株式会社80SKIPホールディングス

株式会社80SKIPホールディングスは、静岡県を拠点に接骨院やジムなど31店舗を展開し、「80歳を過ぎてもスキップできる心と体と環境づくり」を目指す生涯健康支援企業である。2002年に創業した代表取締役の山縣正二郎氏は、目の前の顧客に応え続ける中で組織化を進め、現在は社員数200名のグループへと成長させた。

柔道整復師としての技術だけでなく経営者の視点が必要との気づきをきっかけに、「仕組み化」による自走型組織を確立した。現在は自社経営に加え、そのノウハウを生かして全国の経営者をサポートする「二軸経営」を推進している。

職人から経営者へのマインドの転機や、同社が目指す「静岡県における健康プラットフォーム」の展望について、山縣氏に話を聞いた。

山縣正二郎(やまがた しょうじろう)──代表取締役
1977年、静岡県生まれ。1998年、専門学校卒業と同時に国家資格を取得し、都内の接骨院・整形外科勤務を経て、2002年に独立。社員数80名までは順調に成長したが、2017年に一事業で3期赤字、5店舗閉店を経験。その失敗から経営を体系的に学び、現在は生涯健康支援を軸に5事業・直営31店舗・社員数200名の持株会社経営者。
株式会社80SKIPホールディングス
2002年、創業。「健康共笑」という経営理念のもと、80歳を過ぎてもスキップできる心と体と環境づくりを目指す生涯健康支援企業。接骨院・鍼灸院・機能訓練型デイサービス・パーソナルジム・キッズセミパジムなどを展開し、地域密着型のサービスを提供。静岡県を起点に健康インフラの構築を進めるとともに、経営支援事業を通じて全国の経営者をサポート。
企業サイト:https://www.80skip.jp/

目次

  1. 一人で運営する接骨院から24年をかけ現在の規模へ
  2. 職人から「経営者」に目覚めたきっかけ
  3. 静岡県域に注力し県民全員から利用される存在を目指す
  4. 自走型組織を実現する教育の秘訣
  5. 「二軸経営」で新たなステージへ

一人で運営する接骨院から24年をかけ現在の規模へ

── 2002年に静岡県裾野市で「やまがた接骨院」を開業してから現在はグループ30店舗以上、年商12億円規模に成長しています。創業当時の思いを教えてください。

山縣氏(以下、敬称略) 創業当初は、現在のような規模に成長することはまったく考えにありませんでした。当時の私は「一生、一人の治療家として生きる」と考えていたからです。しかし、ありがたいことに多くの患者様に来院いただき、一人では対応しきれない状況になりました。

「これ以上、お客様を断りたくない」という想いから、一人、また一人と仲間を雇用しました。その結果、自然と2店舗、3店舗と店舗数が増加。組織が大きくなることを目指したわけではなく、目の前の患者様の期待に応え続けた結果です。

── しかし、それでも現在のような企業集団になるとは考えていなかったのでは?

山縣 そうですね。私はもともと人が好きで、誰かに喜んでもらうことが大好きというのが関係しています。治療を通じて患者様の痛みが取れ、笑顔になる瞬間に大きな喜びを感じます。「山縣さんの施術で楽になった、ありがとう」という言葉が、私の原動力でした。

ある頃から、一人でできることには限界があるけど、仲間が増えれば、より多くの人を救える。「自分がいなくても、同じ品質のサービスを提供できる体制をつくれば、もっと多くの人を幸せにできる」と考えたことが、多店舗展開や組織化を意識するきっかけとなりました。

「店舗を増やしたい」という思いから始まり、3店舗、4店舗と増えるなかで、出店すること自体の楽しさにも気づきました。そして、組織として継続的に成長するためには、属人的な技術ではなく「仕組み」が重要であると確信しました。

職人から「経営者」に目覚めたきっかけ

── 柔道整復師という技術職から、経営者へとマインドが切り替わった転機は何だったのでしょうか?

