この記事は2025年12月12日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「国内の物価は高止まりが続くも、年度末にかけては2%割れへ」を一部編集し、転載したものです。
(総務省統計局「消費者物価指数」)
2025年10月の全国の消費者物価指数(前年比)は、総合指数が3.0%上昇となった。前月から上昇率が0.1%ポイント拡大し、3カ月ぶりに3%台に乗せた(図表)。日本銀行の物価安定目標である2%を上回り、高止まりの様相を示す。
この背景を探ると、第一に、食料インフレの鈍化ペースが緩やかな点がある。食料価格(生鮮食品を除く)は7.2%上昇となり、上昇率は前月から0.4%ポイント縮小した。7月の8.3%をピークに上昇率は縮小傾向にあるが、そのペースは非常に緩慢である。10月は半期の価格改定月に当たるため、多くの品目で値上げが行われたとみられる。人件費や物流費の上昇、輸入物価の高止まりといった高コスト環境が継続する中で、企業の積極的な値上げ姿勢が続いていることが示唆される。
第二に、物価の基調も底堅い点がある。代表的な基調的物価指標の一つである、食料(酒類を除く)およびエネルギーを除く総合指数は1.6%上昇となり、前月から上昇率が0.3%ポイント拡大した。耐久財価格のディスインフレ傾向に歯止めがかかったほか、サービス価格も上昇率が拡大し、総じて底堅い推移となった。なお、同指数は1%台の上昇が1年半続いているものの、2%には達しておらず、足元の物価高止まりは食料価格の上昇によるところが大きい。
続く11月も物価の高止まりが続きそうだ。速報性の高い東京都区部の中旬速報値では、11月の総合指数は2.7%上昇となり、10月から上昇率が横ばいとなった。食料インフレの鈍化ペースの緩やかさや基調物価の底堅さといった傾向もおおむね不変である。
一方で、今年度末にかけての物価上昇率は鈍化方向で推移すると見通される。食料価格のピークアウトが曲がりなりにも続くと予想されることに加え、政府が掲げる物価高対策の効果が発現するためである。
政府の試算に基づけば、総合指数は年末に予定されるガソリン税の暫定税率廃止によって▲0.3%ポイント程度押し下げられる見込みだ。加えて、26年1~3月に実施される電気・ガス料金負担軽減支援事業によって、2~4月はさらに▲0.4%ポイント程度押し下げられるとみられる。今年度末にかけて総合指数は、約4年ぶりに2%を割り込む公算が大きい。
もっとも、物価のリスクバランスの観点では、上振れリスクが大きい状況が続きそうだ。高コスト環境の継続や企業の価格転嫁姿勢の定着を踏まえると、食料インフレの鈍化ペースが緩やかなものにとどまり、物価全体を押し上げる可能性がある。最近の円安進行によって再び輸入インフレ圧力が強まれば、食料品のみならず幅広い品目の上振れ要因となることにも留意する必要があろう。
SBI新生銀行 グループ経営企画部 金融調査室 シニアエコノミスト/森 翔太郎
週刊金融財政事情 2025年12月16日号