この記事は2024年6月7日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「オランダに続き、極右政権誕生の可能性が高まるオーストリア」を一部編集し、転載したものです。


オランダに続き、極右政権誕生の可能性が高まるオーストリア
(画像=butenkow/stock.adobe.com)

(オーストリアPaul Lazarsfeld Gesellschaft「世論調査」ほか)

欧州で極右政党への支持が広がっており、一部では政権を主導する国が現れた。昨年の総選挙で反移民・反グリーンを掲げる自由党が第一党となったオランダでは最近、極右主導の連立政権発足で基本合意した。

オランダに続き極右政権の誕生が目されるのが、9月末に総選挙を控えるオーストリアだ。直近の世論調査では、極右政党である自由党(FPO)が、中道右派の国民党(OVP)と中道左派の社会民主党(SPO)を引き離し、第一党となる可能性が示唆される(図表)。単独での過半数には届かないが、自由党抜きの政権発足はもはや困難な状況にある。

1956年に元ナチ党員等が結党した自由党は、ドイツ・ナショナリズムを基調としたリベラル路線を採用していたが、80年代に就任したイェルク・ハイダー党首時代に右傾化。マスメディアを積極活用し、既存政党批判や反移民などの主張で支持を広げ、99年の総選挙で第二党に躍進した。2016年の大統領選挙では、初回投票で自由党のノルベルト・ホーファー候補が首位となり、決選投票で緑の党のアレクサンドル・フォン・デア・ベレン氏に敗れたものの、国際的な注目を浴びた。

第二次世界大戦後のオーストリアは、国民党と社会民主党の二大政党が中心となり政権運営を担ってきた。自由党は1970~71年に社会民主党政権を閣外協力し、83~87年に社会民主党が主導する連立政権に始めて参加。2000~07年、17~19年にも、国民党が主導する連立政権に加わったことがある。政権への参加は初めてではないが、世論調査どおりに第一党となれば、同国史上初の極右政権が誕生する可能性がある。

前回17年に国民党のセバスティアン・クルツ首相(当時)が率いる連立政権に加わった際は、自由党党首で、副首相だったクリスティアン・シュトラッヘ氏に便宜供与疑惑が浮上。連立政権は1年半足らずで崩壊した。同氏は、17年夏に地中海の保養地イビザの別荘で、ロシアの財閥関係者とされる人物と面会。19年の前回欧州議会選挙の直前には、選挙支援の見返りに公共事業の発注などで便宜を図る考えを示唆したやり取りの隠し撮りをドイツメディアが報じた。

それから5年、疑惑発覚直後に10%台前半に落ち込んだ自由党の支持率は、30%前後まで急回復している。オーストリアでは22年の難民申請者が10万人を超え、15年の難民危機時を上回る。これが、移民規制や国境管理の強化を訴える自由党の追い風となっている。

21年には、クルツ首相が大衆紙に与党寄りの報道をさせるために公金を使った疑惑で辞任に追い込まれ、今年2月に汚職調査に絡む偽証罪で有罪判決を受けた。こうした主流派政党のスキャンダルや、過去数年の景気低迷や物価高騰に対する有権者の不満も、自由党の支持拡大につながっている。

オランダに続き、極右政権誕生の可能性が高まるオーストリア
(画像=きんざいOnline)

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト/田中 理
週刊金融財政事情 2024年6月11日号