山縣 専門学校、接骨院、整形勤務時代は、とにかく技術を磨くことに没頭していました。当時は「技術さえあれば、経営は後からついてくる」と考えていたのです。

しかし、実際に経営を始めると、技術だけでは解決できない壁に何度もぶつかりました。

大きな転機は、当時の接骨院の大家さんと出会ったことです。今はもう亡くなってしまいましたが、日本の上場企業のアメリカ法人の社長をしていたと聞いています。

その大家さんは「山縣さん、七人までは直接見れるよ」といっていました。会社が大きくなると人に目が行き届かなくなり成長の壁にぶつかるといいますが、大家さんは七人までなら直接目が届く、と考えていたのです。

私は、その言葉をきいて直感で「七人の社長をつくろう」と思いました。30歳のときです。

また、一つの事業を横にスライドする、という考え方も学びました。たとえばラーメン店を経営していたら、次に開くのは焼肉店などにすれば会社の中で顧客の取り合いは起きません。私の接骨院であれば、鍼灸院やトレーニングジムに展開するということです。

当時の私は典型的な「職人」であり、自分が現場で動くことしか考えていませんでした。「自分が現場を離れても回る仕組みをつくらなければ、本当の意味で地域の人々を健康にすることはできない」と痛感し、経営を体系的に学び始めたのが転機です。

20代から30代にかけてこの考え方に触れたことは、私の人生において非常に大きなできごとでした。

── グループ企業それぞれをどう経営されているのでしょうか?

山縣 現在は31店舗を展開していますが、私が現場を見ることはありません。それぞれの事業統括者が経営者意識を持って事業を牽引しています。この体制こそが、私が理想とする「仕組み化した組織=社長の仕事は週10時間」の形です。

一つの事業を深く掘り下げるだけでなく、横にスライドして事業を多角化する。接骨院から鍼灸院、デイサービス、ジムへと広げることで、お客様のあらゆる健康ニーズに応える。それを追求しつつ、各事業を信頼できるリーダーに任せることで、自走型の会社•組織を構築しています。

静岡県域に注力し県民全員から利用される存在を目指す

── ミッションである「80歳を過ぎてもスキップできる心と体と環境づくり」は他社ではなかなか見られないものを掲げていると思います。

山縣 この言葉は、あるテレビCMから着想を得ました。80歳くらいのおじいさんが、孫と手をつないでスキップしている映像を見たとき、「これだ!」と直感しました。単に長生きするだけでなく、心身ともに若々しく、活動的であることの象徴がスキップです。

社名の「80SKIP」も、この思いから名付けました。社員たちと「80歳でスキップできる人とは、どんな人か」を議論したことがあります。そこで出た答えの一つが「恋愛ができる」でした。

そこで、体の健康はもちろん、心が前向きであることが必要です。また、80歳を受け入れる環境も必要でしょう。たとえば旅行に行きたいと思っても、バリアフリーが整っていなければ外出をためらってしまいます。だからこそ、私たちは「心・体・環境」の3つを整えることを大切にしています。

── 経営理念の「健康共笑」についても教えてください。

山縣 「健康共笑」という理念は、お客様だけでなく、社員も、地域社会も、共に笑える環境をつくりたいという願いを込めたものです。一人で食事をして「美味しい」と感じるのも幸せですが、誰かと共に笑いながら食べる食事は、幸せを超えた豊かさと感じるでしょう。

そのような豊かな人生をサポートすることが、私たちの使命です。

策定するプロセスでは、外部のコンサルタントと深く対話を重ねました。「なぜ健康が必要なのか」「本当の幸せとは何か」を突き詰めた結果、この言葉にたどり着きました。今では、全社員がこの価値観を共有し、日々の業務に取り組んでいます。

── ビジョンとして「静岡県民350万人を健康を通じて笑顔にする」を掲げています。具体的な数字を出す意図を教えてください。

山縣 ビジョンは、誰もが具体的にイメージできる「画像」であるべきだと考えています。「地域を健康にする」という抽象的な表現では、社員によってとらえ方がバラバラになってしまいます。

静岡県の人口は約350万人ですから、その全員に年に1回は私たちのサービスを利用してもらう。現在、年間の延べ利用者数は約55万人と、まだまだ実現は先になりそうです。しかし、数字を明確にすることで、私たちがどれほどの規模を目指すべきかが明確になります。

