本記事は、三浦 真氏の著書『考え方には型がある 「答えのない問い」に答えを出す思考法』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

考え方には型がある 「答えのない問い」に答えを出す思考法
(画像=Rossin/stock.adobe.com)

出世を目指して管理職になるか、現場で専門職を続けるか

仕事に関するハードな問いは、「出世を目指して管理職になるか、現場で専門職を続けるか」です。
どちらの道にも利点と課題があり、正解は存在しません。

まずは、「私は仕事では〇〇を目的に、将来△△を実現したい。そして□□を大切に仕事に取り組みたい」の型を利用して、納得できる判断軸を作っていきます。

出発点は、自分の目的を確認することです。
組織で大きな責任を担い、人や会社を動かす立場を目指すのであれば、管理職になることが目的にかないます。
一方、専門性を深め、知識や技術を磨くことに価値を置くなら、現場に残るのが自然な選択です。

次に、将来像を描くことも欠かせません。
思い描くのは、10年後や20年後に、自分がどのように働いていたいかです。
人を育てるリーダーになりたいのか、それとも専門家として一流を目指すのか。
将来像に合わせて方向性は大きく変わります。

価値観も重要な判断基準です。
責任を背負って組織を動かすことにやりがいを感じる人は管理職を選びやすく、専門性を極めることに誇りを持つ人は現場を選びやすいです。

次に、SWOT分析を行うと、自分の適性を整理できます。
「私は仕事での強みは(SS)、弱みは(WW)、外部の機会は(OO)、脅威は(TT)です」を利用しましょう。

強みとして、人をまとめる力や意思決定力があれば管理職に向きますし、高度な専門知識や技術力があれば専門職に向きます。
弱みとしては、リーダーシップに自信がない人は管理職で苦労し、逆に専門性を磨く時間や環境がない人は専門職として伸び悩みます。
外部の機会としては、企業が多様なキャリア選択を支援するようになっていることや、専門職の評価が高まっていることが挙げられます。
脅威としては、管理職には責任の重さによる心身の負担が、専門職には技術革新の速さに取り残されるリスクが考えられます。

最後に、クロスSWOT分析で整理すると大きな方向性が明確になります。
以下を利用しましょう。

  • 強み(SS)を活かし、機会(OO)を生かす積極戦略
  • 弱み(WW)を克服し、機会(OO)をつかむ改善戦略
  • 強み(SS)を活かして脅威(TT)に備える差別化戦略
  • 弱み(WW)と脅威(TT)が重なったら何かをやめる撤退戦略

管理職か専門職かの選択に普遍的な答えはないため、自分の目的や将来像、価値観を軸にして、自分に合った道を選ぶことが判断基準となります。
時期や状況によって答えが変わっても構いません。自分で考え抜き、納得して選んだ道が正解になります。

サザエさんで考える管理職か専門職か

では、先ほども登場したマスオさんを例に、管理職か専門職か考えていきましょう。
マスオさんは、海山商事株式会社の営業課に勤める若手サラリーマン。社内では誠実で真面目、誰からも好かれる存在です。
上司には礼儀正しく、後輩にはやさしく接するため、チームの人間関係を支える縁の下の力持ちのような存在でもあります。
家庭では、妻サザエさん、息子タラちゃん、そして磯野家の両親と暮らす、いわば三世代同居の責任を負っています。

総合商社なので難しいかもしれませんが、もし仮に選べるのであれば、昇進して管理職になることを目指すか、専門職として一つの職能(マスオさんの場合は営業職)を生涯続けるかのどちらかでしょう。

先ほども検討しましたが、マスオさんのミッション・ビジョン・バリューは左記のような内容と考えられます。

  • ミッション…… 信頼を育てること
  • ビジョン…… 家族を安心させながら安定した生活を築きたい
  • バリュー…… 誠実さと調和を大切に

これを公式に当てはめると、「私は仕事では信頼を育てることを目的に、将来は家族を安心させながら安定した生活を築きたい。そして、誠実さと調和を大切に仕事に取り組みたい」となります。

この価値観から見ても、マスオさんは地位や名誉よりも、人との信頼と家族の安心を大切にしているタイプと推測されます。

次にSWOT分析です。
マスオさんの場合は左記のようなSWOT分析になると考えられます。

強み(SS):誠実な営業姿勢と調整力による信頼構築。嘘をつかず真面目に対応し、社内外の人間関係を円滑に保つ力を持っています。これらが営業現場での安定感と顧客からの厚い信頼につながっています。

