建設現場で活躍する巨大な重機からカラーコーンまで、その多くがレンタル品であることをご存じだろうか。建機レンタル業界は、約2兆円ともいわれる巨大市場でありながら、その商習慣は電話やFAXといったアナログな手法が根強く残る領域だ。
このニッチかつ巨大な市場のDX化を力強く推進し、業界の新たな可能性を切り拓いているのがSORABITO株式会社である。中古建機のインターネット売買から事業をスタートし、業界の深い課題解決へと事業を転換。現在は業界シェア5割を占めるほどのSaaS企業へと成長を遂げた。
目次
中古建機売買からDX支援へ。SORABITOの挑戦の軌跡
── 現在、建機レンタルという非常に専門的な領域で、業界のDXを力強く推進されています。どのように事業をスタートされたのでしょうか。
博多氏(以下、敬称略) 創業者である会長の青木(隆幸氏)は、愛知県で代々続く建設会社の家系で育ち、建設現場を手伝うなかで「この業界の役に立つ仕組みを作りたい」という想いから起業しました。
創業当初は、現在とは少し違う事業からスタートしています。それは、中古建機のインターネット売買、マーケットプレイスやオークション事業です。青木が実家にあった機械を売却した資金を元手に始めたという経緯もあり、最初は中古建機の取り扱いから始まりました。
── そこから現在の主力事業であるDX支援へと移行されたと。
博多 ご理解いただきたいのが、建設現場で稼働している機械、ちょっとした小物機械からいわゆる重機まで含め約7割は、実は建設会社のものではなく、建機レンタル会社が所有し、貸し出しているものだということです。グローバルでも先進国を中心に、メンテナンスや稼働率の観点から、レンタルが主流という少し特殊な業界構造になっています。
そのため、中古建機を扱ううえでも、お客様はレンタル会社が中心でした。お付き合いが深まるなかで、多くの経営者の方から「ITの力があるなら、中古売買だけでなく、もっと業務を効率化することにも協力してほしい」といったお悩みをいただくようになったのです。
当時のレンタル業界では、注文は電話かFAX、在庫管理はホワイトボードに機械に見立てたマグネットを貼って行い、点検は紙とデジカメで管理というのが当たり前でした。こうしたアナログな業務をもっと良くできないか、という相談が数多く寄せられたことが、私たちの事業がDX支援へと舵を切る大きなきっかけとなりました。
事業転換の決断と、圧倒的な現場理解力が生む競合優位性
── 中古売買事業から、SaaSモデルであるDX支援事業への転換には大きな決断が必要だったかと思います。その決め手は何だったのでしょうか。
博多 中古売買事業は、インターネットを活用することで、中古流通の半分を占める海外のバイヤーにも販路を広げ、高値での売却を実現できるというメリットがありました。
しかし事業を伸ばしていくなかで、お客様からは「早く現金化したい」というニーズが強く、結果として私たちが在庫を買い取り、オークションで売却していくモデルが最も成長することが見えてきました。
ただ、このモデルはスタートアップの戦い方としては資本力のある企業が有利です。それならば、当時、まさに需要が顕在化し始めていたDX支援の領域にリソースを集中させようと決断しました。業界の課題に、より深く貢献できるのはどちらか、という視点が決め手でしたね。
── DX支援のサービス「i-Rental」が支持されているそうですね。
博多 2020年に立ち上げたのが、レンタル会社向けのDXの仕組みである「i-Rental(アイレンタル)」シリーズです。
オンラインでレンタルの受発注やレンタル中の機械を把握できる「i-Rental 注文」から始まり、2023年には、貸出時と返却時に行う点検業務をデジタル化する「i-Rental 点検」をリリースしました。これまで紙とデジカメで行っていた点検作業を、スマートフォンやタブレットで完結できるようにしました。
最近はこの「i-Rental 点検」が非常に好評ですが、リリースした直後から大手のゼネコンからも「建設現場の点検でも使えないか」というお声をいただき、2024年には建設会社向けの「GENBAx点検」というサービスもリリースしました。「はたらく機械」を軸に、レンタル会社から建設会社へと、サービス領域を広げてきた形です。
── 貴社の競合優位性はどこにあるとお考えですか。
博多 よく比較頂くのは、お客様による「自社開発」です。レンタル業務はイレギュラーな処理が非常に多く、業務フローが驚くほど複雑です。大手SIerが開発を途中で断念してしまうほどで、この業務に深く入り込んでシステムを構築できる企業は、ほとんど存在しません。
私たちは創業以来、この業界にどっぷりと浸かり、お客様や現場の皆さんと対話を重ねてきました。「SORABITOは現場をよくわかっている」とお客様に言っていただけることが、何よりの喜びであり強みであり、その強みを活かしたSaaS化は他社に対する参入障壁になっていると考えています。
現在、私たちの「i-Rental」シリーズは、レンタル業界の売上シェアでいうと約5割の企業に導入いただいており、業界のスタンダードになりつつあります。
ビジョンを語る会長と、実行する社長。最強タッグで業界変革を加速
── 博多社長は2代目でいらっしゃいますが、創業者である青木会長との役割分担はどのようになっているのでしょうか。
博多 青木は、その生い立ちもあって、この業界の皆の共感を得る力が非常に強い、まさに業界を協創していく仲間を創り出す役割です。一方の私は、業界の声を元にビジョンを策定して具体的な戦略に落とし込み、実行していくことを得意としていると感じています。そうした役割分担が自然とできています。
