DC,確定拠出年金
(写真=PIXTA)

老後資金は30代の若い世代の方にとっては、まだ先の話ですし、「イマイチ実感がわかない」という方も多いでしょう。一方、多くの若い世代の方が、老後の生活に対して不安を抱えていることも現実です。

では、どうして不安なのに「実感」がわかないのでしょう。それは「将来に向けて、実際にいくらお金が必要なのか?」「いくらもらえるのか?」「いくら将来のために貯めておく必要があるのか?」ということが分かっていないからです。

「実感」を持っていただくためにヒントになるお話しをいたします。まず、皆さんに質問です。「定年退職後、余暇費用等も含めた、ゆとり生活資金として、毎月いくら欲しいですか?」

多分、ほとんどの方が考えたこともないのではないでしょうか?生命保険文化センターの「平成25年度生活保障に関する調査」では前述の質問に対する回答の平均金額は約36万円でした。一方、退職後、このゆとり生活を送るための主な原資となるのは国民年金や厚生年金といった公的年金です。

厚労省が、夫が40年間勤め、妻は専業主婦というモデル世帯の年金額を出しています。このモデル世帯の公的年金額は月額約22万円となっています。あくまでも例題でのお話しですが、定年退職後、生活資金の予算として欲しい金額が36万円/月に対して、公的年金からは22万円/月しか受け取れないとなると14万円/月足りません。この足りない14万円を「何かしらの手段」でカバーする必要が出てきます。

さらに仮に定年退職後65歳から20年間ずっと14万円の不足額があったとすると、20年間のトータル不足額は14万円×12か月×20年=「3360万円」となります。このケースの場合、運用効果を考慮しなければ今後の「ゆとり生活」のためには65歳時点で3360万円準備しておく必要があるということになります。

この約3360万円はあくまでもアンケート調査、モデル年金額の例題からの数字です。やはり大切なのは、ここで「自分だったらいくらなんだろう?」と考えていただくことです。当然、希望する将来の生活資金、受取る年金額もお勤め期間や現役時代の収入によりお一人お一人違います。

では皆さんの「いくら必要なのか?」「いくらもらえるのか?」を計算してみてください。不足額が出た場合には、何かしらの手段でカバーする必要があるということになります。この「何かしらの手段」として有効なのがDC(確定拠出年金)です。

DCとはどういう制度なのか

DCは公的年金に上乗せする制度として導入されたもので会社や個人が独自の判断で加入する制度で「私的年金」に分類されます。会社が社員のために掛け金を出す「企業型」と個人が自分で掛け金を出す「個人型」の2種類があります。

「企業型」はDC制度を導入している会社にお勤めの65歳未満の方、「個人型」は自営業者等の第1号被保険者、企業年金のない会社にお勤めの60歳未満の方が加入対象となります。「企業型」、「個人型」ともに加入後、毎月の掛け金で積み立て運用を継続し、運用商品の選択の仕方によっては積立金が増減しながら、原則60歳まで運用を行い受取ることができる仕組みです。加入し積立を始めてしまうと積立金は原則60歳まで引き出せない制約はありますが、制約がある分、掛金、運用益、給付金に大きな「税制メリット」があります。

掛金の税制メリット
「企業型」は掛金を会社が出しますので、税金や社会保険料が増えるのではないかと心配される方もいらっしゃいますが、掛金は給与とはみなされません。税金や社会保険料の負担増はなく全額運用に回すことができます。「個人型」は掛金全額が所得控除できるので所得税・住民税負担を軽減する効果が期待できます。

運用益の税制メリット
「企業型」「個人型」ともに、いくら利益が出ても運用益には課税されませんので効率よく運用ができます。

給付金の税制メリット
こちらも「企業型」「個人型」ともに原則60歳以降から通常の受取方である老齢給付金を受取り可能となるのですが、一時金で受取る場合には「退職所得控除」、年金で受取る場合には「公的年金等控除」が適用となりますので一定金額までは課税されずに受取ることができます。

③具体的にどれくらいお得なのか?