弱み(WW):控えめな性格と変化への慎重さ。責任の重い立場ではプレッシャーを感じやすく、競争では一歩引いてしまう傾向があります。

機会(OO):専門職制度の拡充や働き方の多様化。ワークライフバランスという言葉が一般化し、価値観も多様化しています。管理職として昇進することだけが成功ではなく、専門職として評価されるキャリアパスも整備されつつあります。こうした時代背景は、マスオさんの志向に合致しています。

脅威(TT):商社業界における競合他社の営業攻勢と価格競争。強引で価格重視の営業手法をとる企業が増加し、値下げ圧力の高まりによって利益率の低下リスクが大きくなっています。また、日本経済はもはや高度成長期のように規模が拡大する時代ではなく、ポストの数が増える傾向にはありません。成果主義が一般化するなかで、昇進ポストは限られ、同期との競争も一層激化しています。

続いて、クロスSWOT分析から四つの戦略を導き出します。

① 積極戦略(強み×機会)= 信頼を軸にした専門職キャリアの確立

マスオさんの強みは、誠実で人から信頼されるところ、そして人間関係を大切にできるところです。
近年は働き方の多様化が進み、昇進して部下をまとめることだけがキャリアアップではなくなってきました。自分の得意分野を伸ばして成果を出す専門職という道も、立派な選択肢の一つです。
マスオさんは、人の信頼を大切にしながらコツコツ努力できるタイプなので、信頼を軸に専門職として実績を積み上げる働き方が、今の社会の流れにも合っています。

② 改善戦略(弱み×機会)= 控えめな性格を魅力に変える働き方

マスオさんは少し控えめで、競争や派手なアピールが得意ではありません。
しかし、今の時代は自分のペースで働くことが尊重されるようになっています。
周りに流されず、自分らしく成果を出せれば、それが一番の魅力となり、同じような性格の後輩にとっても良いお手本になります。
お客様の話をじっくり聞き、本当に必要なものを提案する。そうした誠実な営業スタイルは、控えめな性格を魅力に変える働き方であり、信頼を重視する今の社会にぴったりです。

③ 差別化戦略(強み×脅威)= 誠実な対応で長期的な成果を守る

商社のような会社では、ライバルが多く、数字の競争も激しく、短期間で成果を求められることが少なくありません。そんな環境でも、マスオさんの誠実さや丁寧な対応は、時間がたつほど価値を発揮します。
相手の立場に立って考えられる人は、どの時代でも重宝されます。派手さはなくても、地道に信頼を積み重ねる姿勢こそが、長く仕事を続けるための最大の強みです。

④ 撤退戦略(弱み×脅威)= 無理をせず自分を守るキャリア選択

管理職になれば、チーム全体の責任を背負うことになります。会社内では他部署との競争もあり、経営層と部下との板挟みになることもあるでしょう。そのうえ、仕事量が増え、家族と過ごす時間が減ってしまう可能性もあります。
マスオさんのように控えめな性格で、プレッシャーを感じやすく、家庭を大切にしたいと考える人にとっては、それが大きなストレスになるかもしれません。
自分の性格や生活をよく理解したうえで、無理に昇進を目指さないという判断は、賢明で立派な選択です。

これら四つの戦略を総合すると、マスオさんにとっては管理職よりも、専門職として生きるほうが自然だといえます。
昇進して名刺に部長と書かれるよりも、「あの人なら安心して任せられる」と言われるほうが、マスオさんにとっての誇りになるのではないでしょうか。

専門職としてのキャリアを選べば、無理に他部門との競争に巻き込まれることもなく、自分のペースで経験を積むことができます。
誠実さを大切にしながら、お客様や同僚との信頼関係を築き、家族との時間も守れる。
そんな生き方こそ、マスオさんらしい幸せな働き方といえるでしょう。

考え方には型がある 「答えのない問い」に答えを出す思考法
三浦 真(みうら・まこと)
公認会計士
2006年東京大学経済学部卒業。
2007年監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)東京事務所に入所し、金融事業部にてメガバンクの監査業務に従事。
2012年から2014年にかけて、Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所に出向し、日系金融機関の監査を担当。
2015年に独立して公認会計士事務所を開業。
経営者の意思決定を支えるコンサルティングを中心に、経営顧問、社外役員、CFOなどの業務を幅広く行っている。
経営者団体、国立大学、地方自治体などでの講演・講義活動を通じ、経営を実践するための指導、人材の育成に取り組む。
ミッション・ビジョン・バリューを起点に、戦略的思考と組織の成長を支える経営フレームワークをクライアントの実務に実装している。

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