※株式会社ITID 江口正芳氏の著書『グリーンイノベーションコンパス』=日本ビジネス出版、2023年5月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています。
第1回の本記事では、目標設定やロードマップ策定にあたりやってしまいがちなポイントを紹介します。
ロードマップ策定・現場目標への落とし込み
目標設定において見られがちな例
現状の温室効果ガス排出量や、企業を取り巻く気候関連リスク・機会を分析した後は、目標を設定し、目標達成に向けたロードマップを策定します。
まずは、目標設定・ロードマップ策定において、やってしまいがちな悪い例を説明します。
悪い例①|長期目標が、短中期目標に落とし込まれない
昨今、カーボンニュートラル実現年の目標を設定し、公開する企業が増加しています。しかし、中には、2050年までにカーボンニュートラルを実現することだけが長期目標として掲げられ、2030 年までの温室効果ガス削減量目標や、足元の中期経営計画におけるアクションプランが曖昧な企業が散見されます。
これでは、企業活動は何も変わりません。短期的な利益目標など、これまでと同じKPI(重要業績評価指標)が優先され、業務プロセスも投資判断基準も変わることなく、企業活動が行われることになります。
悪い例②|事業計画と分離された目標
設定ある中小企業では、2030 年までの温室効果ガス削減量の目標値を設定し、年次目標・月次目標に分解して管理していました。短期目標を設定している点では優れた企業でしたが、この企業の温室効果ガスは、削減されるどころか増えてしまっていました。というのも、この企業が販売した新製品がヒットし、生産量が伸びていたからです。
製品の生産量・販売量が増えれば、生産活動における電気使用量も増えますし、材料調達による排出量、製品使用による排出量も増えます。製品の生産量・販売量を無視して、温室効果ガス排出量のみで目標管理してしまった結果、これまで実施してきた温室効果ガス削減活動の良し悪しを判断できず、PDCAを回せない状況に陥ってしまっていました。
また、この企業では、温室効果ガス排出量目標と利益目標がそれぞれ独立して掲げられていたため、相反する意思決定が必要になった場合に、現場はどちらを優先すれば良いか判断できない状況にも陥っていました。例えば、新たな事業の投資において、以下2つの案があった場合に、どちらを選択すれば良いか分からないのです。
- 温室効果ガス排出量は少ないが、見込める利益も少ない事業
- 温室効果ガス排出量は多いが、見込める利益が多い事業
このような問題は、この企業だけに限ったことではなく、多くの企業で見受けられます。
悪い例③|曖昧な現場目標
最後に紹介するのは、企業としてカーボンニュートラル実現年の目標や、2030年までの温室効果ガス削減量の目標を設定しても、その企業目標が現場の取り組み指標に落とし込まれないケースです。
現場の目標が曖昧だと、カーボンニュートラル実現に向けて、開発部門や生産部門は何をすれば良いか、何を目指せばよいか分からず、具体的な活動計画を策定することは困難です。
大手医療機器メーカーにて新製品企画・開発者として、コスト半減設計、新市場開拓、海外工場立上げなどに従事した後、ITIDに参画。
「企業と地球の課題解決」を自身の使命と捉え、脱炭素経営支援、カーボンニュートラル実現に向けた業務プロセス改善、企業向け講演など、経営から現場まで、様々な業界の環境コンサルティングを実施。企業だけでなく、自治体や研究機関への支援も行っている。
他に、経営戦略策定、管理会計、製品原価管理、品質問題未然防止などのコンサルティング、セミナー講師としても活躍中。
NHK製品開発特集番組にも出演。
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(提供:Koto Online)