この記事は2024年10月18日に「The Finance」で公開された「小切手廃止はいつ?必要な対応は?~廃止の背景と今後の金融システムの変化~」を一部編集し、転載したものです。


長年にわたり日本の金融取引で重要な役割を果たしてきた小切手。しかし、デジタル化の波が押し寄せる中、その存在意義が問われています。本記事では、小切手廃止の時期、その背景、そして企業や個人が取るべき対応策について詳しく解説します。さらに、小切手の廃止が今後の金融システムにどのような影響を与えるのかについても考察していきます。

目次

  1. 小切手廃止の時期
    1. 小切手廃止はいつ?スケジュールは?
    2. 各金融機関における小切手の全面的な電子化に向けた各種対応について
  2. 小切手廃止の背景
    1. 小切手の歴史と役割
    2. なぜ小切手が廃止されるの?理由は?
  3. 企業や個人に求められる対応
    1. 代替決済手段への移行
    2. 小切手の代わり:「でんさい」って?
    3. 取引先との調整
    4. 社内教育
    5. 顧客への周知
  4. 今後の金融システムの変化
    1. 2026年に向けた変革の流れ
    2. キャッシュレス化の加速
    3. フィンテックの発展
    4. データ活用の拡大
    5. 国際競争力の向上
    6. セキュリティ強化の必要性
  5. 課題と展望
    1. デジタルディバイドへの対応
    2. 法制度の整備
    3. 新たな金融サービスの創出
    4. グローバルスタンダードへの対応
  6. おわりに

小切手廃止の時期

小切手廃止はいつ?必要な対応は?~廃止の背景と今後の金融システムの変化~
(画像=HappyHues/stock.adobe.com)

小切手廃止はいつ?スケジュールは?

政府は2026年までの約束手形の利用廃止、小切手の全面的な電子化の方針を示しています。

参照:一般社団法人全国銀行協会「2026年度末までに紙の手形・小切手の全面的な電子化(チラシ)」

小切手廃止の歩みと今後のスケジュール

2021年
– 全国銀行協会が自主行動計画を策定
– 政府の成長戦略実行計画に、5年後を目途に約束手形の利用廃止と小切手の全面的な電子化を図ることが明記される

2022年11月
– 金融機関間の手形・小切手の電子交換システムが稼働開始

2023年
– 政府が約束手形・小切手の利用廃止に向けたフォローアップを実施
– 11月:全国銀行協会が「決済・経理業務の電子化推進強化月間」を実施
– 12月時点:175の金融機関が電子化に関する広告を実施済みまたは実施予定

2024年1月4日
– 一部の銀行で、新規当座預金口座開設時の紙の手形・小切手発行停止開始
– 2027年4月以降を期日とする手形・小切手の取立受付停止開始

2024年度~2026年度
– 毎年約822万枚の手形・小切手削減を目標

2026年度末(2027年3月末)
– 全国銀行協会の目標:電子交換所における手形・小切手の交換枚数を0に

2027年4月以降
– 期日管理を伴う手形・小切手の取立完全停止

各金融機関における小切手の全面的な電子化に向けた各種対応について

金融機関が実際に行っている取り組みを事例に、手形・小切手の電子化に向けた動きを見ていきましょう。

みずほ銀行

①当座勘定を新規で開設いただいたお客さまについて、紙の手形・小切手の発行を停止
2024年1月4日(木)以降に当座勘定を新規で開設いただいたお客さまについて、紙の手形・小切手の発行を停止します。

②2027年4月以降を期日とする手形・小切手の取立受付を停止
2024年1月4日(木)より、2027年4月以降を期日とする取立手形等(2027年4月以降を振出日とする先日付小切手も含む)について、代金取立(期日管理)を停止します。2027年4月以降を期日とする取立手形等の受付は、2023年12月29日(金)を最終日とさせていただきます。

③2026年度までに手形・小切手の全面的な電子化を目指します

みずほ銀行「手形・小切手の全面的な電子化に向けた各種対応について」

三菱UFJ銀行

①手形・小切手の発行受付終了 受付終了日:2025年9月30日(火)
2025年9月30日(火)をもって、ご利用中の当座勘定を対象に手形・小切手の発行受付を終了します。
また、お客さまにご指定をいただいた内容にて加刷した手形・小切手(事前加刷手形・小切手)についても、2025年3月31日(月)をもって、発行受付を終了します。
2024年1月4日(木)以降に開設いただく当座勘定は、手形・小切手の発行受付を行っておりません。

②他行を支払地とする手形・小切手の預金入金扱い受付終了 受付終了日:2026年3月31日(火)
2026年3月31日(火)をもって、他行を支払地とする手形・小切手の預金入金を終了します。
入金先の口座は、当座勘定の他、普通預金、定期預金等各種預金を含みます。

