この記事は2026年2月18日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:高市政権は緊縮志向の投資不足による経済停滞を成長投資の積極財政で脱する」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
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目次

  1. 高市政権は緊縮志向の投資不足による経済停滞を成長投資の積極財政で脱する

高市政権は緊縮志向の投資不足による経済停滞を成長投資の積極財政で脱する

  • 高市政権は、衆議院選挙で大勝したことで、抵抗勢力を廃する「行き過ぎた緊縮政策の呪縛を乗り越え」、「経済政策を大転換する」ための強い推進力を得た。選挙期間には、高市政権の積極財政の方針や、官民連携の成長投資を促進する円安の水準に、厳しい批判があった。言い換えれば、高市政権は、国民の信を問うべき争点を立てることに成功したと言える。厳しい批判を乗り越えて、衆議院選挙で大勝したことは、高市政権の「経済政策を大転換する」方針が、国民からしっかりとした信任* を得たことになる。

  • 2028年の夏の参議院選挙まで、国政選挙はない。厳しい批判が続いても、高市政権は、大胆に「経済政策を大転換する」動きをしていくことになるだろう。経済政策の大転換で経済を再生するまでに時間がかかることによる家計の負担は、食料品の消費税率を0%とすることで緩和することになるだろう。

  • 現在のグローバルな経済政策の潮流は、多様化する中長期の社会・課題を解決するための官民連携の投資と需要の拡大に変化している。そして、官民連携の成長投資の競争はグローバル規模で激しさを増している。成長産業や新技術への政府の投資が拡大していることが、グローバルに財政赤字が減少しない理由でもある。高市政権は、これまでの官民の投資不足が、日本経済の停滞と国力の衰退を招いたと判断している。

  • 高市政権では、積極財政でグローバルな経済政策の潮流の変化に乗るため、プライマリーバランスの黒字化目標から、より柔軟な財政目標に変え、官民連携の成長投資の競争を勝ち抜き、国力の強化に取り組むとみられる。これまでの行き過ぎた緊縮志向がもたらした投資不足による経済停滞の流れを、官民連携の成長投資の拡大で断ち切るため、将来の成長と所得を生む財政出動を躊躇しない。高市政権下で初となる6月の骨太の方針(予算編成の基本方針)で、どのような財政目標に変化していくのかが注目される。

  • 財政支出は、人件費などの経常的支出と、将来の成長や所得を生む投資支出に分けて考えるべきだろう。財政規律として、経常的支出は税収・税外収入の範囲内に収めることはあり得る。しかし、投資的支出は国債発行で行い、実施の可否は、財源の有無ではなく、利払い負担以上の将来の便益を生むのかどうかで判断されるべきだ。

  • 歳出から、投資的支出と国債費を除いたものを、コア(経常的)プライマリーバランスと定義することができる。「危機管理投資」と「成長投資」を予算では別枠とするということだ。新たな財政規律の一つのアイディアとして、プライマリーバランスの黒字化目標から、投資的支出を除いたコア・プライマリーバランスの黒字化目標に転換すれば、財政規律に配慮しながら、投資的支出の拡大も可能となる。


高市政権は、衆議院選挙で大勝したことで、抵抗勢力としての「行き過ぎた緊縮政策の呪縛を乗り越え」、「経済政策を大転換する」ための強い推進力を得た。選挙期間には、高市政権の積極財政の方針や、官民連携の成長投資を促進する円安の水準に、厳しい批判があった。言い換えれば、高市政権は、国民の信を問うべき争点を立てることに成功したと言える。厳しい批判を乗り越えて、衆議院選挙で大勝したことは、高市政権の「経済政策を大転換する」方針が、国民からしっかりとした信任を得たことになる。2028年の夏の参議院選挙まで、国政選挙はない。厳しい批判が続いても、高市政権は、大胆に「経済政策を大転換する」動きをしていくことになるだろう。経済政策の大転換で経済を再生するまでに時間がかかることによる家計の負担は、食料品の消費税率を0%とすることで緩和することになるだろう。

これまでの経済政策は、新自由主義的な思想で運営されてきた。小泉・竹中路線、または構造改革路線と言われる。政府の関与をできるだけ小さくして、効率的な民間経済の自由度を高める思想だ。政府の関与を小さくするため、プライマリーバランスの黒字化目標という財政健全化路線と親和性があった。しかし、現在のグローバルな経済政策の潮流は、多様化する中長期の社会・課題を解決するための官民連携の投資と需要の拡大に変化している。そして、官民連携の成長投資の競争はグローバル規模で激しさを増している。成長産業や新技術への政府の投資が拡大していることが、グローバルに財政赤字が減少しない理由でもある。