また、社長交代には営業戦略的な側面もあります。この業界は、顔を合わせてミーティングし信頼関係を構築していくことが極めて重要です。その際に「会長」と「社長」という二枚の強い名刺があったほうが、より強固な関係を築ける。二人三脚でトップ外交を推進していくことで、事業成長を加速させています。
── 社長に就任されるまで、さまざまなご経験を積まれたとうかがいました。
博多 財務担当として入社し、CFO、事業部長、プロダクト部長と、さまざまな役職を経験したうえで社長に就任しました。会社のほぼ全員と一緒に仕事をしたことがあり、会社の全体像も深く理解したうえでの就任でしたので、社内のハレーションもなく、スムーズな移行ができたと思っています。
異業種連携で見据える「レンタルの民主化」とサービスの進化
── 今後のマーケティングやサービス展開について、どのようにお考えですか。
博多 レンタル業界に対しては、これまでどおり、業界の主要企業一社一社と丁寧に関係値を築いていく営業スタイルが最も効果的です。おかげさまで、業界内でSORABITOを知らない企業はほとんどない、という状況を築けています。
一方で、建設会社向けの「GENBAx点検」については、まだ建設業界において認知度が低いため、展示会への出展などを通じて、まず知っていただく活動に力を入れています。大小含めて年間で二桁以上の展示会に出展していますね。
そして、もう一つ我々ならではの取り組みとして、レンタル会社との連携による拡販も進めています。現場の機械を最もよく知っているのは、それを貸し出しているレンタル会社です。業界最大手のアクティオ様が、大手ゼネコン各社に「GENBAx点検」を提案してくださるなど、パートナーシップを活かした展開も始まっています。
── サービスを今後どのようにブラッシュアップしていくご予定でしょうか。
博多 「i-Rental」も「GENBAx点検」も、お客様からいただく「もっとこうしたい」という声を製品に反映し続ける、ということに尽きます。この2年間で「i-Rental 点検」は300件以上、「GENBAx点検」は100件以上のアップデートを行ってきました。
ただし、何でもかんでも開発するわけではなく、「はたらく機械」とその周辺領域の課題解決につながるか、という軸はブレないようにしています。
私たちのサービスはまだ完成形ではありません。私たちが掲げるビジョンは「はたらく機械のエコシステムを共創する」こと。つまり、機械がもっと便利に、多くの人に活用される環境を作ることです。その実現のため、レンタルをもっと身近にする挑戦も始めています。
昨年からは、ホームセンターのカインズ様と提携し、店頭で一般のお客様が発電機や整地用の機械などを気軽にレンタルできるサービスを開始しました。現在40店舗で展開しています。また、ご出資いただいたENEOS様のガソリンスタンドでレンタルできるような世界観も構想しています。建設業界のプロだけでなく、誰もが機械の恩恵を受けられる「レンタルの民主化」を進めていきたいと考えています。
3つのバリューで少数精鋭の組織づくり
── 組織運営で意識されていることはありますか。
博多 「自走できる人」、つまり、自ら課題を見つけて考え、手を動かして実行できる人材を採用しています。そうしたメンバーが集まっているので、お互いをリスペクトしあう文化ができていますね。非常に嬉しいことに、入社の決め手として、ほとんどの社員が「人」を挙げてくれます。
ただ、苦労した点もお伝えした方がいいと思うのであえて付け加えると、優秀な人材が集まるがゆえの難しさもあります。会社としての方針が明確に定まっていないタイミングでは、それぞれが自身の正しいと思う方針で自走した結果、組織が崩壊しかけた経験もありました。その反省から、現在は「人のために」「やってみる」「やりきる」という3つのバリューを再設定し、この価値観にフィットする人材だけを採用しています。その上でビジョンを繰り返し社内で発信するようにしています。また、毎月の全社会議で会社の方針をオープンに共有するなど、意識統一の機会を大切にしています。
組織をむやみに大きくするつもりはありません。現在も40人弱の少数精鋭で事業を運営しています。一人ひとりの生産性を高め、質の高いサービスを提供し続けたいと考えています。
── 2兆円という市場規模以上に、この業界が秘める大きな可能性を感じました。これから描いていく成長ストーリーと、その実現に向けた展望をお聞かせください。
博多 これまでも、単なる資金調達ではなく、事業を一緒に作っていくパートナーとなってくださる企業からご出資をいただいてきました。今後もこのスタンスは変わりません。そして、将来的にはIPOを目指しています。誰もが使うオープンな仕組みを、透明性の高い形で提供できる会社でありたいからです。
事業としては、既存のレンタル会社、建設会社の業務効率化をさらに推し進めると同時に、先ほどお話しした「レンタルの民主化」を本格的に進めていきます。建機レンタル業界が持つポテンシャルを解放し、この2兆円市場をさらに拡大させていく。それが私たちの使命です。
長い歴史があり裾野も広いリアルな業界に向けたサービスであるため、他のスタートアップのようにある日突然急成長するわけではありませんが、社会インフラを支えるうえで、決してなくなることのない、着実に成長していく市場です。時間がかかっても、一歩一歩、着実に信頼を積み重ねていく。私たちの挑戦に、ぜひ期待していただきたいと思います。
- 氏名
- 博多 一晃(はかた かずあき)
- 社名
- SORABITO株式会社
- 役職
- 代表取締役社長