「投資の神様」の異名をとる著名投資家、ウォーレン・バフェット氏が、4〜6月期の業績が冴えず、株価が下落する一方のIBMのさらなる買い増しを示唆して話題を呼んでいる。
84歳の同氏が米投資会社バークシャー・ハサウェイの経営権を掌握して50周年を迎える今年、「バフェットじいさんは、ついにボケたか」との声もあるが、大株主としてのバリュー株投資の観点と、IBMの企業の株主向け方針から見ると、強気には確かな裏付けがあることがわかる。
まず、バフェット氏は昨秋、IBMの持ち株比率(ある企業の発行済み株式総数に対して、ある投資者が所有している株数の割合)を8.1%まで引き上げているが、その際の推定平均取得価格は170ドル前後。それが、7月20日の4〜6月期の決算発表以降は150ドル台で低迷している。
だが、決算発表後に同氏は経済専門局CNBCのインタビューに応え、「IBM株が下がるのは、大好きなんだ。我が社が安値で買い増しできるじゃないか」と上機嫌で語り、「今は売らない。5〜10年後に高値になったらそうするかも知れないがね」と付け加えた。
バークシャーは、一般的に短期的なトレードではなく、優良企業の株を長期的に保有するという投資スタイルで知られるため、その方針とは矛盾していない。
バフェット氏は買い増しを断言はしなかったが、さらに持ち株比率を上げることには、一定の合理性がある。(因みに、米国内では一般投資家向けに、「150ドルまで下がるのを待って、買え」とのアドバイスを出す投資顧問会社もある。)
その合理性とは、バークシャーのような大株主がほぼ確実にもうかる「からくり」だ。
まず、現在IBMは株主に対して、収益の3.3%を配当として還元しているが、これは他の優良IT企業であるインテルの3.3%、テキサス・インスツルメンツ(TI)の2.7%、マイクロソフトの2.6%、ヒューレット・パッカードの2.3%に比べても、トップクラス。
IBMの1株当たり5ドル20セントの安定した年間配当から計算すると、バークシャーは今年4億1千3百万ドルの配当を得る。
投資家向け情報誌『バロンズ』の8月15日付電子版によると、バークシャーにとってより重要なのは、IBMが過去3年間、その営業活動によるキャッシュフローの80%以上を配当の支払いと自社株の買い戻しに充当してきたことだという。
さらに、IBMが自社株を買い戻すほど、バークシャーのIBM持ち株比率は相対的に上がる。同誌の表現を使えば、「IBMは(バークシャーなど大株主に)配当を支払うための借り入れマシーンと化した」のである。事実、同社の長期負債は5年前の220億ドルから330億ドルへと急増している。
このように見ると、IBM株がある程度下落しても、さらに買い増す強気に論理上の矛盾はなく、同社に利益を吐き出させるだけ吐き出させた後、「5〜10年後に売る」というプランは、少なくともバフェト氏にとっては合理的である。
大丈夫か、IBM
ここで心配されるのが、名門企業IBMの将来だ。まず、直近のドル高のために、売り上げのかなりの部分を占める海外での利益が米ドル建てで目減りするのは、同社に限ったことではない。問題は、構造的な変革が遅れていることだ。
IBMが「インターナショナル・ビジネス・マシーン社」の名のとおり、事務用計算機、メインフレーム・コンピューターやタイプライター、パソコンを収益の柱に置いていた時代から、川上から川下を網羅し、システム販売から運用・メンテナンス、企業向けIT予算融資まで手掛ける大手顧客向けITコンサルティング会社へと変貌を遂げ、成功を収めたのはよく知られる。
だが、業界が急激なイノベーションで大変革を迫られる中、将来の収益の柱を投資家にはっきり提示できていないのが、最近の株価低迷の原因だ。
クラウド事業は競争相手との差別化に苦心し、ビッグデータ分析も今のところ伸びていない。
そんな中でバフェット氏などの有力な投資家対策のため、キャッシュフローの80%以上を配当や自社株買いに充てているのだから、研究開発の優先順位が落ち、昔のような「IBMらしい」大発明やイノベーションが出てこないのだと、『バロンズ』誌は論じている。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)