この記事は2024年5月28日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「連邦議会選の前哨戦が始まるドイツ、極右抜きの連立は限界か」を一部編集し、転載したものです。


連邦議会選の前哨戦が始まるドイツ、極右抜きの連立は限界か
(画像=RomanBabakin/stock.adobe.com)

(INSA「世論調査」ほか)

2025年秋に連邦議会選挙を控えるドイツ。ショルツ首相が率いる中道左派の社会民主党(SPD)、環境政党・緑の党、リベラル政党・自由民主党(FDP)の連立3党がそろって支持を落としている。その中で、政権奪還を目指す中道右派の最大野党・キリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)と共に、反移民や反グリーンを掲げる極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が支持を伸ばしている。

21年秋の連邦議会選挙で10%程度にとどまったAfDの支持率は、最近の世論調査で20%前後に達し、与党勢を上回った(図表)。ショルツ政権は、欧州各国を襲う移民の流入増、脱ロシア・脱炭素を進める過程でのエネルギー価格の高騰、過去数年の景気低迷や物価高による生活苦などの諸問題に対して、連立内の政策相違や不協和音により有効な手立てを打てていない。AfDは、そうした政権への批判票の受け皿となっている。

特に、東西ドイツ統一から30年以上が経過した現在も格差が残る旧東ドイツ地域では、AfDの掲げる政策を肯定的に受け止める有権者が増えており、一定の市民権を得ている。移民規制の強化を訴える新興政党の台頭や、中国のスパイ容疑でAfDの議員スタッフが逮捕されたことなどを受け、AfDの支持率は足元で頭打ちとなっているものの、ドイツ政界で無視できない存在となりつつある。

来秋の連邦議会選挙の前哨戦として注目を集めるのが、今年9月に旧東ドイツのザクセン州、チューリンゲン州、ブランデンブルク州で行われる州議会選挙の行方だ。世論調査では、全3州でAfDが30%前後の支持を得て、第一党となる可能性が示唆される。

ドイツではナチ台頭を招いた歴史的な反省もあり、極右政党に対する国民の不信感がいまだに根強い。主要政党はこれまで、排外主義的な主張が散見されるAfDとの連立や閣外協力を否定してきた。だが、すでにいくつかの小さな地方自治体ではAfD出身の首長が誕生しており、州政府レベルでもAfDの連立参加や政権主導を阻止できるかは予断を許さない。

今のところ、来年の連邦議会選挙での躍進後も、AfDが次期政権に参加する可能性や政策運営に与える影響は限定的との見方が支配的だ。しかしAfDの議会勢力が拡大するなか、同党抜きでの連立発足は選挙ごとに難しさを増す。

こうした中で、政権奪還の機会をうかがうCDU/CSUも難しい選択を迫られる。AfDの政権入りを食い止めるには、支持率が急落するSPDや緑の党と連立を組む以外には選択肢が見当たらない。その場合、連立政権の機能不全で国民の支持を失った現政権の二の舞になりかねない。連邦レベルでも、AfDが政権に参加する日がいずれ来るかもしれない。

連邦議会選の前哨戦が始まるドイツ、極右抜きの連立は限界か
(画像=きんざいOnline)

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト/田中 理
週刊金融財政事情 2024年5月28日号