先進国でプライマリーバランスの黒字化目標という硬直化した財政運営をしているのは日本だけである。一般的には、財政収支は一定の赤字に収める柔軟な運営をおこなう。プライマリーバランスの黒字化目標は、将来の成長や所得を生む成長投資であっても、税収の範囲内で行う制約となる。財政収支を一定の赤字に収めるのであれば、経常的な支出は税収・税外収入の範囲内に収めても、成長投資は国債の発行で賄い、持続的に拡大させることが可能となる。成長投資のグローバルな激しい競争の中、日本だけ、無用な足かせをはめて戦えば、競争に敗れ、国力の低下の原因となってしまう。高市政権は、これまでの官民の投資不足が、日本経済の停滞と国力の衰退を招いたと判断している。

高市政権では、積極財政でグローバルな経済政策の潮流の変化に乗るため、プライマリーバランスの黒字化目標から、より柔軟な財政目標に変え、官民連携の成長投資の競争を勝ち抜き、国力の強化に取り組むとみられる。これまでの行き過ぎた緊縮志向がもたらした投資不足による経済停滞の流れを、官民連携の成長投資の拡大で断ち切るため、将来の成長と所得を生む財政出動を躊躇しない。高市政権下で初となる6月の骨太の方針(予算編成の基本方針)で、どのような財政目標に変化していくのかが注目される。経済・社会の課題解決のため「危機管理投資」と「成長投資」など官民連携で投資を拡大していくことを明確にしており、中長期的なスパンでの投資戦略を示すことで、企業の予見可能性と成長期待を高めることが期待される。国内支出の拡大で、企業を貯蓄超過から投資超過に回復させ、日本経済を「コストカット型経済」から「成長型経済」へ移行させる。

財政支出は、人件費などの経常的支出と、将来の成長や所得を生む投資支出に分けて考えるべきだろう。財政規律として、経常的支出は税収・税外収入の範囲内に収めることはあり得る。しかし、投資的支出は国債発行で行い、実施の可否は、財源の有無ではなく、利払い負担以上の将来の便益を生むのかどうかで判断されるべきだ。歳出から、投資的支出と国債費を除いたものを、コア(経常的)プライマリーバランスと定義することができる。「危機管理投資」と「成長投資」を予算では別枠とするということだ。新たな財政規律の一つのアイディアとして、プライマリーバランスの黒字化目標から、投資的支出を除いたコア・プライマリーバランスの黒字化目標に転換すれば、財政規律に配慮しながら、投資的支出の拡大も可能となる。

投資的支出は、建設国債でファイナンスされた支出と狭義に定義することができる。2026年度の当初予算の政府案の歳出は122.3兆円となった。国債費が31.3兆円で、建設国債でファイナンスされた支出は6.7兆円となる。経常的支出は84.3兆円となる。税収・税外収入は92.7兆円である。コア・プライマリーバランスは8兆円程度となり、既に黒字化している。高市政権は、2026年度の当初予算で、財政規律に十分に配慮したことになる。当然ながら、投資的支出は広義には、建設国債でファイナンスされたものだけではなく、高市政権の「危機管理投資」と「成長投資」、国土強靭化、教育防衛などへの支出へ、定義を拡大することも可能だろう。

なお、コア・プライマリーバランスを財政規律の参考とすることは、ノーベル経済学賞受賞者である米コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授から筆者はお墨付きを得ている。スティグリッツ教授は、クリントン政権下の1995~1997年に大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長を務めていた時期に、同様の発想で将来の成長に繋がる、インフラなどの「投資的支出」を別勘定とすることを提案したという。しかし、結果的に「投資的支出」の定義を明確にできず、あらゆる歳出を「投資的支出」として扱うよう求める各所からの要求の収拾がつかず、残念ながら頓挫してしまったという。

そこで、日本には建設国債という枠組みがあることを伝えたところ、投資的支出を定義するうえで非常に便利だとし、上記コア・プライマリーバランスを財政規律とするアイディアに強い賛同をもらった。ドイツでも、GDP比1%を超える国防費は債務抑制策の対象から外す方針を2025年に決定した。グローバルでは、将来の成長など必要な投資は、経常収支と分別して考えることは一般的な考えである。コア・プライマリーバランスの議論を含め、より柔軟性のある財政規律の枠組みに修正することが、「成長型経済」に移行する上で重要となるだろう。

図表1:プライマリーバランスとコア(経常的)プライマリーバランス

プライマリーバランスとコア(経常的)プライマリーバランス
(出所:財務省、クレディ・アグリコル証券)

図表2:世界的潮流を踏まえた経済政策の転換=「経済産業政策の新機軸」(経産省)

世界的潮流を踏まえた経済政策の転換=「経済産業政策の新機軸」(経産省)
(出所:経済産業省、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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