5月14日、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長(56歳)が、叔父で前社長であるジャニー喜多川(2019年死去、享年87)の性加害について謝罪する1分ほどの動画を公開した。動画の内容は、すでにジャニー喜多川が故人であり「事実と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではない」「当時の取締役として知らないではすまされないことだが、私は性加害があったかどうか知らなかった」としている。
要領を得ない動画だが、一連の事件を以下にまとめておく。
まず、1999年にジャニー喜多川の性加害を報じた「週刊文春」に対して、ジャニーズ事務所らが名誉毀損で訴えた。2002年3月の第一審で東京地裁は「真実相当性は認められない」の判決。週刊文春側は控訴。2003年5月の第二審で東京高裁は「事実でない部分であっても相当性がある」と性加害を認定。ジャニーズ側は最高裁に上告したが2004年に棄却されて結審。しかし、ジャニーズ事務所は、当事者のジャニー喜多川に対してメリー副社長及び弁護士から「誤解されるようなことはしないように」と厳重注意をするにとどまったという。またこの結審は一部の新聞などで小さく扱われた。
では、なぜここに来てジャニー喜多川の性加害がまた問題になったかというと、今年3月18日から20日にかけて、BBCワールドニュースで計4回放送された「Predator:The Secret Scandal of J-PoP(J-PoPの捕食者~秘められたスキャンダル)」がその引き金だ。調査報道に定評があるBBC(イギリスの公共放送)が大々的に取り上げたのだ。1999年の「週刊文春」の報道の後追いであることを隠さず、文春側の協力を得ながらジャニー喜多川の性加害についてのドキュメンタリーは全世界で放映された。しかし、まだ日本のマスコミは動かなかった。一部のSNSが面白半分に扱っただけだった。
しかし、4月12日に日本外国特派員協会で元ジャニーズJrで歌手のカウアン・オカモトが記者会見で2012年から2016年にかけて最大20回の性加害を受け、さらに性加害を受けた少年は100人ほどに上るとの考えを述べたことで遂に扉は開かれた。5月11日には、ジャニーズファン有志の会が1万6100人分余りの署名をジャニーズ事務所に郵送。第三者委員会を設置し実態の調査を行うことを求めた。ジャニーズ事務所としても、ここに至って、遂に今回藤島社長の動画(前述)公開に踏み切ったというわけである。
ジャニーズ事務所は大量の男性タレントを擁し、日本の芸能界を支配して来た。今回創業者のセックススキャンダルが遂に明るみになったが、それも、いわゆるグルーミングと呼ばれる「性加害によって特別な絆を持ち相手を手なずけるという一種の懐柔策」だったのではないかという見方が強まっている。
藤島社長が要領を得ない動画登場で「保身」を図る程度のことでは済まされそうもない。第三者委員会の設置による実態の徹底的調査、しかるのちの社長交代によるジャニー喜多川カラーの一掃というのが普通会社なら当たり前のことだが、そうした「常識」が通じるのかどうか。
しかし、ここまで肥大化し、マスコミを「そんなことをしたらウチのタレントが使えなくなりますよ」と懐柔してきたジャニーズ商法が臨界点に達した感は否めない。
「絶対的な権力は絶対に腐敗する」というイギリスの歴史家ジョン・アクトン(1834~1902)の言葉を思い出すが、ジャニーズ事務所はこの創業以来のピンチを乗り越えることができるのだろうか。