株式会社LINK-USは、2014年に設立された超音波複合振動と強力超音波技術の専門企業です。各種装置の開発・設計・製造販売を主な事業としており、特に超音波複合振動による常温接合技術が特徴的です。その技術力は、大手自動車部品メーカーやバッテリーメーカーからも評価されており、その影響力を広げています。 代表取締役の光行潤氏は、「人と人をつなぐ企業で有り続ける」という理念のもと、超音波で金属と金属を結びつけ、「LINK-US」の名に込められた、人と人、企業と企業を繋げるという願いを実現し続けています。本インタビューでは、その成功の秘密と今後の展望について伺います。 (執筆・構成=川村 真史)

株式会社LINK-US
(画像=株式会社LINK-US)
光行 潤(みつゆき じゅん)
株式会社LINK-US株式会社LINK-US 代表取締役
光行 潤(みつゆき じゅん)――――株式会社LINK-US 代表取締役
製造業に20年以上携わり、そのキャリア、ノウハウと人脈で、超音波複合振動接合機の製品化、協力企業の開拓及び販売網を構築。産業機械、金属加工、溶接、品質保証の分野に精通しており、当社創業後、超音波複合振動による金属接合装置を商品化することに成功。
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株式会社LINK-USは2014年に創業され、超音波金属接合技術を開発・応用を行う神奈川に拠点を行う企業。同社が取り扱う技術は金属同士をエネルギー効率よく、且つ高品質に接合でき、特許技術を商業化、機械を主に工場に納め、国内外の大手企業との共同研究開発も行っている。

超音波金属接合技術: 革新的なエコロジーへのステップ

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-それでは、まず御社について伺う前に、御社独自の技術である超音波金属接合技術について、少し解説していただいてもよろしいでしょうか。

はい、超音波金属接合技術について簡単に説明いたします。この技術では、ホーンチップと呼ばれるツールにより、金属と金属を振動と熱で接合します。もう少し具体的にお伝えすると、まず、超音波により金属の酸化層をクリーニングし、金属の素地を作ります。その後、その綺麗な素地同士が密着し、摩擦と塑性流動により、原子レベルで結合します。結果として、金属を溶かさずに接合ができるのが超音波金属接合技術です。

-この技術には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

まず、エネルギー消費についてですが、例えばレーザー溶接と比較すると、超音波接合は数十分の1以下の消費電力になります。また、金属特性が変化せずに接合できるため、機械的に脆くなったり、電気抵抗値が変わることがありません。溶接の場合は、合金層が生成されてしまい、材料の特性が変化してしまいます。また、スパッタ(異物のこと)混入のリスクも減ります。

-それらの特性を踏まえると、この技術が普及していくと、社会全体でどれぐらいの節約効果が期待できるのでしょうか。

具体的な数値についてはまだ不確定なところもあるのですが、例えば電気自動車のバッテリー工場であるギガファクトリーにおいて、レーザー溶接を超音波接合に置き換えると、消費電力が大幅に減ると考えられます。これが世界各地で増えていくことを考えると、圧倒的にエコな技術であると言えるでしょう。

-ありがとうございます。社会的な意義も非常に大きい技術だということが理解できました。

特許技術からスタートアップ起業へ

-それでは、技術との出会いと会社設立の経緯について伺わせてください。

私は20代前半から製造業に従事し、工場で生産技術部門を担当していました。そのとき、この超音波複合振動という世界唯一の特許技術の発明者である辻野次郎丸教授(神奈川大学名誉教授)に出会い、素晴らしい技術だと直感的にわかりました。当時、どちらかというと辻野先生はアカデミックな研究に注力されていたため、商品化を私達がサポートする方向になりました。私が持っている製造のノウハウと人脈を掛け合わせれば、世の中に貢献できる装置として提供できると考え、会社を設立しました。

-創業が2014年で、その後どのように事業が変遷してきたのでしょうか?

創業当初は同僚と2人で始め、主に日本の電池メーカーを営業対象としていましたが、当時は20kHzの2000W出力の出力が小さい機械だけで営業していました。2018年に産業革新機構(現INCJ)から出資を受け、15名に増員し、40kHzで精密な位置決めができる機種や、20kHzで5000Wのハイパワーの新しい機種を開発し、客層を増やしていきました。2020年には引き続き産業革新機構をリードとしてラウンドB増資を受け、資本金が約12億4千万円になり、社員も30名近くになり今に至ります。

-つまり、資金調達を行い、開発資金に投下し、新しい機種ラインナップを揃え、営業を強化していったということですね?

はい、その通りです。

-量産体制について伺わせてください。現在、御社は工場を持って製品を作っているのですか、それともファブレス(自社工場を持たない形態)により委託されているのでしょうか?

基本的にはファブレスです。特許にかかわる重要なパーツに関しては、非常にノウハウが詰まっており、それらは100%弊社で組み立てています。しかし、それ以外はほとんどファブレスで行っており、協力会社や各サプライヤーにお願いしています。

-事業のビジネスモデルとしては、工場で使う機械を納めるという形でよろしいですか?御社で材料を集めて組み立てる形ではないのでしょうか?

