応用されると期待されています。

製造業のAR技術の活用とは?VRやXRについても事例を交えて紹介

AR技術を活用するメリット

AR技術は、既に製造業の現場でも活用されています。例えば、製造トレーニングへの活用、製造ラインの改善、遠隔地の現場サポート、VRモックアップ、人材育成、コスト削減、保守点検サービスでの活用など、幅広い範囲で企業や働く人に対して貢献しています。ここでは、AR技術を活用するメリットについて詳しくご紹介します。

製造業のAR技術の活用とは?VRやXRについても事例を交えて紹介

生産性が向上し時間短縮できる

少子高齢化によって製造業の人手不足が深刻な状況が進行しており、以前から問題とされてきたことですが、AR技術にはこのような人手不足を解消できる効果が期待されています。

AR専用のゴーグル、スマートグラスを利用してスマートフォンやタブレットを操作しながら、技術の継承、新人教育などの人材育成が容易になり、現場で即戦力となる若手を短期間で育成できると考えられています。

人手不足や後継者不足が理由で技術が失われることがなくなり、社内の人材だけで重要な技術を継承できるでしょう。

移動にかかる手間やコストを削減

製造業は本社と支社・支店、工場・倉庫、研究所など、複数の拠点が存在し、人材交流や育成なども拠点間で行われることがあります。その際、AR技術を活用すると遠隔地に直接出向く必要がなくなります。

AR技術があれば、本社や各拠点から、映像と音声を用いて直接作業や業務の指示を出せます。そのため、移動にかかるコストや人件費などもカットできるでしょう。研修やトレーニングなら、AR技術の応用によって、実際の製品を使うのではなく、映像で製品を投影して何度も繰り返し練習ができます。このように教育にかける手間やコストを大幅に削減できる効果が期待できます。

紙媒体の資料が不要

製造業の作業の現場では、従来は紙媒体での作業マニュアルを見ながら、その都度確認を行い、間違いのないように慎重に作業を行っていました。AR技術を活用すると、紙媒体で見ていた図や写真の解説を機械設備に重ね合わせて表示できるようになります。

機械設備を見ただけでその情報にアクセスでき、ハンズフリーでの作業が可能となり、初めての作業員でもすぐに作業に慣れ、業務時間を短縮できるようになります。

直感的理解を深める技術の習得が可能

作業や製造の現場を実際に経験する前に、必ず実践的なトレーニングが行われます。従来の紙媒体や映像技術は、視覚情報を提供していましたが、AR技術を組み合わせると、認知しやすくなります。

例えば、外国人労働者が理解しにくい説明があった場合でも、AR技術で映像を投影し、直感的な理解を深められ、なおかつ反復トレーニングによって短期間での技術習得が容易になるため、教育育成にかけるコストも下げることができます。

AR技術とスマートファクトリー

「スマートファクトリー(スマート工場)」とは、工場の基幹システムや製造システム・機械設備がネットワークで接続され、工場経営管理の効率化によって、生産性の向上を実現した工場のことです。

スマートファクトリーでは、AI、IoT、AR技術などの最新技術が導入されています。スマートファクトリーが推進される理由は、製造現場での生産性の改善をさらに効率的に行う必要があるからです。

また、生産現場だけではなく在庫の最適化、歩留まり率の削減、工場内ロジスティクスの最適化、各種エネルギーコスト削減など、広い範囲でのスマート化が可能になり、スマートファクトリーの恩恵を享受できます。

他にも、スマートファクトリーを導入すると、製造工程の「見える化」が実現します。その結果として、細分化した工程単位での生産性改善が見込めます。熟練工の優れた技術も、IoTを活用したデジタルデータの取得とAR技術との組み合わせで、人手不足や若手の技術者への技術継承や自動化などが容易になります。

さらに、自動搬送機の導入で、工場と倉庫間のロジスティクス改善など周辺業務にまで波及できます。そして、AR技術を活用し、製造現場をデジタル空間に再現して、生産設備の配置を改善するためのシミュレーションも実際の現場に近い状態での予測が可能となり、予測通りの生産性の向上ができるようになります。

製造業のAR技術の活用とは?VRやXRについても事例を交えて紹介

製造業で利用されているAR技術の事例

AR技術はさまざまな分野で活用できる汎用的なテクノロジーです。そのため、企業に適した活用方法を実践することで、ビジネスの役に立つでしょう。ここでは、製造業でAR技術はどのように活用されているのか、いくつかの事例をご紹介します。

製造現場での作業の指示や支援

AR技術は、作業の指示・支援などで活用される事例が多いです。スマートグラスを見ながら、作業工程の確認、遠隔地からの作業指示などが容易となります。両手が自由になり、マニュアルや資料も見る必要はありません。

スマートグラスはいちいち外す必要がなく、視界を共有しながら現場作業を支援できます。他にも、保守メンテナンス作業の指示や支援にも使われます。メンテナンス対象の機械設備にARで点検方法・点検項目を投影し、その都度各種情報にアクセスして作業効率を高めます。手順書を参照する手間が不要です。

