9月16日、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は日本国債の格付けを「ダブルAマイナス」から「シングルAプラス」に1段階引き下げるとともに、見通しについては「安定的」とした。
これはアイルランドやイスラエルと同等で、中国や韓国より低い。S&Pが日本国債をシングルA格にするのは初めてのことだ。
S&Pによる格下げに先立ち、昨年12月にムーディーズ・インベスターズ・サービス、今年4月にはフィッチ・レーティングスがすでに日本国債の格付を引き下げており、大手3社がそろって格下げしたこととなる。格付け会社はアベノミクスが十分な経済成長につながっていないと判断したようだ。
マーケットとの対話を拒否する日本の財務相
世界経済を見渡せば、景気減速による財政状況の悪化を背景に新興国国債に格下げリスクが高まっている。
今月9日にはS&Pはブラジルの長期外貨建て債務格付けを投機的階級の「ダブルBプラス」に1段階引き下げた。その結果、国債への売りが広がり、ブラジルの10年物国債利回りは15%台と、ほぼ7年ぶりの高い水準に上昇した。多くの新興国は高金利を背景とした資金流入が一巡し、債券売りが通貨安を招くという悪循環に陥っている。
一方の日本は格下げの発表後も市場は無風だ。格下げを受けた17日の債券市場では長期金利は前日よりやや低い0.360%で推移していた。これを受け、麻生太郎財務相は18日の閣議後会見で「格下げで(長期)金利がどれだけ上がったか。市場は反応していない。格付け会社の影響力がなくなった」と述べた。
格下げ発表後、市場の反応は無かったことは事実だ。しかし、現在の国債の需給関係を考えれば、そもそも格下げが金利の急上昇につながるとの見方は限られていた。
日銀は大規模な金融緩和の一環として市場から大量に国債を買い入れており、もはや売るべき国債は市場に無いのだ。日銀の金融緩和が続く限り国債の需給関係は崩れそうにない。いや、むしろ既に需給関係は完全に崩れていると言っても良いのかもしれない。
こうした環境での財務相の発言には強い違和感を感じる。格下げの背景には先進国の中で群を抜く公的債務を抱えるにもかかわらず、財政再建に取り組む姿勢がまるで見えない日本政府に対する懸念が浮上していることを全く無視しているからだ。
日本の財政赤字は国内総生産(GDP)の6.9%に達し、公的債務に至ってはGDPの246%に上り、なお増加し続けている。日本は金融緩和を背景に甘い財政運営を一向に改善できていないのだ。
本来であれば、金融緩和の効果がある間に経済成長により歳入を増やすと同時に、財政再建を行わねばならないのだ。金融緩和はそのための時間稼ぎに過ぎない。
長期金利が低位で安定していることだけを見て「格付け会社の影響力が無くなった」とタカをくくるのは、当事者としてあまりに無責任ではないだろうか。
長期金利が低位安定している間にこそ解決しなければならない問題が山積みのはずだ。当事者がこのまま市場との対話を拒み続け、財政健全化をおろそかにしているといずれ大変なことになるだろう。 (ZUU online 編集部)