事業再生を出発点に、経営コンサルティング、M&Aアドバイザリー、経営執行支援まで、多面的に企業価値の向上を支援するフロンティア・マネジメント株式会社。
同社のストラテジー&オペレーション・コンサルティング部門(以下、SOC)の最大の特徴は、財務諸表へのポジティブなインパクトを強く意識し、計測可能な成果にこだわる点だ。
生成AIをはじめ、DXを支えるツールや技術の選択肢は飛躍的に増えた。にもかかわらず、多くの企業でDXは思うように進まない。その本当のボトルネックはどこにあるのか。
同部門でシニア・ディレクターを務め、小売・製造業を中心に、自動車、建設業など幅広い領域でDXの構想から実行・定着までを一気通貫で手がけてきた服部天氏に、“戦略で終わらせない”同社のアプローチと、AI時代に企業が勝ち残るための条件を聞いた。
目次
事業再生から企業価値向上へ。「計測可能な成果」にこだわる
── まず御社の事業内容と、服部さんのご経歴について教えてください。
服部氏(以下、敬称略) フロンティア・マネジメントは、産業再生機構出身の代表が立ち上げた会社で、もともとは事業再生を中心に始まっています。
再生に取り組む中では経営コンサルティングの文脈も必要になりますから、そこから派生する形で、現在は経営コンサルティング、M&Aアドバイザリー、経営執行支援など複数の部門に分かれ、企業価値の向上を多面的に支援しています。
私はそのうち経営コンサルティング部門、なかでもSOCに所属しています。戦略を描くだけでなく、実行から実際の効果創出まで踏み込むのが特徴の組織です。
私のITやデジタル領域のキャリアは、事業会社でのシステム企画から始まりました。配属先の業務がマンパワー頼みの非常にローテクな仕組みで、「これはおよそ人がやる仕事ではない」とずっともやもやしていた。
社内でシステム企画部門を内製化する公募に手を挙げて業務改善に取り組んだところ、年間数千時間規模の改善につながった。デジタルの大きなインパクトを実感したことが、コンサルティングへ進む原点です。
以来、戦略策定から要件定義、AI活用まで幅広く手がけてきました。技術そのものより、デジタルやITで業務や意思決定をどう変えるかを専門にしてきたキャリアです。
── SOC部門のミッションを、もう少し詳しく聞きたいです。
服部 一言で言うと、「クライアントに計測可能な成果を届ける」ことを柱に掲げています。
計測可能な成果とは、財務諸表にきちんとポジティブな影響を与えること。PLの売り上げ・粗利・販管費、BSの在庫・運転資本・資産効率、キャッシュフローの投資回収や資金効率。こうした財務指標に必ず効かせ、そこにコミットする意識を常に持っています。
そのため、いきなり「AIを入れましょう」「このシステムを導入しましょう」という始め方はしません。
市場環境や顧客ニーズ、業界・事業の勝ち筋、商品・サービス、価格、オペレーションを経営目線で分析し、どこに何を効かせるべきかを特定したうえで、業務改革が必要ならそれを、価格戦略が必要ならそれを、と手を打つ。DX・デジタルは、あくまでその手段の一つです。財務諸表へのインパクトをミッションに、各領域のスペシャリストが協業で支援する組織です。
「DXが進まない」本当の理由は、技術ではない
── 製造業などでは「DXがうまく進まない」という声もよく聞きます。ボトルネックはどこにあるものでしょうか。
服部 業界を問わず共通して言えるのは、DXのボトルネックは技術ではない、ということです。
どの企業にもデータはあり、システムも入っている。AIもクラウドもSaaSも選択肢は溢れている。それでも進まないのは、技術が足かせだからではありません。
理由は大きく三つあると考えています。
一つ目は、「DX」というテーマが先行し、それが財務諸表・経営にどうつながるかがあいまいなまま進むことです。
売り上げか、粗利か、コストか、在庫や運転資本か、効かせる先があいまいなまま「AIを入れる」「データ基盤を作る」となり、手段が目的化する。“クイックウィン”として始めるのは悪くありませんが、そこで終わると個別最適が乱立し、つながらない仕組みばかりが増える。
