この記事は2024年4月12日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「ロシア大統領選挙は想定どおりのプーチン大統領圧勝」を一部編集し、転載したものです。
(ロシア連邦統計局「消費者物価指数」ほか)
2024年3月15日から17日にかけ、ロシアの大統領選挙が実施された。20年7月に憲法が改正され、大統領の任期は2期(1期=6年)までとされたが(それ以前は連続2期まで)、改正時およびそれ以前の大統領経験はカウントされないため、現職のプーチン大統領も今回の選挙に出馬することが可能となっていた。
今回の選挙結果はプーチン氏の圧勝で、00年の初当選から通算5回目の当選となる。投票率は77.5%、得票率は87.3%で、得票率、投票率共に目標(投票率70%、得票率80%)を上回り旧ソ連崩壊以降の大統領選挙で最高となった。ただし、反プーチン派の候補者は立候補を認められないなど、圧勝は規定路線だったといえる。プーチン氏は次回の選挙にも出馬可能なため、次回大統領選挙でも勝利すれば36年まで大統領を務めることができる。
ロシアは22年2月にウクライナに侵攻し、経済面では欧米を中心とした西側諸国による経済・金融制裁の影響を受けた。しかし、足元のロシア経済は当初想定されていたほどには落ち込んでいない。
資源輸出による経常黒字がロシア経済を支えている構図は、制裁後もさほど大きくは変わっていない。ロシアの主要なエネルギー輸出先であったEUとの貿易は激減したが、インド・中国向けの輸出が拡大した。資源価格の上昇も追い風になった。ウクライナ侵攻直後は、金融面において資産流出やルーブル安圧力が強まったが、ロシア中銀の資本規制を含む政策により安定化している。西側諸国との取引は急減したものの、これまでのところ経済・金融制裁を乗り切ってきた。
ただし、ロシアでは軍事関連需要による雇用増加や労働者の徴兵、国民の国外逃亡などで人手不足が顕在化。需給がひっ迫したことで、ディマンドプル型のインフレ圧力が、23年以降再び強まっている(図表)。短期的には、このインフレ圧力の抑制が課題になる。長期的に見れば、西側諸国との取引縮小は、ロシアの資産の劣化につながる。最先端の部品や技術が入手困難となり、ロシア国内や第三国で最新技術にキャッチアップできなければ、将来的に高付加価値製品は生産できなくなる。
プーチン大統領は2月29日の年次教書演説で、少子化対策や教育、科学技術の新興、インフラ開発・整備といった社会・経済対策を重視した政策目標を掲げた。併せて資金確保のため、累進課税方式の導入といった税制改革についても言及している。今後は、選挙で国民の信認を得たことを理由に、増税など不人気な政策にも着手するとみられる。
現時点でロシアの経済上の課題が解消されたわけではない。西側諸国との経済・金融関係が切り離されるなか、プーチン大統領がどのような経済運営のかじ取りを行っていくのかが今後も注目される。
ニッセイ基礎研究所 主任研究員/高山 武士
週刊金融財政事情 2024年4月16日号