この記事は2025年5月16日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「企業の設備投資は慎重姿勢、25年度は直近5年間で最低に」を一部編集し、転載したものです。


企業の設備投資は慎重姿勢、25年度は直近5年間で最低に
(画像=Who is Danny/stock.adobe.com)

(日本銀行「全国企業短期経済観測調査」ほか)

「短観(3月調査)」で示された2025年度の設備投資計画(全規模・全産業、ソフトウエア・研究開発を含み、土地投資を除く)は、前年度比2.2%増となった。プラスの計画ではあるものの、翌年度計画が初めて示される3月調査としては、21年度以降で最も低い伸び率となった(図表)。

短観の設備投資計画は名目ベースの計画となる。資本財の価格動向等を読み解くと、24年度後半の投資コストは前年比2%台後半程度の上昇であると考えられる。25年度も同程度の上昇が続くと仮定すると、実質ベースの計画はマイナスともいえる状況だ。初回の3月調査は保守的な数字になりやすい傾向があるとはいえ、企業の設備投資姿勢が慎重化した可能性を示唆するやや弱めの結果となった。

この要因を考えると、まず国内外の事業環境、特に米国を巡る不確実性の高まりが影響したことが挙げられる。米国が相互関税の詳細を公表する前の3月調査において、関税政策の影響がどの程度設備投資計画に織り込まれているかは定かでない。しかし、ドナルド・トランプ米大統領の就任以降の関税を巡る動きは想定以上に急進的かつ流動的だった。先行きの不透明感が強まり、企業の設備投資マインドが委縮した可能性がある。

投資コストの上昇も設備投資の重しになっているとみられる。短観と同様に設備投資計画が調査される内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」では、年度末の1~3月期調査において「今年度における設備投資計画と実績見込みとの乖離理由」を調査している。大企業・全産業ベースで見ると「当初の計画どおりのため、特に理由なし」との回答を除けば、23年度までは「景気や業況の見通しの変化」が重要度1位だった。しかし、「設備投資にかかるコストの変化」の重要度が年々上昇し、24年度には1位に躍り出た。

短観の設備投資計画には、調査回ごとに平均的な修正パターン(統計のクセ)が見られる。3月調査から6月調査にかけて、大企業を中心に未定案件の確定分や前年度からの繰り延べ分などが計画に反映され、上方修正される傾向がある。21~24年度の上方修正幅は平均7.8%ポイントであり、25年度も同程度の上方修正となれば、6月調査では10%程度になることも視野に入る。

ただ、投資コストの上昇継続が見込まれ、米国の関税政策を巡る不確実性が一段と高まるなか、平均的な修正パターンに沿って25年度の設備投資計画が上振れるかは極めて不透明だ。企業収益は堅調で、人手不足の強まりを背景に省人化・デジタル化投資の需要は大きいが、当面は設備投資の下振れリスクに目配りが必要だろう。

企業の設備投資は慎重姿勢、25年度は直近5年間で最低に
(画像=きんざいOnline)

SBI新生銀行 グループ経営企画部 金融調査室 シニアエコノミスト/森 翔太郎
週刊金融財政事情 2025年5月20日号