「子は親の鏡」であることの問題
なぜ「まだ若すぎる」と思っているうちに相手がいなくなるキリギリス現象が生じているのだろうか。
結婚を考える上で、親の結婚活動は子どもにとって最も身近なロールモデルである。
現在の18歳から34歳までの年齢の男女が産まれた頃に親が結婚したであろうと推定し、図表2の調査行われた2010年のおよそ30年前の1980年と設定すると、その生涯未婚率は男性が2.6%、女性が4.5%である。
現在から見ると「男女とも結婚希望の叶った」未婚率となっている(図表1)。
そこで、現在の主たる結婚活動世代の最も身近なロールモデルとなった親世代の結婚に関係する諸データと現在のデータの比較を試みたところ、大変興味深い結果が示された(図表3)。
図表3からは、男女とも大学進学率が大きく伸びており、男性でも2割、女性は3割も増加していることがわかる。つまり、男女とも「学生時代の延長化」が生じたのである。
一方、給与でみると30年も経過しているにも関わらず、物価調整をかけると30万円しか増加していない。給与所得者が買い物をする際のお財布事情はあまりかわらない、ということが出来るだろう。
そして、結果的に初婚年齢は男性で約3歳、女性で約4歳上昇している。この3年から4年という初婚年齢の上昇は、まさに大学進学率上昇による「学生時代の延長化」年数分に近似している。
まだ高卒や短大卒の男女が主流だった親の世代では「学生=結婚年齢ではない」という認識となっていたと推察される。このため、大学進学率の急増による「学生時代の延長化」は、 子どもの年齢が親の時代より上昇しているにもかかわらず 、親世代に「学生だからまだ結婚に若すぎる」という認識をもたらしているであろうことが容易に予想される。
「学生だからまだ結婚に若すぎる」という感覚は、当然ながら30年前と比較して学生時代の延長分だけ晩婚化・晩産化をもたらしており、ひいては生物学的な時間の限界が明確な出生率の低下を招いている。上智大学の家族社会学教授ミュリエル・ジョリヴェ氏が指摘する生物的な限界(biological limit)を全く考えていない日本の成人した若者の姿、そのものが導かれるデータの一つである。
次に、図表からは25歳以上の女性の労働力も大きく上昇したことがわかる。24歳までの女性労働力率には変化がないことをみると、主に大学進学後の女性が仕事をやめずに継続するよう変化した、ということがわかる。
延長化した学生時代が終了した後も、女性の就業継続が当然となってきたため、いざ結婚を考える段階になった時には、寿結婚が主流であった親世代からみるとアドバイスしようにも「経験則が通らない(または、受け入れてもらえない)」時代となっている。また子どもから見ると「親が参考にならない(または、したくない)」時代となっている。
つまり、ロールモデルである親の結婚観に引きずられたまま学生期間を終了し、現在の「適齢期」になった途端活動しようとしても、親の時代に存在していた結婚を取り巻く環境がなく困ってしまうというのが実態ではないだろうか。
ここで、学生時代の延長化と女性の就業継続の増加という環境変化への対応からたとえ結婚活動が遅れたとしても、晩婚化するだけで「結婚希望は叶う」のではないか、と思われるかもしれない。しかし、図表4は、少なくとも日本においては、年齢が上がるほど男女とも結婚相手がいなくなり結婚できなくなる構図が明らかとなっている。
「まだ若すぎる」という感覚は、現在の若者のサイドの問題だけではない。
彼らを取り巻く社会の感覚がいまだ30年前にとどまっている可能性が高いことが、未婚化の問題の本質ではないかと筆者は考える。
家庭において「いずれは結婚したいと漠然と思っている」19歳の娘、息子に「結婚を前提として異性をしっかり探しなさい」と私たち親世代は諭しているだろうか。
そして、いまだ日本の企業は1980年の頃のままの従業員の入社年数と結婚適齢期の感覚を引きずっていないだろうか。
図表5をみると、1980年に一般的であった結婚適齢期に今の2010年の若者が結婚しようとすると、男性は入社6年目、女性は入社3年目であり、1980年当時の入社年数を基準とした人材育成コース・人材管理に大きな見直しを企業側が行っていない限り、「結婚にはまだ早すぎる」という職場環境が醸成されていると考えられる。
実際、「入社後数年の」23才の従業員に「近いうちに結婚を見据えた生活・意識が可能な」社内風土が多くの企業にあるといえるだろうか。
30年前の入社年数を継承する形での上司や職場の結婚観が、若手従業員に「まだ早すぎる」という感覚を暗黙のうちに押し付ける形になっているのであれば、大半の男女の意に反した未婚化が進む日本において早急に見直されなければならないだろう。
「子は親の鏡」。現在の日本における若い男女のキリギリス的な結婚活動は、それを見守る社会の姿そのものである、とも言えるのではないだろうか。
天野馨南子(あまのかなこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部
研究員
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