プラットフォームに関するいくつかの疑問

自分の家や不動産を「売り出していることを知られたくない人はどうするのか」、と疑問に思う方もいるだろう。おそらくそうした声に配慮して、このプラットフォーム上でもどこまでの情報を開示するかは売主の判断で決められるような何らかの対応はするのではないだろうか。

また個人が売り出したい不動産と希望の売却価格を提示しても「本当に買い手がつくの?」 という疑問もあるだろう。この点で注意したいのは、このプラットフォームは、個人対個人の直接取引をさせるいわゆるCtoCのサービスではないところだ。

日本の不動産の取引はほとんどの場合、宅建業法に基づく不動産業者が仲介する取引になる。Yahoo!JAPANの広報に確認したところ、このプラットフォームでも、最終的にはソニー不動産が売買の媒介契約を行うことになる。

一部の報道では「インターネット上で個人間で中古住宅の売買取引できるサービスを開始する」とあるが、個人間で直接の売買取引はできない。この点は注意が必要だ。

売却依頼をするユーザーのフローとしては、

1.個人が売り出したい物件(マンション)と価格を提示する
2.不動産会社(現時点ではソニー不動産と推測)から何らかのコンタクトがある
(売却価格が高い・安いとか、買い手が見つかりそうか等)
3.売主は、不動産会社(現時点ではソニー不動産と推測)に売却の依頼する契約を結ぶ

といった3つのステップが考えられるだろう。なお、仮にこの3の媒介契約が、ソニー不動産だけの独占的な扱いになるようであれば、結局のところソニー不動産という一企業への売却依頼を拡大するための方策ということになり、いかにYahoo!と組もうが、プラットフォームとしての大きな発展は見込めないだろう。


なぜ、都心のマンションの売却なのか?

ところで、先のプレスリリースには、「不動産所有者が主体となって自身のマンションを自由に売り出すことを可能とする新しい不動産売買プラットフォームを共同で開発し」とある。なぜ「マンションの売却」だけで、「戸建」や「購入」がないのか、と思う向きもあろう。

マンションの場合、土地や戸建と違い、物件ごとでの個別の要素が少ない。どのマンションのどの住戸かが決まっていれば、立地、築年数、広さ、階数、部屋の向き、全住戸の規模、売主のブランド等がわかり、およその価格が決まってくる。

周辺の不動産相場と大きくかい離しない物件であれば、売却したいお客さん側につく(媒介契約を結ぶ)ことさえできれば、あとは購入したい顧客を他の不動産会社が見つけてきてくれるのだ。つまり、売却したいという顧客と「握って」いれば、不動産会社は自ら買い手探しに動かなくともよい。

ソニー不動産の場合、自社に依頼された売主の物件は自社内では購入者をつけないようにしているので、売却したい顧客と不動産の媒介契約をしてしまえば(売主が希望する物件価格で物件が売れるように努力するとしても)、買主を自分たちで見つけることは必要ない。特に前述のような都内でも有数の資産価値の高いエリアに限定していればなおさらである。

問題は、こうした都心の優良エリアでのマンションの売主をいかに効率的に見つけ、媒介契約までもっていけるかだが、ソニー不動産としては、収益性の高い「都心のマンションの売却」にポイントに絞った事業をすべく、ネットとスマホ時代に対応した最大手のメディア企業であるYahoo!と提携をしたということだろう。企業として収益性の高い分野に絞るのは、当然の話だ。(提供: storie 2015年7月7日掲載

坂口誠二(さかぐち・せいじ)
住まいと暮らしの実益情報メディア「 storie 」編集長

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