DCを使って運用をした場合、個人的に金融機関を通して直接運用商品を購入し運用をするのとではどれくらいの差が出るのか比べてみましょう。

例えば30年間、毎月掛け金2万円を今後の物価上昇に備えるために2%で運用したとしてシミュレーションしてみます。30年間の積立元本は720万円です。個人的に積立運用をした場合の30年後の受取額は運用益に20.315%の税金がかかるため約931万円。DCで運用した場合の受取額は運用益には課税されため約985万円となります。

30年間で同じ2%の運用目標が達成できたにもかかわらず運用益が非課税となるかの違いだけで約54万円の差が出る結果となりました。これに掛金に対する税制メリットも加わります。所得税・住民税等の負担軽減効果も期待でき、DCは税制面でかなり優遇された制度であることがお分かりいただけるかと思います。

NISAとの違い、投資の仕方の変化付けを

DCと NISAには引出の自由度に大きな違いがあります。DCは原則60歳まで引き出すことができませんが、NISAは自由に売却し換金することができます。ただ、NISAは一度売却すると売却した金額枠は再び利用できない仕組みになっていますので注意が必要です。

もう一つの大きな違いは選択できる運用商品です。DCは選べる商品が多くても約30商品と限られていますが、投資信託の運用商品に加えて、定期預金や保険商品といった元本確保型も選択肢にあります。一方、NISAは投資信託は通常数百本以上の商品から選ぶことができ、株式やETF等も対象となっています。

ただ定期預金等の元本確保型は対象とはなっていません。NISAでは定期や保険で手堅く運用をしたいといった選択はできないため、あくまでもリスクを伴う投資をするためのツールということになります。

機動的な売買はNISAに軍配

あとDCの欠点と言っていいかと思いますが、DCは売買に時間がかかります。「今この価格で売って、別の商品を今この価格で買います」という手続きができないので機動的な運用には向いていないと言えます。一方NISAは機動的な売買が可能です。

このような違いからDCは原則60歳まで引き出せませんが、いつでも口座内で商品の預け替えができますので、元本確保型、国内外株式、国内外債券等に分散し定期的にリバランスを行いながら、長い目で運用を行っていく「老後資金準備」に、NISAは5年は生活資金として使うことはない余裕資金を増やすといった視点で使い分けるのも良いでしょう。

ただNISAは20%、30%アップしたら売却するといった目標は設定し目標を達成したら迷わず売却していただきたいと思います。

相場が悪くなった時が怖い人へ

リスクと上手に付き合う方法には「分散投資」と「継続投資」と「長期投資」の3つがあります。DCの良いところは、DCの仕組み上「継続投資」と「長期投資」は考えなくても自然にできるところです。嫌でも毎月コツコツと積立て継続しますし、嫌でも原則60歳まで引出せませんので長期で運用ができます。

相場が悪くなった時は確かに怖いですが、実は「継続投資」していることで相場が悪くなった時も大きなチャンスと捉えることができるんです。相場が悪くなるということは安く買える時が来たということで、同じ毎月の掛金で数がたくさん買えるということなんです。相場が悪い時も、長期の視点でピンチをチャンスにと捉え乗り越えていただきたいと思います。

あとリスクとの付き合い方として「分散投資」があります。DC運用を開始し一度、分散して商品を決めたとします。ただ、運用は一度商品が決まれば終わりではありません。定期的に最低でも1年に1回は資産配分の見直し(リバランス)が必要です。リバランスとは仮に運用スタート時に株式50%、債券50%と配分していたとします。1年経過後に株式70%、債券30%と資産配分が変化していた場合、上昇した株式20%分を売却し利益を確定させ、債券を20%分追加購入し、購入時の資産配分比率に戻すことを言います。

このリバランスを行わないと、値動きのある投資信託等の運用商品は、気がつけば、上がったり、下がったりと波乗りをしているだけだったということにもなりかねない危険性もあります。定期的なリバランスを行うことでも、悪い相場と上手く付き合っていける可能性がグンと上がります。ピンチはチャンスでもあるのです。

ただ本当に怖くて仕事も手につかないといった状態になってしまっては本末転倒になってしまいますので、手堅く元本確保型メインで商品を選ぶという考え方もアリです。

以上DCを活用した「老後資金」づくりについてお答えさせていただきましたが、もうすぐ春が来ますので会社からDCを案内されることもあるかと思います。これを機に、老後資金にしっかりと「実感」を持っていただき、税制メリットを享受しながらの準備を始められてはいかがでしょうか。

寺野裕子
てらのファイナンシャルプランニングオフィス代表CFP ・1級FP技能士、投資助言業
2008年FP相談業務開始。2014年事務所運営スタイルを金融機関等からの紹介手数料を一切得ず、報酬は顧客からの相談料のみとするフィーオンリーへ移行。「ファイナンシャルプランニングは100人100様」をモットーにライフプランの実行支援を行っている。 FP Cafe 登録FP。

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