デジタルツイン

デジタルツインとは、現実に存在する製品をコピーし、バーチャル空間に再現するものです。デジタルツインによって、製品の開発・試作・改善などをバーチャル空間内で完結できます。トラブル時にもデジタルツインは役立ちます。アフターサービスやトラブルシューティングにも応用できるからです。

現場研修や作業トレーニング

AR技術を使い、遠隔地からでもきめ細かい指導が可能です。指導者と受講者が同じ場所にいる必要はありません。移動時間や研修時間を大幅に短縮できます。スマートグラスを利用し、作業内容・作業指示などを視覚的に捉えることができ、理解が深まり、スキルも効率的にアップします。言葉の違いで難しかった外国人労働者へのトレーニングも容易となります。

活用が進むXRの技術

AR技術は一歩進んで「XR技術」へと拡張され、実用段階に入っています。XRとは現実世界にないものを表現・体験できる技術の総称であり、XRに使われている「X」は、変数としての意味を持ち、ここではさまざまな技術を表しています。

例えば、AR(拡張現実)もXRの一種です。他には、VR(仮想現実)・MR(複合現実)などがあります。VR(仮想現実)は、「Virtual Reality」のことです。専用ゴーグルで視界に映像を映し出し、仮想空間がまるで現実のように感じられる技術です。既に、スポーツ観戦視聴や教育現場、仮想空間を自由に歩いたり、ものに触れたりするゲームや不動産の内見体験に活用されています。

MR(複合現実)は、「Mixed Reality」です。AR技術をさらに進化させ、現実世界と仮想世界を重ね合わせて、仮想世界がまるでそこにあるかのような体験ができる技術です。複数人での同時体験や遠隔地での同じデータを見ながらの会議、医療分野では手術のシミュレーションなど、今後の本格的実用化に期待が寄せられています。

製造業におけるVR・MRの活用例

製造業にもXR技術の導入が進んでおり、AR、VR、MRなどの活用事例が数多く見られます。ここでは、製造業におけるVR・MRの活用例についてご紹介します。

VR事例①「物流プロセスの改善・最適化」

VRを3Dモデルを使ってシミュレーションに活用し、物流プロセスを最適化します。仮想空間が体験できるVRは、複雑に入り組んだ工場の製造ライン、物流倉庫の内部などをそのまま再現し、レイアウト設計の中を現実世界と同様に実際に歩くような形で問題の早期発見が可能となります。物流プロセスだけではなく、製造プロセス全体の最適化も容易です。

製造業のAR技術の活用とは?VRやXRについても事例を交えて紹介

VR事例②「デザインレビュー」

製造業などでも図面、仕様書などは紙媒体が主流だったため、設計した製品のレビューも紙媒体で実施されていました。しかし、イメージの共有が難しく、重要な問題点を見落とすなど、従来の紙媒体のレビューには欠点がありました。

そこで、VRを導入して設計データを仮想空間上に投影し、イメージを共有しやすいようにしました。実際の製品を見ているのと同じ感覚でのレビューが可能となり、複数の人が見て多くの問題点を発見できるようになりました。問題点をすぐに発見できることから、設計工数・試作にかかるコストなども減り、大幅なコスト削減につながっています。

VR事例③「製造現場の体験」

製造現場を仮想空間上で再現し、安全対策・製造ラインの見直しなどのさまざまな活用事例が見られます。現場に移動する必要がなく、海外の工場であっても日本国内にいながらの視察が可能です。どのような製造現場の改善にも活用できる点が注目されています。

VR事例④「溶接技術の習熟度向上」

現場のベテランによる溶接技術の指導・訓練は実践的です。しかし、習熟レベルにはバラつきがあり、作業員全員の溶接技術が向上するわけではありませんでした。VRを研修トレーニングに導入し、現場でベテランの手元を見ながら溶接技術を学びました。VRを使うと受講者の習熟速度が早くなり、習熟レベルのバラつきが少なくなりVRを使った研修トレーニングのほうが効果的だと判明しました。

MR事例「保守・点検作業の正確性や効率性の改善」

製造業において重要な分野となる保守・点検も、MRを活用し、正確な保守・点検作業と効率性をアップさせています。点検箇所にはマニュアルやオペレーターのホログラムを呼び出せるようにし、指示を受けながら正確な点検作業が可能です。

作業現場でも同様に、製品のサンプル画像をタイムリーに映し出し、手順や注意点などをしっかりと確認して誰もが間違いのない作業ができます。各種作業に関する品質が向上し、工場全体でも作業がスピードアップします。

ARを始めとする発展した技術を活用しよう

製造業では、次々とAR技術の導入が進んでいますが、VR、MRを含めたXRの活用や応用はこれからの活躍に期待されています。AR技術というものが製造業で活用できるメリットを正しく理解し、現在成功している活用事例を参考にしながら、製造の現場においてその効果を多くの関係者に実感してもらうことが重要です。

ARは、XRと組み合わせて複合的に活用し、スマートファクトリーとして、工場全体の効率化や生産性向上に寄与でき、製造業の工場全体の経営管理に大いに役立つとその将来が期待されています。自社で活用できる技術を把握し、導入を検討しましょう。

(提供:Koto Online