一部はそういった形がありますが、ほとんどは機械を納める形です。日本だけでなく、大手企業様とR&D(研究開発)も一緒にさせてもらっています。

-リカーニングビジネス(消耗品販売)も行っているとのことですが、現在の売上比率はどのようになっていますか?

現在はまだ装置販売の売上の方が高いですが、今年から再来年にかけて、これまで仕込んできた種が日本国内外で一気に量産に入るフェーズになるため、消耗品の売上が逆転してくると予想されます。

-ビジネスチャンスという点ですと、 旧来の技術を導入しているお客様をリプレイスしていくというところに需要があるのでしょうか?

一部はありますが、現在はバッテリーメーカーのギガファクトリーが世界各国で増えているため、どちらかというと新しい工場に直接新しい技術として弊社の装置を導入したいというニーズの方が多いです。 他のメーカーさんは直線振動で動いていますが、弊社の技術だけが円形に動いているのが特徴です。これが弊社の独自技術であり、世界唯一の特許技術となっております。

超音波技術の課題と挑戦

-課題について、新しい技術が価格面でネックになる可能性はありますか?

まず、レーザー技術と比較すると、数分の1程度になり、イニシャルコストが圧倒的に安くなります。他の超音波メーカーとの比較では、装置の仕様(駆動部や制御部の構造やモニタリングシステムのスペック等)によりますので単純比較することは難しいですが、お客様の要望を受け、超音波複合振動接合を実現するコアパーツのみをユニット化した形で提供できるよう開発を致しました。これにより、お客様が持たれている、或いは新設する工場のライン設備に組み込んでいただく方式でも提供可能となり、この場合はコストも抑えることができます。また、弊社の消耗品は他社と比べて寿命が3倍から数十倍と長く、単価も安く、ランニングコストも抑えられエコにも繋がるのでそういった点を魅力的に感じていただいています。

-逆に、何かネックになるポイントはありますか?

以前は、超音波で金属接合という技術が世の中に認知されていなかったため、信頼性に疑問が持たれることがありました。しかし、最近はその認知度が高まり、技術的な信頼も実績も積み上げられています。

-これまでの道のりで、他に壁と感じた点や努力された点はありますでしょうか?

資金面が一番の壁でした。大手顧客との取引が多く、実験機の購入から量産に至るまでに1年〜3年かかり、資金繰りが厳しい状況でした。日本企業は導入に慎重でなかなか実績に繋がらなかったのですが昨年ごろから海外市場での需要が急速に拡大し、購入から量産までの動きが速く、売上も伸びています。それにより現在の エンジニアの人数では、部品のアッセンブリやアフターサービスの対応が厳しくなる可能性があります。ですので、現在はエンジニアの拡充を進めています。

今後の未来構想

-今後10年後やそれ以上の未来で、どのような世界を実現したいとお考えですか?

まず、マーケットを重視しなければならないと考えていて、最も貢献できる分野としては、バッテリーやパワーデバイス(半導体)の世界だと思います。 さらに、金属を接合する超音波技術を使用することで、複合振動が非常に有利になります。実は、超音波は破壊の方が得意であるため、例えば超音波カッターなどを用いて、超音波メス医療の開発も進めています。これにより、患者の負担や手術時の負担が軽減されるという利点があります。そういった医療業界にも参入していきたいと考えています。

-患者さんの負担が軽減されるというのは、なぜでしょうか?

超音波メスは超音波振動で生体組織を破砕しますが、血管や神経の重要な組織は弾力性があるので振動を緩和し温存することが可能で、出血や神経障害を抑えられます。 また骨を削る際、一般的に使われているドリルは回転で削るので血管や神経を巻き込む危険がありますが、超音波メスは振動で削るので巻き込む危険は全くありません。

-そのような技術が実用化されるのは、どのくらい先のことでしょうか?

早くて3年程度でしょうか。ただ、認可や薬事承認の問題もあるため、実際には3年から5年くらいかかるかもしれません。 また今後、宇宙デバイスや宇宙関連の分野にも進出していきたいと考えていますが、当面バッテリーで忙しいのではないかと見込んでいます。

-最後に、現在最も関心があることを伺ってもよろしいでしょうか。

日本が、今後どの産業において世界で勝ち残っていけるかに興味があります。日本の製造業、特にものづくりに携わってきて、日本のものづくりは素晴らしいと思っています。一方、かつて日本はバッテリーや半導体の製造で世界トップだったはずですが、現在はそういった分野での地位が低下していています。今後どのように立ち向かっていくべきか、ものづくりの一員として、疑問やもどかしさを感じており、我々が解決を担う一助になれたらと思っています。

氏名
光行 潤(みつゆき じゅん)
会社名
株式会社LINK-US
役職
代表取締役