特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業のトップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略についてさまざまな角度からメスを入れる。

株式会社ソフネットは、福岡市に本社を構える独立系のシステムソリューション会社だ。1986年の設立以降、豊富な実績・経験をもとに顧客の問題解決やDXをサポートしている。本インタビューでは、代表取締役社長の田中宏明氏に同社の企業概要や特長、将来の展望などについて伺った。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

豊富な人材を武器に事業を展開するとともに新規事業でも躍進 ―― 株式会社ソフネット
田中 宏明(たなか ひろあき) ――株式会社ソフネット 代表取締役社長
慶應義塾大学を卒業後、福岡銀行に入行。ロンドン勤務などを経て、プルデンシャル生命に転職。2015年からソフネットに関与し、副社長(社外)などを経て、2021年より現職。
株式会社ソフネット
35年を超える実績・経験をもとに、クライアントの問題解決とDX化をサポートする独立系システムソリューション会社。主に金融・医療・電力・交通・公共など、社会を支える業務システムの構築を担い、顧客のニーズに合わせて設計・運用・保守まで行っている。今後は強みである金融システム開発実績をもとに、急速にイノベーションが進むFinTechにも注力、リモートワークやDX化の進展に伴って生じるセキュリティリスクに対しても最適なソリューション提案してサポートし、クラウドの新時代に対応する方針。

目次

  1. 創業から37年目を迎えた老舗IT企業
  2. 近年はサイバーセキュリティ事業で成長
  3. 全国横断的なものづくりのプラットフォーム構築を目指す

創業から37年目を迎えた老舗IT企業

―― 株式会社ソフネットは1986年創業と、歴史の長い会社です。

ソフネット代表取締役社長・田中宏明(以下、社名・氏名略):1986年に福岡市で弊社を興したのは私の父で、2021年に私が2代目の代表に就任しました。もともと家業継承が頭にあった私は新卒で福岡銀行に入行、27歳で三菱UFJ銀行のロンドンに出向し、欧州各国の非日系企業向け融資や英国の鉄道ファイナンス案件などを担当しました。帰国後は主に、愛媛県今治市で船舶融資の新規開拓に携わり、600億円ほどの新規融資を組み立てました。その後プルデンシャル生命に転職し、入社5年でTOTの営業成績を残しました。ソフネットには2015年から関与しており、副社長(社外)などを経て今日に至ります。

▼福岡市東区、福岡県庁近くのソフネット県庁口ビル

株式会社ソフネット
(画像提供=株式会社ソフネット)

―― 御社の事業内容や特長をお聞かせください。

創業以来、ソフトウェアの受注開発やクラウドサービス、ネットワーク、セキュリティソリューションなどを手がけてきました。その間にバブル崩壊やITバブル崩壊、リーマンショック、直近ではコロナ禍といろいろありましたが、堅実経営を心がけてきた結果、業績は安定して黒字を維持しています。取引先は金融や医療、交通、電力といった社会インフラ系の企業が多いため派手に儲かることはありませんが、コツコツとキャッシュフローを積み上げることができました。これが先代の経営方針だったのです。

近年はサイバーセキュリティ事業で成長

私が社長に就任してから最も注力しているのは、サイバーセキュリティのビジネスです。プライム市場に上場しているエンタープライズを含めエンドユーザー様からいただいたRFP(提案依頼書)をもとに、案件の入口から関わっています。福岡には九州電力、福岡銀行、西部ガス、西日本鉄道、西日本シティ銀行、九電工、JR九州など県内に本社を置き、古くから地域経済を牽引してきた「七社会(互友会)」がありますが、すでに古巣の福岡銀行と九電工にはご導入いただき、他の数社もクロージングの段階を迎えています。また学生時代の人脈を通じて、全国の地方銀行にもアプローチしているところです。お客様は全国に点在しているので、福岡以外に東京や大阪、札幌にも拠点を構えています。

