営業の評価が低い世間の風潮

営業職は他の職種と比べて一段低く見られる風潮がある。私は飛び込み営業もしていたので、人間扱いされないこともしばしばあったし、大学の同級生に近況を聞かれて「証券営業をしている」と言うと「あ……そうなんだ。ノルマ大変でしょ」と勝手に同情されることもよくあった。過去に営業をしたことがある人ですら、現場から離れると営業の存在を軽視しだしたりすることもある。

就職先を探している人のなかにも「自分はスキルがないけど体力には自信があるから営業やろうかな」と当たり前のように口にする。これらのことには、おそらく現役の営業の方には共感していただける部分は多いのではないだろうか。

(本記事は、冨田和成著『営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて』(2017/9/27 クロスメディア・パブリッシング)の一部を抜粋して編成しております)

営業に対する世間のイメージをまとめれば「とにかく頭を下げ、毎日が我慢の連続で、常にストレスを抱えている」という感じだろうか。しかし、私の考える理想の営業は「顧客に必要とされ、日々成長が実感でき、しかもストレスフリーな職業」である。この本に書いてあることをすべて実践できれば、きっとこんな理想の営業になれると信じている。ただ、日本の営業の現状を見る限り、まだまだ改善すべきことがたくさんある。

(1)改善ポイントとフロー

努力を重ねているのに営業成績が伸び悩んでいるなら、顧客リストを見直してみるいい機会である。顧客リストが会社から渡される、もしくはルート営業で営業先が決まっているという場合を除き、リスト選定ほどPDCAを回したときの成果が直接的な数字に表れるプロセスはない。

顧客リストづくりは、たとえるなら採用活動の1次選考に似ていて、もしそこで本気で入社したがっている候補者に絞り込むことができれば、後工程でのミスマッチが起きる確率が下がり、採用率が上がるはずだ。

逆に、深く考えずに候補者を選んでいては(たとえば大学名しか見ないなど)、売り手市場の現在、企業は入社のモチベーションを上げるような施策を打たないといけないので、面接の日程調整や実際の面接など、後工程でかかる手間は増えるばかりだ。手間がかかって採用率も低いのであれば、全体の生産性は著しく低くなる。

このように、採用活動のたとえにすると誰しもが「それはそうだよね」と思うだろう。

しかし、営業の現場で顧客リストのPDCAが回せているケースはそう多くないと感じる。もちろんビッグデータを活用して科学的に分析を試みるような先駆的な企業もあるが、決して主流ではない。

その理由としては、「いい顧客」が明確に言語化されていないからか、(リストを買うことが常態化していて)リストの質を改善するノウハウが不足しているからのどちらかだろう。

「予算があって、購入のモチベーションが高くて、継続的に付き合ってくれる『いい顧客』を増やしたい」これはどんな営業でも考えることだ。

でも、「いい顧客」とはどんな顧客セグメントで、どんな共通点を抱えているのかといった因数分解をしっかりしないと、取るべきアクションがわからないし、リストの改善もできない。

だから営業にとってのファーストステップは、マーケットを徹底的にカテゴリ分けしてみることだ。単に業種で分けるだけでも効果はあるだろうが、売上、会社の規模、株主構成など、さらに細かいカテゴリ分けをすることが理想だ。

次のステップはそのカテゴリを見渡して、ニーズの高そうな(扱う商品・サービスとの因果関係が強そうな)カテゴリを抽出すること。過去の取引データでその規則性が見えれば話が早いが、それがないなら仮説ベースで試験的にリストをつくって、数値改善が見られるか検証してみればいい。

もしそれで改善したら、それは「いい顧客」が言語化できたということだ。

次のステップはリスト収集。「いい顧客」の条件を満たす顧客をどう探すかを考える。この段階でリスト業者に細かい条件を指定して有料のリストを買うのも手だが、言語化できているならネット上のデータベースを使うなどして自分でもいくらでも情報収集はできる。そうやって情報源が複数見えてきたら、実際にどのリストを使うか考える。

そして最後は、ここも重要な点だが、「もっといいリストはないか」と問い続けることだ。リストには限りがあると感じている人もいるかもしれないが、このように仮説を使えばリストの質も量もいくらでも改善できるのである。

(2)無料で入手できるリストはいくらでもある

日経テレコンは有料だが、業界団体のホームページのように、わざわざリストを買わなくても使える情報は世の中にいくらでもある。

この発想自体、営業1年目で立てていた仮説だ。

たとえば、ウェブ版の電話帳であるiタウンページ。

iタウンページを使えば、地域について○丁目レベルまで絞れるし、キーワード検索機能があるので特定の業種を絞ることもできる。

試しに私が担当していた杉並区で「不動産 賃貸」というキーワードを入れると48件出てきた。そこから大手を除いていけば5分もかからずにリストがつくれる。地元で不動産賃貸をしている企業のなかには、地主がある一定割合いるので、このようなリストは富裕層である確率が高く、また相続対策のニーズがある地主をあぶり出す貴重な手法になりえる。

さらにホームページへのリンクも貼ってあるので、創業年や売上規模、従業員数のような、あとあと必要になるニーズの仮説構築のための情報収集がスムーズにいく。

現在では、iタウンページの情報は、それをベースにリスト選定を代行する会社も存在するくらい有益なデータベースになっている。

また、医療法人のオーナーを探すために私は保健所も使っていた。保健所に行けばその地域の医療法人のリストを無料または有料で取得できるところがある(ネットに掲載されているケースもある)。電話帳や日経テレコン、業界団体のホームページなどはすべての該当企業を網羅するわけではないが、行政が絡んでくると、情報を取得できるところであれば、開示率は100%だ。

このように少し頭を使えば自分で情報を集めなくてもそのまま使えるデータベースはいくらでもある。それに日経テレコンも、スクリーニング条件に合致する企業の社名だけは、無料で知ることができるということも付け加えておく。

(3)リストの質を効率よく上げる方法

リストづくりのいいアイデアを思いついたからといって、いきなり完全なリストをつくろうとするのは効率的ではない。検証を経て、その精度を確かめるまで仮説はあくまでも仮説だということを忘れてはいけない。

エリック・リースの『リーン・スタートアップ』(日経BP社)で提案しているMVP(Minimum Viable Product=評価可能な最小のプロダクト)のように、肝心なことは仮説を立てたらまずは小さく試すことだ。いきなり3000社分のリストをつくって効果が出ないことに気づくことほど時間のロスとモチベーションの低下を生むものはない。そのようなリスクを避けるためにも、とりあえず効果が定量的に検証できると思われる最小単位(たとえば100社分)のリストをつくって、実戦投入してみるといいだろう。

私はいつもそうしていたし、いまの自分の会社でもそうさせている。そこで受付突破率なメール返信率などの主要KPIがスクリーニング前と比べて明らかに跳ね上がるようであれば、残りの2900社分を集め、そしてアプローチをかければいい。

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冨田和成(とみた・かずまさ)
神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。