二つ目は、経営と現場、ビジネスとデジタルをつなぐ「翻訳機能」──いわばハブの不足です。経営層はビジネスの課題を語れても技術的な実装に落とせず、現場は業務を熟知していても経営課題との接続を説明しにくい。IT部門やベンダーはシステムを作れても、業務や財務への影響までは設計しきれない。この三者をつなぐ機能がないとDXは前に進みません。まさに我々が価値を発揮するところです。
そして三つ目は、開発前の計画・業務設計の甘さです。あるべき姿(To-Be)やデータ項目、運用ルール、ベンダーと社内各部門の責任分界点をどう決めるか。ここがあいまいなまま進むと後工程で必ず詰まり、本来巻き込むべき部署が巻き込めていないといったことも起こります。
詰まっているのは技術ではなく、経営・業務・データ・システム・組織をつなぐ「設計」の不在です。これが私の実感です。
現場が楽になりながらデータが貯まる──小売店頭DXの実践
── 具体的な事例は教えてもらえますか。
服部 4年半ほど支援した、スーパーマーケットの店頭業務DXの案件があります。大きく二つ、値下げ最適化と売価チェックの取り組みをご紹介します。
出発点は「現場に転がっているデータを使い切れていない」という課題でした。店頭の実売価、値下げの時間帯、割引率、陳列や賞味期限──本部の経営データは分析できても、店舗で何が起きているかは構造化されていなかった。そこを店舗で活用できるようにする取り組みです。
一つ目の値下げ最適化では、需要予測と動的計画法を組み合わせ、「いつ・在庫が何個残っていたら・いくらで売れば売り上げが最適化されるか」を導き出しました。
従来は値下げ担当者ごとの勘と経験に依存しており、値下げタイミングや割引率にばらつきが生じやすい状態でした。そこにPOSや天気、時間帯ごとの在庫推移などを使い、統計的に確からしい値下げを行う。商品ジャンルによってはロス金額を最大15%ほど改善でき、全店舗展開でおよそ2.4億円の粗利改善が見込めるという結果が得られました。
二つ目は、リアルタイムな画像解析とAR技術を使った売価チェックです。紙のプライスカードにスマホをかざすと一括でスキャンし、価格が正しければ緑、誤っていれば正しい価格をカードの上に重ねて表示する。
従来はハンディスキャナーで一点ずつ読み取り、紙カードと画面を目視で見比べていましたが、1店舗で数万SKU(Stock Keeping Unit、ストック・キーピング・ユニット。在庫管理上の最小の管理単位であり、商品の品目数のこと)の確認は集中力が切れて見落としが起きる。
かざすだけのマルチスキャンにしたことで工数はおよそ半減し、誤りも記録に残るため価格違いそのものがなくなりました。価格の誤りは、高ければクレーム、安ければ粗利の取りこぼしにつながる。この取り組みについても、全店舗展開時には、人件費も含め年間数千万〜1億円規模の効果が得られる試算となりました。
重要なのは、一見、無関係なこの二つをつなぐ設計を組んだことです。売価チェックの棚画像は陳列情報として欠品把握や品出し指示に、在庫状況は値下げ最適化のインプットにもなる。意識したのは、「データを貯めるためだけの業務」を現場に増やさないことです。現場が楽になり価値を生みながら、結果として新規性の高いデータが自然に貯まる──その設計がうまくはまった実感があります。
定着化を左右するのは「巻き込み」と、泥臭い運用設計
── 新しい技術を現場に定着させるうえで、重視しているポイントは何でしょうか。
服部 使う人が「誰が・いつ・何を判断するのか」まで設計しきることです。テクノロジードリブンだと、この部分があいまいなまま進み、現場にとって“自分ごと”にならず、「導入はしたが思っていたのと違う」となりがちです。
小売の案件で徹底したのは、仕様書ベースの説明ではなく、動くものを現場に見せて生の意見を吸い上げること。動くプロダクトを見せると、現場はむしろ前のめりに意見をくれる。反発も当然、出ます。値下げ判断は売り上げや粗利に直結し、現場の評価にも影響します。そのため、PoC初期には「精度が十分に高まるまでは使いたくない」という反応もありました。
そこは「実験中は売り上げを評価に反映しない、協力がインセンティブになる」という評価設計をトップダウンで示して進めました。
