プライベートでついついお金を使い過ぎてしまった……。そんな経験は誰もがあるだろう。ビジネスだと経費精算という仕組みがあるため、一つ一つを気にしながら使っていても、プライベートという他者の評価の絡まない場面になったとたん、サイフの紐が緩んでしまうのが人間の性だ。
しかしそれではお金は貯まらないし、住宅やクルマを購入する、子どもの進学費用を支払うといったこともままならないだろう。あるいは、まとまった資産がない状態で老後を迎えることは、これからの時代、極めてリスクが高いといえるだろう。
「安心した老後を送れるだけの資産を築きたい」「まとまった貯金が欲しい」と考えるのなら、これからご紹介する「経営者の考え方」はきっとあなたのチカラになる。外食に家族のレジャーに趣味に…といういつものお金の使い方に、経営者の視点をちょっとプラスするだけで、資産形成がより容易になるのだ。
経営者の考え方のキホン「投資金額を回収できるかどうか」
デキる経営者は常に「投資金額を回収できるかどうか」を意識している。これは意味のある投資なのか、投資した先の市場には収益可能性があるのか、回収できるとしたら投資額に対して何パーセントなのか。そして、投資や経営を行う際に参考とするのが次の財務三表である。
- 貸借対照表(B/S)…会社の健全性や安全性、安定性
- 損益計算書(P/L)…会社の過去1年間の経営成績、会社の儲け
- キャッシュフロー計算書(C/F)…会社の実際のお金の動きや流れ(B/S.P/Lだけでは分からない)
これら財務三表から次のような指標を使って、お金が効率よく使われているかを見ていくのである。 どのような指標を意識しているのか例を挙げてみる。
財務レバレッジ…「総資産/純資産×100」で計算
借金などの負債が効率よく使われているかどうかを示す。数値が大きいほど財務リスクが高い。
総資産利益率(ROA)…「利益/総資産×100」で計算
利益を生み出すのに資産を効率よく使っているかどうかを示す。数値が大きいほど資産の収益性が良い。
自己資本利益率(ROE)…「利益率/純資産×100」
利益を生み出すのに株主が出資した資本(純資産)を効率よく使っているかどうかを示す。数値が大きいほど資本の収益性が高い。
総資産回転率…「売上/資産」で計算
会社が持っている資産がどれだけの売上を生み出しているかを示す。数値が高いほど資産を有効活用している。
会社は営利目的のために存在する。だから有能な経営者ほど投資には常に慎重だ。そして、財務三表から数字を拾い、これらの指標を用いて総資産や負債、純資産を有効活用できているか、利益をきちんと生み出しているかを常に細かくチェックしているのである。
富裕層への最短コース「デキる経営者の考え方」を応用
こういった「デキる経営者の考え方」をプライベートのお金の使い方に取り入れている人は非常に少ない。なぜなら、いったん入ったお金は貯めるよりも浪費する方がラクだからだ。なおかつ、人は収入が増えれば増えるほど支出もまた多くなる。攻めが強くなるのはよいことだが、それに伴って守りが弱ければいつまで経っても資産は形成できない。つまり、何も考えずにお金を使っているからこそ、収入が増えても資産形成がままならないのだ。そういう人ほど、経営者の目線に学び、家計をコントロールしていく姿勢が必要だ。ちょっと目線を変えるだけで、お金の守りが強くなり、あっという間にひとかどの資産を作ることができる。
ポイントはただひとつ、「この支出は私の人生にどういう結果をもたらすか?」を常に意識することだ。
たとえば、あなたの手元に5000万円あるとしよう。子供が増えたこともあり、これまでの賃貸ではもはや手狭になったので、住宅購入を考えている。妻からは「セレブ人気の高い地区に新築デザイナーズマンションが5000万円で買える!これはオトクよ!」と言われた。その地区は勤務先から乗り換え3回で1時間かかる。一方、都内S区には中古のマンションが3500万円で買える。勤務先にも近い。さて、このまま妻の言う通りに購入しようかどうか。
このとき、意識すべきポイントはやはり「この新築デザイナーズマンションを購入したら私や私の家族の人生にどういう結果をもたらすか?」だ。具体的には次のようになる。
「この住宅でどういうライフスタイルを過ごすことになるのか」
「近くに質の良い公立の学校はあるかどうか」
「通勤先からどれくらい近いか、通勤で疲弊することはないだろうか」
「売却するとしたらいつ頃か、そのとき売却したらいくらになるのか」
新築マンションはたとえどんなにデザインがよくても買った瞬間から一気に値下がりする。もし5000万円で買ったのなら、売却する時には1000万円台に落ち込むかもしれない。なおかつ、修繕積立金をあまり要求してこないマンションなら、大規模修繕のとき、一気に莫大な費用を理事会から請求される可能性がある。人気のある地域でも郊外ならば通勤の往復だけで疲弊し、仕事に支障が出るかもしれない。質の良い公立学校がなければ、高額な私立に子供を通わせる羽目になるかもしれない。その地区が高級住宅街なら物価も当然高くなりやすいので、食費などの生活のランニングコストも高くなりやすい。
一方、中古マンションならば、大きな価格変動をすることは少ない。理事会がしっかりしていて修繕積立金の積立具合が万全ならば、大規模修繕になっても多額の修繕費を請求される可能性は少ない。かつ、近所に質の良い公立の学校があるのならば、教育費を抑えることだって可能だ。通勤距離が短ければ、その分疲労は少なく、仕事に集中することができる。
また、別の視点を持てば、手持ちの5000万円をすべて住宅購入に充てるのではなく、一部を購入に充て、残りを株式などの投資に充てれば金融資産が増えていく可能性がある。また、現在の1%以下の住宅ローン金利を利用すれば、5000万円を投資に充てる部分と預金として取っておく部分とに分けることができ、投資で2%以上の利回りが得られるように設計すれば、安全を担保しつつ資産を殖やしていくことになる。
つまり、守りを意識しながらお金を使うには、その後のランニングコストや給料や事業収入という収益性まで鑑みる姿勢が必要になるのである。こういった姿勢は住宅購入という大きい買い物のときだけではない。クルマの購入、外食やレジャー、子どもの教育費など、ひとつひとつについて「これは私にとってメリットがあるか?どういう結果をもたらすのか?具体的には?」と吟味することが大切だ。
「ひとつひとつの支出を吟味する」というのは、これまで何も考えずにお金を使っていた人にとってかなり面倒な作業に映るだろう。ただしそれは最初のうちだけだ。試しに3週間やってみていただきたい。最初は大変でも、いったん習慣化すれば、あとは自然と資産額が増えていくことになるだろう。
鈴木 まゆ子 税理士
税理士鈴木まゆ子事務所代表。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。妊娠・出産・育児の傍ら、税理士試験を受験し09年に合格、12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を専業とする行政書士の夫と共に外国人の起業支援に従事する。現在、国際相続などについての記事執筆に取り組む。税金や金銭に絡む心理についても独自に研究している。ブログ「
税理士がつぶやくおカネのカラクリ
」