昔ならCOBOL、今ならJava、Pythonなどのプログラミング言語がありますが、弊社は歴史が長く幅広い世代のエンジニアがいるからこそ、その時々の状況に対応することができます。例えば昔からシステムを導入していたエンタープライズは、当時の技術者が定年退職を迎える前にシステムをダウンサイジングして今後もスムーズに運用するといった課題を抱えていますが、今が旬のIT企業だと知識やノウハウが新しすぎて、逆にレガシーなシステムには手が出せません。弊社にはかつて旬だった言語の使い手がいるので、これは他社との差別化になっていると思います。さまざまな世代のエンジニアが活躍すべきだというのが私の考えであり、とことん現場でものづくりをしてきたメンバーなので、積極的に取引先を見つけきては案件化しています。また、弊社は100%オーナー企業なので経営の自由度が高く、スピード感があることも強みといえるでしょう。

―― 経営を行う上で大切にしていることはありますか。

お客様を大切にすることはもちろんですが、働いてくれる仲間の幸せも重視してオペレーションをしたいと思っています。彼らに何らかの形で還元することが、私の務めです。

全国横断的なものづくりのプラットフォーム構築を目指す

―― さらなる成長を目指すための、今後の目標や事業構想をお聞かせください。

弊社はこれまで、単にエンジニアを派遣するだけの会社でした。福岡が本拠地なので首都圏と比べて低単価で派遣することができ、結果高い稼働率を実現できていますが、金融畑の自分の目には、驚愕の低利益でこき使われる、一種の奴隷制度がそこには存在していて、大きな収益を上げることは望むべくもない構造でした。一方、今のIT業界は転職すれば給与が上がるのが当たり前、つまり需給が極めてタイトな売り手市場です。客先で長年下請け根性を叩き込まれ自信を喪失した、しかし本来市場価値の高い社員をそのような低収益の事業から最適な場所に再配置するだけで売上は倍増できると考え、取り組みを進めています。サイバーセキュリティのライセンス事業といった利益率の高いビジネスにも積極的に参入することで、売上が同じでも利益率は大幅に改善するでしょう。売上倍増計画は、3年後の実現を目指しています。また、かつて金融業界にいた経験を活かし、今後はM&Aにも着手する方針です。

今は「ものづくりは海外に頼めばよい」と考える方が多いのですが、日本に作り手のプラットフォームがあるに越したことはありません。一方、今は名の知れたところに仕事を投げ、そこからいくつもの下請けを経て、最終的には低賃金のものづくりが横行していることも事実です。そういったところで頑張っているのは主に中小企業ですが、中小企業には事業承継という問題が常につきまといます。親からスムーズにバトンタッチできるところもあれば、事業承継がうまくいかず、社員が路頭に迷うリスクが顕在化しそうなケースも散見されます。そういった会社を救済する形で、ものづくりの全国横断的なプラットフォームを構築することも考えています。

こういった仕組みが実現すると地域の雇用維持・創出につながりますし、また生鮮品など産地直送の商流をITプラットフォームで支えることで中間マージンがなくなれば、売り手・買い手の双方に多大なメリットが生まれます。そういった活用法も検討したいですね。

実現に向けて人材の採用と育成は大きな課題で、今は九州のみならず、全国から新卒・中途を問わず優秀な人材を獲得し、育てていかなければならないと思っています。

金融機関との取引振りも大切です。与信を維持する必要があるため、決算書の作成・開示を慎重かつ丁寧に行うことはもちろん、融資以外の取引に関しても一定の配慮をしています。

―― 話は変わりますが、日々のニュースの中で気になることはありますか。

銀行や保険会社にいたころは金融関係の情報ばかり見ていましたが、経営者になってからは国際情勢に目が向くようになりました。また、日本は政治主導型の経済なので、政治関連のニュースも気になります。単に新聞を読むだけでなく、より深く知りたい場合はインターネットで調べたり、ChatGPTを頼ったりすることもあります。大切なのは情報を鵜呑みにするのではなく、かといって斜に構えることなく、理に適っているか、論理は破綻していないか、他に可能性はないかなど、自分なりに検証を重ねて咀嚼することだと思います。

―― 最後に、ZUU onlineの読者へメッセージをお願いします。

今後は自社サービスの立ち上げを検討していて、マネタイズできた暁にはIPOを考えてもよいかもしれませんが、今はそこまで届いていません。一方、サイバーセキュリティ事業は飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びていて、この勢いを堅持したいところです。読者の方の会社でセキュリティに課題があるようでしたらご相談いただきたいですし、私たちの成長をご支援いただけると幸いです。