VWの販売不振が続いている。排ガス規制を不正に逃れるソフトウェアをディーゼル車に搭載していた問題の影響だが、なぜか該当車種が販売されていない日本でも影響が出ている。

排ガス不正発覚前から減少していた?

10月発表の7~9月期決算では15年ぶりの営業赤字を計上した。この理由は、不正対策費として67億ユーロの引き当て金を計上したため、税引き前赤字が25億2000万ユーロになったからだ。

10月のVWブランド世界販売台数は、前年同月の51万7400台から49万台となり、5.3%減少したと発表された。

だが1~10月の累計では前年同期比4.7%減の484万台で、排ガス偽装問題が発覚する前から販売は漸減していたと見てよいだろう。

また11月には窒素酸化物(NOx)に加えて、燃費の計測数値および二酸化炭素(CO2)についても不正が見つかったという。欧州で80万台に影響する可能性があり、20億ユーロ(約2650億円)の追加経費を見込んでいる。対象ブランドにはVWのほか、アウディ、シュコダ、セアトなどが含まれる。ディーゼル車だけでなく、ガソリン車も含まれていた。

日本市場に大きな影響

だが排ガス不正問題は、該当車種が販売されていない日本市場に影響を及ぼしたのだった。輸入自動車組合が発表した10月の輸入車新規登録台数によると、VWは前年比52%の販売台数となり、メルセデス・ベンツ、BMWに次ぐ3位に転落してしまっている。

VWは全世界で昨年トヨタを抜いて販売台数世界1位になっていたが、日本市場では昨年までの15年間、年間販売台数はずっと1位であり、日本市場にとっては安心と信頼のブランドとして君臨し続けてきた。昨年は僅差でメルセデス・ベンツが2位となっていたが、今年の上半期ではとうとう首位をメルセデス・ベンツに奪われてしまっていた。

ゴルフ7が2012年に発売された後、VWの勢いはとどまるところを知らなかった。欧米でも数々の賞を受賞し、日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、初めて輸入車が受賞して話題を集めた。ターボとスーパーチャージャーを組み合わせたTSIエンジンや6速、7速のDSGが走りと燃費の良さを両立させると評判が高く、当然ながら日本でも絶賛されていたのだった。

そのように熱を帯びていたVWブームだったにも関わらず、日本市場で排ガス問題を契機に、販売が前年の半分になるほど急速に売れゆきが悪くなってくる。

日本のウェブサイトでは、今回のディーゼルエンジンが日本市場に正規輸入されてないこと、また内部調査によるCO2排出量の問題の対象となったガソリンエンジンは、改めて調査した結果、日本仕様の車両に今回の問題は該当しないことが確認されたという旨が記載され、陳謝している。日本で販売されていない車両にも関わらず、なぜ販売不振になってしまったのだろうか。10月の世界の販売台数は5.3%減だったが、日本市場は48%減というかなりの差が見てとれる。

客離れは「代替がきくブランド」だから

それはVWが代替の効くブランドだったからだろう。売れ筋のゴルフは260万円から、一番小さいup!は、150万円台からと、手が届きやすい価格設定となっている。小さいとはいえ、「ガイシャが150万円から買える」というのは少し前なら考えられなかったことなのだ。

そこにゴルフの高評価が世間もあって安心や信頼のブランドイメージは強まり、ますます売れるようになった。

以前からの印象として、VWは「日本のビジネスパーソンにぴったりなクルマ」というものがある。人にたとえると、安心、信頼、誠実で、見た目に派手さはないけれども仕事はきちっとこなすというイメージだ。

だがそのようなVWのクルマは、一度信頼を失う事件が起きると、ブランドイメージは崩壊してしまう。

一番の問題は「VWでなくてはならない理由が見つからない」ことだ。買い求めやすい価格で、誠実なスタイリング、TSIの走りは魅力的だが、今では他のメーカーにも似た乗り味を求められる。

となれば、偽装するようなメーカーのクルマにわざわざ乗らなくとも、他社に流れてもおかしくないだろう。

他のメーカーには、数は少なくとも熱狂的なファンをつかんでいるところもある。しかしVWはスタンダード中のスタンダード。良く言えば自己主張せず控えめだが、悪く言えば、印象が薄い。それならば代替品を探してしまうというのが人情なのではないだろうか。

欧州自動車工業会が12月に発表したEU内の11月の新車販売台数は108万5259台となり、27カ月連続で前年実績を上回っている。

だがVWグループのシェアは24.3%となり、前年同月と比べ2.3ポイント縮小した。市場全体の伸び率は13.7%増と拡大する中、アウディ、ポルシェなども含むグループ全体の販売台数は前年同月比4.1%増の26万3797台にとどまった。

日本では、無料点検や、新規購入者に対して5年間のメンテナンスフリーの提供を行っている。日本市場は、一度失われた信頼を取り戻すのがとても難しい国だと思うが、ぜひとも新しい商品を出して、巻き返しを図ってほしいと思う。

ゴルフ7が出たとき、あんなにも大勢の心をとらえて離さなかったのだから、きっとできるはずだ。