この記事は2025年6月20日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「労働市場データの整備で、政策効果の明確性が高まるインド」を一部編集し、転載したものです。


労働市場データの整備で、政策効果の明確性が高まるインド
(画像=amazing studio/stock.adobe.com)

インド準備銀行(RBI)は6月4日から6日に開催した金融政策決定会合で、政策金利を6%から5.5%へと、市場予想を上回る大幅な利下げを決定した。RBIは利下げの理由として景気の下支えのほか、インフレ見通しの引き下げを挙げ、2025~26年度のインフレ予想を4%から3.7%に引き下げた。

12日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は前年比2.8%上昇となり、RBIの見通しを大幅に下回ってインフレ鈍化を印象付けた。RBIは、今回の会合で今後の利下げペースを緩めることも示唆した。そのため、次回8月の会合では政策金利を据え置く公算は高いが、筆者は年内にも追加利下げを見込んでいる。

RBIの金融政策の決定に当たって、経済成長とインフレ動向の分析に、実質GDP(国内総生産)とCPIが用いられている。一方で、RBIの声明文を見ても、労働市場についての言及に乏しい。というのも、インドでは労働市場のデータ整備が遅れているからだ。

もちろん、インドの労働市場データが決してなかったわけではない。公的部門では、インド統計・計画実施省が定期労働力調査(PLFS)を実施している。一方、民間部門では、調査会社のインド経済監視センターが月次データを提供している。

PLFSはこれまで、失業率を全国レベルでは年次ベース、都市部に限れば四半期ベースで公表してきた。しかしRBIは通常年6回金融政策決定会合を開催するため、年次ベースの失業率データは分析に使いづらい。また、公的部門と民間部門の労働指標は、労働者の定義が異なるなど比較が容易ではなく、使い勝手が悪かった。

公的部門が月次データを公表することが待ち望まれるなか、インド政府は失業率や労働参加率などのデータ公表を5月から開始した。そのデータによると、全国の4月の失業率(全体)は5.1%だった(図表)。地域別構成は、都市部の6.5%に対して農村部は4.5%と地域格差があるほか、都市部の女性の失業率が高いことも分かった。

インド政府は、月次統計を公表するに当たり、データのサンプリング方法も変更した。そのため、23~24年度の失業率は年次で4.9%だったが、月次の失業率と単純に比較できない点に注意する必要がある。

5月には労働参加率(15歳以上、全国レベル)も公表され、女性は34%で男性(78%)の半分以下だった。インドでは特に近年、都市部の女性の学歴が高くなっているが、依然として就職には男女差が残っている。

筆者は、インドで女性の職場進出を向上させる政策がより積極化すれば、潜在成長率を中長期的に押し上げる可能性があると見込んでいる。政策の効果を見守る上で有用とみられる月次データの利用が進むことを期待したい。

労働市場データの整備で、政策効果の明確性が高まるインド
(画像=きんざいOnline)

ピクテ・ジャパン ストラテジスト/梅澤 利文
週刊金融財政事情 2025年6月24日号