2006年に音楽配信事業で創業し、「多様性を活かし、テクノロジーで世界を変える」をミッションに掲げる株式会社モンスターラボ。同社はグローバルソーシングへの転換や積極的なM&Aを経て世界へ進出し、2023年に東証グロース市場への上場を果たした。
成長期を経て現在は事業構造の再編を実施し、筋肉質な体制へと移行している。昨年末には事業を「AI & Digital Partners」へと再定義し、システム刷新をはじめとした企業のAI変革支援を本格化させた。
国籍の壁を越える「Be Borderless」の文化を育む同社は、AI時代にどのような価値を創造するのか。これまでの歩みと今後の事業展望について、代表取締役社長の鮄川宏樹氏に聞いた。
企業サイト:https://monstar-lab.com/jp_ja
目次
音楽配信から始まった「多様性を生かす」というミッション
── 創業の経緯と、そのときの鮄川社長の思いについて、教えてください。
鮄川氏(以下、敬称略) モンスターラボは2006年創業で、それからちょうど20年が経った会社です。創業事業は音楽配信でした。特に、メジャーレーベルに属していない独立系アーティストの楽曲を、インターネットで届けるということをやりたくて始めました。
私の周りには、音楽をやっている弟、さまざまなジャンルで音楽に取り組んでいる人がいました。しかし、マスメディアやCDショップの限られたスペースを通じて供給される音楽だけでは、多様性がない。
インターネットであれば、もっと多様な才能を持ったアーティストたちの作品が、人々に届けられるのではないかと考えたのです。みんなが同じものを好きになる時代から、自分に合った価値観を見つける時代になるのではないか。そういう「多様性を生かす仕組み」をつくりたいという思いで、創業しました。
── その背景には、何か原体験のようなものがあったのでしょうか?
鮄川 はっきり一つの原体験があるわけではないのですが、私の母親がクリスチャンで、教会のネットワークを通じてフィリピンの子どもの里親になり、個人で支援していたことが、関係しそうです。
自分がたまたま日本に生まれて恵まれた環境にいる一方で、国や家庭の環境によってチャンスがない人たちがいる。可能性のある人、特に若い人にもっと機会を提供できる社会に貢献したいという思いは、一つあるかもしれません。
音楽に関していえば、ライブハウスに行くとみんな音楽をつくることに対してはすごくクリエイティブなのに、活動のやり方は同じだなと感じていました。デモテープをつくってレコード会社に送って、ライブハウスでサンプルを配って。でも、インターネットを使えばもっと別のやり方があるはずです。
彼らは音楽そのものへの熱量はあるけれど、「どう届けるか」の部分では自分のような人間が架け橋になれるのではないかと思ったのです。
グローバルソーシングへの転換と急拡大の反省
── 音楽配信事業から現在の事業へ、どのように転換したのですか?
鮄川 もともと音楽事業に投資するために、そして会社として生き残るために、IT関連の受託開発をしていました。最初は日本と中国の二拠点で開発を行っていたのですが、日本はエンジニア不足が深刻化していました。
そこで、中国や東南アジアの若くて優秀な人材と一緒に仕事をすれば、日本には生産力を、新興国には雇用機会をもたらせるのではないかと考えました。
このとき、音楽配信でやりたかった「個人のエンパワーメント」や「機会のない人にそれを提供する」ということを、海外のエンジニアやデザイナーに対しても同じミッションで展開できると気づいたのです。
2014年にシンガポールで子会社「セカイラボ」を設立し、食べるための受託事業からビジョンに沿った新規事業へと転換しました。これが大きな転換期でしたね。
── その後、海外市場にも積極的に進出しています。
鮄川 はい。アジアからスタートし、2017年にデンマークの会社を買収してヨーロッパへ進出。2019年には、アメリカの会社を買収しました。中東でも三社の買収を行い、一番多い時期で20か国に展開していました。
ただ、2017年から2021年の丸5年間で急拡大しすぎたという反省があります。M&Aや新市場への進出は、本来は相当な時間をかけるべきです。イメージでいえば、30年かけてやることを5年でやろうとしたような状況でした。
一つひとつの判断は合理的でも、それを同時に五つも十もやっていくと、複雑性が増しすぎてリスクが高くなる。結果的にヨーロッパと中東の大部分からは撤退するという判断をしました。
一方で、アメリカの拠点はM&A後も売り上げ・利益とも順調に成長しており、うまくいったものもあればうまくいかなかったものもあります。その経験値は蓄積できたと思っています。
地に足のついた経営を追求し筋肉質な体制に
── 2023年3月、東証グロース市場に上場しました。上場において、何を重視しましたか?
