日本,潜在成長率
(写真=PIXTA)

要旨

日本の潜在成長率は1980年代には3~4%台だったが、バブル崩壊後の1990年代前半に大きく低下し、1990年代後半以降は概ね1%を割り込む水準で推移している。日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所による直近の潜在成長率の推計値は0.2%、0.3%、0.3%といずれもゼロ%台前半となっている。

潜在成長率は推計方法や推計に用いるデータによって数値が異なることに加え、新しいデータの追加によって過去に遡って推計結果が改定されることが多い。たとえば、ニッセイ基礎研究所による潜在成長率の推計値は2007年度が当初の2.1%から1.3%へ下方改定される一方、2010年度が当初の▲0.2%から0.5%へ上方改定されている。

先行きの成長率によって潜在成長率がどのように変化するかをシミュレーションすると、今後3年間の成長率がゼロ%の場合には潜在成長率もほぼゼロ%となるが、1%成長の場合は0.5%、2%成長の場合は1.1%、3%成長の場合は1.6%となる。また、1%以上の成長が続いた場合には先行きだけでなく足もとの潜在成長率も高まることになる。

ゼロ%台前半とされている現在の潜在成長率はあくまでも過去の日本経済を現時点で定量的に捉えたものであり、将来の経済成長を決めるものではない。少なくとも現時点の潜在成長率を所与のものとして日本経済の将来を考える必要はない。

はじめに

日本の経済成長率の低迷に歯止めがかからない。安倍政権が発足してからの3年間(2013~2015年度)で企業収益(法人企業統計の経常利益)は37%、雇用者数は151万人の大幅増加となったが、この間の実質GDPの伸びは1.9%(年率0.6%)にすぎない。

2015年度の実質GDPは前年比0.8%と2年ぶりのプラス成長となったが、2014年度の落ち込み(同▲0.9%)を取り戻すまでには至らなかった。一般的に、経済成長率は短期的には需要要因、長期的には供給要因で決まるとされる。

最近の成長率の低迷は消費税率引き上げに伴う個人消費の落ち込み、海外経済の減速による輸出の伸び悩みなど、短期的な要因によって押し下げられているという側面もある。しかし、過去10年間(2006~2015年度)の平均成長率も0.4%にとどまっているため、成長率低迷の主因は供給力、すなわち潜在成長率の低下にあるという見方は多い。

実際、日本銀行、内閣府が推計する直近の潜在成長率はそれぞれ0.2%、0.3%と極めて低い水準となっており、経済成長率を高めるためには構造改革などによって潜在成長率を引き上げることが急務とされている。

しかし、潜在成長率(供給力)が低下する一方で、GDPギャップはマイナスが続いており、このことは日本経済の供給力に需要が追いついていないことを意味する。日本経済が長期にわたり停滞を続けている原因としては、需要不足によるものなのか供給力の低下によるものなのかは必ずしも明らかではない。

本稿では、日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所による潜在成長率の推計値がいずれもゼロ%台前半まで低下していることを確認した上で、潜在成長率を推計する際に一般的に用いられる生産関数アプローチの概要を解説する。

さらに、実績値の改定、新しいデータの追加によって潜在成長率の推計結果が大きく改定されてきたことを踏まえ、先行きの経済成長率によって将来だけでなくゼロ%台前半とされている足もとの潜在成長率が今後大きく変わりうることを示す。