技術で何ができるか以上に、エラー時の対応、承認、教育、問い合わせ対応といった運用設計をやりきる。机上の説明で終えず、動くものを見せながら現場と一体で根付かせる。この泥臭さが、定着化の最大のポイントです。
── プロジェクトの中で、特に停滞しやすいフェーズはありますか。
服部 二つあります。一つはPoCから本番導入に移るタイミング。PoCは技術検証なので、ネットワーク、データ基盤、API連携、運用保守などを意図的に簡略化して進めることがあります。本番導入では、それらをすべて設計し直す必要があるため、急に論点が浮かび上がることがあります。だからPoCの段階で、この先に何が待っているかを整理しておくことが大事です。
もう一つは、要件定義の後半から基本設計の前半です。ビジネス要件を技術要件に落とす段階で、「思っていたのと違う」「できると言っていたができない」といった齟齬が生じやすい。
完全にはなくせないので、生じる歪みをコントロールする。ビジネスとデジタル、経営と現場をつなぐハブ、PMOのような立場で両者の見解を理解し、落とし所を見つける。この調整力がないと、この二つのタイミングで頓挫や炎上を招きがちです。
AI時代に勝ち残る条件──「餅」を、数字に変える実行力
── 生成AIが当たり前になる中で、企業が勝ち残るために必要なものは何でしょう。
服部 まず我々コンサルティング業界自身が大きく変わります。これまでのコンサルは、知見や他社事例、フレームワークといった“知識”に価値がありました。しかし今の生成AIはその領域を平気で押さえてくる。一般的な論点整理も、PoCや本番導入の注意点も、誰もが相当なレベルで語れるようになっています。
知識の差は縮まる一方で、思考力と実行力の差は広がります。“絵に描いた餅”の絵、一般論としての構想や論点整理、フレーム通りのあるべき論は、AIがかなり高い水準で描けるようになっています。若手が何時間もかけて調べていたことが一瞬で出てくる。だからこそ、知識だけでは手の届かない、組織、チームを前に進める「実行」に価値の出しどころが移ります。
象徴的なのが、米国のパランティアです。政府機関や大企業向けに、データやAIを業務・意思決定に組み込むソフトウェアを提供している会社です。
従来のベンダーはパッケージ導入における人月単価とランニングコストで儲けるモデルが中心でしたが、彼らは自社ソリューションを入れ、顧客の業務や意思決定に深く入り込み、そこで生まれる財務効果や業務効果をベースに対価が拡大する。
ソフトウェアのサブスクリプションビジネスですが、実態としては成果報酬型にかなり近いモデルだと理解しています。コンサルティングも人月ビジネスからこうした成果に近いところで対価を得るモデルへ広がるのではないか。ビジネスモデルの転換点に来ていると強く感じます。
ヒト・モノ・カネで言えば、ヒトは経営層と現場の利害調整や評価設計、モノはデータ・システムと現場オペレーションをつなぐこと。これを実際につなぎ、現場に落とし込むのは人にしかできません。
カネは、財務諸表へのインパクトをどう設計するか。AIは知識を提供してくれますが、その知識を得ることと財務的な成果に結びつけることは、イコールではありません。AIから得た示唆を自社の業務や意思決定に落とし込み、数字に反映させる実行力こそが、勝ち残る条件になると考えています。
── そうした時代に、DXに取り組む企業やリーダーは、まず何から考えるべきでしょうか。
服部 今日お話ししたAI時代のコンサルの生き残り方も、DXのあるべき論も、正直、生成AIに聞けばそれらしい答えが返ってくる時代です。私の経験や知見もどんどん陳腐化していく。だからこそ語るだけでは価値がなく、実行して組織を動かし、何を変え、どう財務諸表に反映させるか。そこにこそ価値の源泉があります。
DXを進めるリーダーの方には、どの技術を使うか、何を導入するかの前に、まず「なぜやるのか」に立ち返ってほしい。そして、どの数字を変えるのか、どの業務を変えるのか、誰を動かすのか──この順番で考える。そのうえで、本当にやるべきことがDXなのか、DXはあくまで“How(手段)”ではないかと問い直すことが、ますます重要になると考えています。