鮄川 上場前から多くの株主に出資をいただいていましたし、どこかのタイミングで上場はしなければならないという認識がありました。会社を売却するという選択肢は考えていなかったので、株主へ還元する手段として自然と上場を選びました。
かといって、それ以上の特別な意味があったかというと、そうでもないですね。通過点という意味でとらえていました。
── 上場後、構造改革を進めて本業の黒字化を達成しています。現在の経営をどう位置づけていますか?
鮄川 拡大期に取ったリスクを整理し、事業を絞り込んで筋肉質な体制にしました。グローバル展開の中で得た知見やネットワークは残っていますし、成長の柱であるアメリカ拠点は引き続き好調です。その経験を踏まえた上で、今は地に足のついた成長を目指しています。
「AI & Digital Partners」への再定義とそこで人間がすること
── 昨年末に「AI & Digital Partners, Unlocking Human Potential」という新たなブランドメッセージを制定し、事業内容を「AI & Digital Partners 事業」へと再定義しました。その背景を教えてください。
鮄川 AIがあらゆる産業に影響を与えることは間違いない中で、デジタルの会社である我々が先駆者としてAIによる変革支援のパートナーになりたいという思いがありました。
一方で、単にAIで効率化するだけでいいのかという問いも残ります。AIがコードを書くようになったら、人間は何をやるのか。お客様の組織の中でもAIによって生産性が上がったとき、人にしかできないことをやれる環境や機会をどうつくるのか。
ブランドメッセージにある「Unlocking Human Potential」には、そこまで踏み込んでソリューションを出せる会社でありたいという思いを込めています。
── AI活用に本格的に着手したのはいつごろからですか。
鮄川 2年半ほど前からです。2023年末に、AIによるレガシーシステムの刷新を支援する「CodeRebuild AI」というソリューションを発表したのが一つの起点でした。それまでも機械学習を使ったプロジェクトは手がけていましたが、会社の事業の中心にAIを据えたのはそのあたりからですね。
今は、全社的にAIを活用するのが当たり前の状態です。事業としては「AI Business Acceleration」と「Enterprize DX」の二つに分かれていて、前者はモバイルアプリやデジタルプラットフォーム、AIエージェントなど新規性の高い領域を、後者は業務システムや基幹システムをAIで刷新する領域を担当しています。
── AIを活用したサービスで、顧客からはどのような反応がありますか。
鮄川 CodeRebuild AI[4] の例でいうと、エンジニアがいなかったりドキュメントが残っていなかったりして手が付けられなかった古いシステムを、AIと人間の共同作業でモダナイゼーション(刷新)するものです。
我々が最初の分析を行い、アウトプットをお見せすると「このスピード感でこのクオリティにできるのか」と驚かれるケースが多いですね。
「Be Borderless」の組織文化とこれからの事業展望
── 世界12の国と地域で多様な国籍のメンバーが働く中で、組織づくりにおいて大切にしていることは何ですか。
鮄川 個人として大事にしているのは、一次情報を取りに行くことです。現地に自分が行き、カルチャーや人を体感として知る。中国に拠点をつくった当時、日中関係が最悪の時期で中国のプロダクトも「安いけど質が悪い」というイメージが一般的でしたが、実際に現地の人たちと会うと日本人以上に熱いコミットメントやロイヤリティを感じました。やはり行ってみないとわからないことがあります。
もう一つは、多様なカルチャーやバックグラウンドへのリスペクト、それと「人間はそんなに変わらない」という思いを同時に持つことです。存在意義を評価されれば嬉しいし、尊重されていないと感じれば悲しい。それは国籍に関係なく同じはずです。偏見やバイアスをなくしていけばわかり合える——そう信じてやってきました。
採用においても「Be Borderless」というマインドセットを最も重視しています。一緒に働きたいのは、国籍や組織の壁にとらわれず、チームで何かを成し遂げたいと思っている人。その上で探究心や好奇心、専門性を持つ人を求めています。
── 最後に、モンスターラボがこれから力を入れる取り組みについて教えてください。
鮄川 AIの時代はまだ始まったばかりだと思っています。これまでコスト的にROI(投資利益率)が合わなかった領域にまで、AIが社会実装されるでしょう。我々はその先頭に立っている会社なので、人材アセットとAIの知見を組み合わせて顧客の変革をより一層、進めたい。
その先には、事業ドメインごとのプロダクト開発や、お客様の業務を一部引き受けるBPO的な事業など、新しいビジネスモデルも構想しています。社内ではAI活用のプロダクトコンテストを開催したり、現場からボトムアップでプロダクトが生まれたりしています。
企画を通すより先にモノをつくり、それをどう市場に広げるかを考えるようなカルチャーが育ってきました。これまでグローバル展開は私が先頭に立っていた面がありましたが、これからは組織としてのボトムアップも含め、新しい事業展開をより積極的に進めたいと考えています。
- 氏名
- 鮄川宏樹(いながわ ひろき)
- 社名
- 株式会社モンスターラボ
- 役職
- 代表取締役社長