三菱UFJ銀行「手形・小切手の全面的な電子化に向けた取り組み」

三井住友銀行

①手形・小切手帳の発行を終了
2025年9月30日(火)をもって、手形・小切手帳の発行申込の受付を終了します。

②手形・小切手の振出期限を設定
当座勘定からの支払を目的とした手形・小切手の振出期限を2026年9月30日(水)とします。期限以降に振出された手形・小切手は、当座勘定からの支払ができません。
2019年10月~2024年9月に弊行より販売した未使用の手形・小切手については、今後、一定の条件を満たすものはご希望に応じて買戻しする予定です。買戻しについての詳細は、2025年3月を目途にホームページにてご案内します。

③手形・小切手等の取立(入金扱)手数料を新設
2025年10月1日(水)以降、手形・小切手・定額小為替による口座への入金受付時に、「取立(入金扱)手数料」を頂戴します。


三井住友銀行「手形・小切手の発行終了等に関するお知らせ」

小切手廃止の背景

小切手の歴史と役割

小切手は、金融取引の一形態として長い歴史を持ち、その役割は多岐にわたります。起源は諸説ありますが、古代メソポタミア時代にさかのぼるともいわれ、商取引の簡素化を目的に発展しました。中世ヨーロッパでは商人間での信用取引を円滑に進める手段として用いられ、銀行業の発達とともにその重要性が増していきました。現在でも、多くの国で商業取引や個人間の支払い手段として利用されています。

小切手の基本的な役割は、現金を持ち歩くリスクを軽減し、取引の安全性と効率を高めることです。特に大口取引においては、現金の受け渡しが困難な場合が多いため、小切手は重要な決済手段となっています。また、支払いの証拠として法的な効力を持つため、企業会計における記録管理にも役立っています。

さらに、小切手は一定の信用をもとに発行されるため、発行者と受取人の間に信頼関係が築かれることが求められます。この信頼関係は、金融取引の基礎を形成する重要な要素であり、取引の健全性を保つ役割を果たしています。しかし、技術の進化に伴い、電子決済やオンラインバンキングなどの新しい手段が台頭し、小切手の利用は徐々に減少しています。それにもかかわらず、小切手は歴史的に見ても、金融システムの発展に寄与してきた重要な手段であることに変わりはありません。

なぜ小切手が廃止されるの?理由は?

小切手が廃止される理由は、主に効率性コスト削減、そしてセキュリティの観点から来ています。

小切手の処理には多くの手間と時間がかかります。銀行や企業は小切手を受け取った後、手作業での確認や処理が必要で、これはデジタル決済に比べて非効率です。また、紙ベースの小切手は印刷や郵送にコストがかかり、これが累積すると経済的負担になります。インターネットバンキングやモバイル決済といった電子的な決済手段は、小切手に比べ、スピーディーで、記帳や保管の手間も少なく、より効率的です。

セキュリティ面でも、小切手は偽造や不正利用のリスクが高いとされています。
特に、署名の偽造や情報の盗難が問題となり、これに対処するためのセキュリティ強化策が必要です。しかし、これにはさらなるコストと労力を要します。これに対して、デジタル決済は高度な暗号化技術を採用しており、安全性が高く、リアルタイムでの監視も可能です。

こういった要因が重なり、政府や金融機関は小切手の廃止を進める方針にシフトしています。これにより、金融システム全体の効率化が図られ、より迅速で安全な取引環境が整備されることが期待されています。

企業や個人に求められる対応

代替決済手段への移行

小切手廃止に向けて、企業や個人は代替となる決済手段への移行を進める必要があります。主な代替手段としては以下が挙げられます。

1. 振込:最も一般的な代替手段。定期的な支払いには口座振替も有効。
2. 電子記録債権(でんさい):手形の代替として、特に企業間取引で注目されている。
3. クレジットカード決済:個人取引や小規模事業者向け。
4. デビットカード:即時決済が可能で、クレジットカードを使いたくない場合に有効。
5. 電子マネー:少額決済に便利。

小切手の代わり:「でんさい」って?

「でんさい」とは、「電子記録債権」の略称で、企業間取引などで利用される新しい決済手段の一つです。従来の紙の手形や小切手に代わり、電子的に債権情報を管理することで、取引の迅速化やコスト削減の実現や、金融機関のシステムを通じて記録されることで、発行や譲渡などの取引をスムーズに行い、書類の紛失や偽造のリスクを大幅に減少させます。また、資金繰りの透明性が向上し、資金管理が効率化されるため、多くの企業が導入を進めています。

でんさいの大きな利点は、手続きがオンラインで完結する点です。物理的な移動や郵送の手間がなくなり、取引のスピードが劇的に向上します。また、電子記録のため、リアルタイムでの状況確認が可能であり、資金の流れを常に把握できるようになります。

でんさいは、特に中小企業にとって、資金調達の手段としても有効です。電子化により、取引の透明性が増すことで信用度が向上し、金融機関からの評価も高まるため、より有利な条件での融資が受けられる可能性が広がります。今後、キャッシュレス化が進む中で、でんさいの利用はますます増加すると予測されており、企業はこの流れに対応するための準備が求められています。