静岡県に特化しているのは、この地でナンバーワンの健康インフラを構築したいからです。静岡県のGDPは約19兆円あります。この巨大な市場で、健康に関するあらゆる課題を解決する「リーディングカンパニー」を目指しています。

私たちは、接骨院やジムを運営するだけの会社ではありません。静岡県における「健康のプラットフォーム」を提供していると考えています。各地域に根ざした店舗展開を行い、困ったときには「80SKIPに相談すれば大丈夫」といわれる存在になりたい。

このビジョンを実現するためには、さらなる店舗展開と人材育成が不可欠です。「なぜ350万人なのか」というロジックとエビデンスを社内に浸透させ、全員が同じ方向を向いて進む。経営計画書(VISION BOOK)にも数字を明記し、全社員に配布して、常に意識するようにしています。

自走型組織を実現する教育の秘訣

── 組織を拡大するうえで、教育や仕組みづくりにおいて工夫していることはありますか?

山縣 経営を「エスプレッソ」にたとえて説明することがよくあります。ミルクにエスプレッソを注げばカフェラテになりますが、その核となるエスプレッソが薄ければ、どんなにミルクを足しても美味しくなりません。経営におけるエスプレッソとは、理念や価値観、そして「仕組み」そのものです。

私たちは、新入社員に対して徹底的にマインドセットを構築するための教育を行います。静岡県内にあるトレーニングセンターを活用し、3泊4日の合宿形式で研修を実施することもあります。会社の歴史や理念、そして「なぜ仕組みが必要なのか」を深く理解してもらうものです。

── 山縣代表にとっての「仕組みづくり」はどのような定義の言葉でしょうか?

山縣 仕組み化とは、誰がやっても同じ成果が出る状態をつくることです。

私は、事業統括者たちに現場の細かい指示は出しません。その代わり、VISION BOOKという「設計図」を共有し、判断基準を明確にしています。「この状況なら、会社の理念に照らし合わせてどう動くべきか」を自分たちで考え、実行できる組織を目指しています。

教育には時間がかかります。一人前のリーダーを育てるには、少なくとも1年から3年は必要です。しかし、その時間を惜しんでいては、真の自走型組織はつくれません。「仕組みが人を育て、人が仕組みを改善する」という好循環を作ることが、私の役割です。

「二軸経営」で新たなステージへ

── 自社の経営だけでなく、現在は他社を支援する「バリュー経営」事業にも注力されていますね。

山縣 私たちだけがうまくいっても、地域経済が沈んでしまっては意味がないと思ったのが、始めたきっかけです。地方の中小企業が共に生き残るため、仕組み化のメソッドを提供できればと、バリュー経営事業を行っています。

「バリュー経営」では、12ヵ月間のプログラムを通じて、経営の仕組み化をサポートしています。6つのモジュールと20の「サクセスパス」を設定し、ステップバイステップで組織を改善する課題ワークと動画学習、月一オンラインです。単なるコンサルティングではなく、私たちが実際に直営店で成果を出した「生きたノウハウ」を提供することが強みです。

多くの経営者は「自分が現場を離れたら店が回らなくなる」という不安を抱えています。しかし、適切な仕組みを導入すれば、経営者は本来の仕事である「未来をつくること」に専念できます。私自身、仕組み化によって自由な時間を手に入れ、新たな事業に挑戦できるようになりました。(その状態を「週10時間経営」と名付け発信しています。)

現在は、自社のグループ経営と、他社の経営支援という「二軸経営」を推進しています。この二つは、自転車の両輪のような関係です。自社で新しい仕組みを試し、成果が出たものをクライアントに還元する。そして、クライアントの成功事例から学び、自社の経営をさらにブラッシュアップする。

この「二軸経営」を10年、20年と継続することで、日本の地域経済を支える中小企業を元気にしたい。日本企業の99%は中小企業ですが、その多くが属人的な経営から抜け出せずにいます。私たちがそのモデルケースとなり、仕組み化の価値を全国に広めることが、私の新たな挑戦です。