不動産アウトバウンド投資,国内機関投資家,取り組み
(写真=PIXTA)

世界の不動産市場でリーマンショック後の回復が始まりつつあった2011年に、国内企業年金や金融法人で投資を担当する方々を集めたイベントで、海外不動産投資について説明する機会があった。

その際に、国内の投資用不動産の市場規模は、経済規模からするとアメリカに次いで大きいのだが、優良な物件は企業が持ち続けることも多いため、なかなか機関投資家の投資対象として市場に現れにくいこと、また国内不動産市場には常に人口減による成長性の低さがついてまわるが、そうであれば、機会を求めて海外不動産の投資を検討してもよいのでは、というようなことを話した。

そして、その投資対象となりうる、さまざまなリスクレベルに対応した投資商品を、日本に拠点をもつ外資系の不動産運用会社で運用中であるといった紹介もした。ただ当時はまだ、実際に投資に至った事例が少なく、国内投資家向けにセットアップされたファンドは少なかったと記憶している。

現在も多くの企業年金では、海外不動産投資には距離を置くケースが多いと聞く。とはいえ、国内私募リートへの投資が拡大するにつれ、私募リートの特徴である払い戻しにより換金性を確保するオープンエンドの仕組みへの理解は進み、オープンエンドの海外不動産ファンドへの投資は徐々に増えてきている。

運用委託機関によるこうしたファンドの取り扱いも増え、オープンエンドファンドを対象としたファンドオブファンズも複数提供されている。投資する側にとっては選択肢が増え、比較検討のプロセスがとれるようになったことも投資のハードルを下げているようだ。

大手銀行や保険会社などの金融法人でも、海外不動産ファンドへの投資を行っているケースが見られる。年金の海外不動産への投資理由で最も一般的なものは「分散」だが、大手銀行などでは、海外拠点の機能を活かせるなどの理由もあるようだ。また、租税条約によって原則法人税非課税を前提とする年金と異なり、法人課税への対処問題を抱える金融法人は、現地子会社での投資を選択している場合もある。

リスク管理や投資後のモニタリング方法は、各金融法人によって異なることから、不動産投資のリスクを抑えるスタンスであれば、長期的にインカム収益を確保でき、定期的に換金可能なオープンエンドファンドを投資対象とすることが想定される。終了期限がないことから、出口でのリターン変動が抑えられるメリットもある。

一方、比較的リスクを許容するスタンスであれば、オープンエンドファンドだけでなく、運用中は換金できないクローズドエンドファンドでのバリューアップ投資や、共同投資も行っている場合もある。共同投資では、現地の市場感などを踏まえ主体的に投資を判断する必要もあることから、まさに現地拠点があり情報が豊富であることで可能な手法といえるかもしれない。

今年に入り、地方公務員共済組合連合会が不動産運用委託先の選定結果を複数公表した。福利厚生施設でない不動産投資が現実のものとなってきている。選定されたのは、直接不動産投資を行う運用会社ではなく、そうした運用会社あるいはファンドを選定するゲートキーパーで、国内不動産で2社、海外不動産で1社が選定された。

同連合会の運用資産規模は10兆円を超えているが、同じ規模の海外の年金基金などと比べると運用の人員は格段に少ないため、こうした海外年金と同レベルで不動産投資に携わるのは難しい。にもかかわらず企業年金よりは大規模で投資額も大きいものとなることが予想され、さらに投資先が国内より情報の少ない海外不動産である場合、運用委託先の担う役割が大きいと思われる。このことは、他の共済組合や公的年金が不動産投資を行う場合にもあてはまる。

それぞれの投資家層ごとに投資の方法、体制、目指すリターンは異なるが、海外不動産投資の実績や取り組みは、目に見えて増えてきている。そうした中、運用会社選定や投資家対応において、また投資する側でも経験を積んだ人材が増え、その知見も高まってきているのは確実と思われる。

世界的に不動産利回りが低下する中、投資対象の選別はより慎重さを要するものの、この数年間に海外不動産への投資環境はより整ってきている。そして今後は、海外の不動産投資マネージャーに対しても存在感のあるゲートキーパーや投資担当者を増やしていくことも重要ではないだろうか。そのためには、人材配置が短期に終わらないことも望みたい。

加藤えり子(かとう えりこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産運用調査室長

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