取引先との調整

小切手を頻繁に利用している取引先がある場合、早めに代替手段について協議を始めましょう。長期的な取引関係にある相手との間では、スムーズな移行のために十分な準備期間を設けることが望ましいでしょう。

社内教育

従業員に対して、小切手廃止の背景や新しい決済手段の使用方法について教育を行うことも必須となってきます。経理部門や営業部門など、日常的に決済業務に携わる部署では、十分な理解と習熟が求められます。

顧客への周知

小売業やサービス業など、一般消費者を顧客に持つ企業は、小切手での支払いが不可能になることを事前に周知する必要があります。ウェブサイトやポスター、請求書への記載など、様々な方法で情報を発信しましょう。

今後の金融システムの変化

2026年に向けた変革の流れ

2026年に向けて金融システムは大きな変革を迎えようとしており、これまでの紙ベースの取引や手続きが、デジタル技術の進化により急速に電子化されることで、より効率的で安全なシステムへと移行しています。
特に注目されるのは、電子マネーやデジタル通貨の普及です。各国の中央銀行がCBDC(中央銀行デジタル通貨)の導入を検討しており、これにより現金の使用が減少し、即時決済の普及が進むと予測されています。

キャッシュレス化の加速

小切手廃止は、日本社会のキャッシュレス化をさらに加速させる要因となるでしょう。現金や小切手といった物理的な決済手段から、電子的な決済手段へのシフトが一層進むことが予想されます。

フィンテックの発展

小切手廃止を契機に、新たな決済サービスや金融テクノロジーの開発が進む可能性があります。特に、中小企業向けの資金調達や決済サービスなど、これまで小切手が担ってきた機能を代替・拡張するサービスの登場が期待されます。

データ活用の拡大

小切手が廃止されると、手作業でのデータが減少し、電子的な決済データが増加します。電子決済の普及により、取引データの蓄積と活用が容易になるため、与信判断やマーケティング、経営分析など、様々な分野で活用される可能性があります。

国際競争力の向上

小切手廃止によるコスト削減と効率化は、日本の金融システム全体の国際競争力向上につながる可能性があります。海外企業との取引においても、よりスムーズな決済が可能になるでしょう。

セキュリティ強化の必要性

電子的な決済手段の普及に伴い、サイバーセキュリティの重要性が一層高まります。金融機関や決済サービス提供企業は、より高度なセキュリティ対策を講じる必要があるでしょう。

このように、技術革新の波により、金融業界は顧客との新しい接点を模索し、より柔軟で革新的なサービスを提供する必要があります。特に、モバイル決済やe-Walletの利用が増加する中で、金融機関はセキュリティ対策を強化し、ユーザーフレンドリーなインターフェースを開発することが重要です。2026年を見据えたこれらの動きは、金融機関にとって新たなビジネスチャンスを生む一方で、従来の業務プロセスを再構築し、競争力を維持するための挑戦でもあります。

課題と展望

デジタルディバイドへの対応

高齢者や中小企業の中には、デジタル化に対応できない層が存在します。こうしたデジタルディバイドへの対応が社会的な課題となる可能性があります。金融教育の充実や、使いやすいインターフェースの開発など、きめ細かな対策が求められます。

法制度の整備

電子的な決済手段の普及に伴い、既存の法制度の見直しや新たな規制の導入が必要になる可能性があります。特に、データ保護やプライバシー、消費者保護の観点から、適切な法整備が求められるでしょう。

新たな金融サービスの創出

小切手廃止を単なる「廃止」ではなく、新たな金融サービス創出の機会と捉えることが重要です。例えば、ブロックチェーン技術を活用した新しい決済システムや、AIを利用した与信判断サービスなど、革新的なサービスの登場が期待されます。

グローバルスタンダードへの対応

日本独自の商慣習や決済システムを見直し、グローバルスタンダードに合わせていくことも重要な課題です。国際的な決済システムとの互換性を高めることで、海外展開を目指す日本企業の競争力向上にもつながるでしょう。

おわりに

小切手廃止は、一見すると単なる決済手段の変更に過ぎないように思えるかもしれません。しかし、その影響は金融システム全体、さらには日本の経済社会にまで及ぶ可能性があります。

企業や個人は、この変化を前向きに捉え、新たな決済手段への移行を進めるとともに、デジタル化がもたらす機会を最大限に活用することが求められます。同時に、誰も取り残されることのない、包括的な金融システムの構築を目指す必要があります。

小切手廃止は、日本の金融システムの近代化における重要なマイルストーンとなるでしょう。この変化に適切に対応し、より効率的で安全な金融取引の実現に向けて、社会全体で取り組んでいくことが重要です。


[寄稿]TheFinance編集部
株式会社セミナーインフォ