昨年の今頃を振り返ると、2016年の為替見通しは米金利上昇を背景にドル高見通しが優勢であった。結果的にはドル高に終わったイメージではあるが、ドル円は2015年末の1ドル=120円台には届いておらず、ほぼ「往って来い」ながらも、小幅な円高で終わっている。

今年の為替市場を簡単に振り返ると、年初はドル高が進んだが、その影響で新興国を中心に景気が減速し、米国を含む世界経済に変調が見られたことからFRBがハト派へと転じ、歩調を合わせてドル安へと転じた。年後半までドル安基調で推移していたが、米大統領選でトランプ氏が当選すると、米金利とともにドルが急騰し、100円近辺にあったドル円はあっという間に120円目前まで円安が進んだ。

この「トランプラリー」によるドル高はどこまで続くのだろうか。今回は金融機関の予想を手がかりに2017年の為替市場を展望してみたい。

ドル高で一致も、ドル円の見通しには幅がある

外資系金融機関の予想をみると大勢がドル高を予想しており、トランプラリーによるドル高は2017年も続く見通しだ。ただし、ドル円については円高を予想する声もあり、意見の相違も見られる。

ドル高の理由は主に米金利の上昇にあり、トランプ次期政権による減税、規制緩和、公共投資の拡大が米インフレ率の上昇を招くとの見方が金利の先高観を促している。また、FRB(米連邦準備理事会)が利上げ継続の意思を示していることもドル高予想を後押ししている。

とはいえ、「トランプノミクス」が実現するかどうかはまだ未知数であることから、予想には幅がある。

2017年末のドル円を最も円安に予想しているのはBNPパリバで1ドル=128円となっている。モルガン・スタンレーが125円、HSBCが121円で続いている。モルガン・スタンレーは2018年央に130円を見込んでおり、円安トレンドがかなり長期間続くと予想している。

こうした見方に一石を投じているのがシティ・バンクで、12月28日現在、今後3カ月間の目標値を111円、6カ月から1年後までを115円と予想した。2017年のレンジを100-115円としており、ドル円は中長期的に円高に向かうと考えている。ドル円の上昇を支えてきた2つの要因が時間とともに消滅するからだ。すなわち、日銀の長短金利操作と量的緩和の維持が今後はますます難しくなり、12月の利上げで米金利のスティープ化はほぼ終了したとみている。

ユーロドルはパリティ割れへ

ドル円の見方に幅があるのに対し、ユーロドルの見方はパリティを割り込むとの見方でおおむね一致している。

例えば、ドイツ銀行は2017年末のユーロドルを1ユーロ=0.95ドルと予想。2017年を通じて利上げスタンスのFRBと緩和継続のECB(欧州中央銀行)の金融スタンスの違いにより、欧米での金利差が拡大することを理由に挙げている。金利差に着目したユーロ安はドル円での円安と同じ構造だ。

シティバンクはユーロドルの目標値として今後3カ月を1.05ドル、半年から1年を0.98ドルとしている。米金利の上昇に加え、ドイツとイタリアでの金融セクターへの懸念、英EU離脱の“ハード・ブレグジット(強硬離脱)”など政治的なリスクもユーロドルにはネガティブに働くとみている。

<人民元は下落が続く、円高要因の可能性も>

中国の人民元は2017年も引き続き下落する見通しだ。例えば、ゴールドマン・サックスは3カ月後、6カ月後、12カ月後の見通しをそれぞれ1ドル=7.00元、7.15元、7.30元と予想している。ゴールドマンは2017年1-3月期の中国成長率が年率5.5%まで低下するとも予想しており、警戒感を強めいてる模様だ。

トランプ氏は大統領就任直後に中国を為替操作国に認定すると公約しており、1月20日の就任式での発言も注目されている。

中国は輸出の減少、インフレ率の上昇、不動産価格の上昇、不良債権処理など多くの問題を抱えており、人民元の下落は世界経済を揺さぶることになりかねない。人民元安による世界的な株価の下落はドル高要因と見られているが、リスクオフでは円も買われることから円高要因にもなりそうだ。

<日系でも見方の分かれるドル円の行方>

日系の金融機関を見ると、三井住友銀行は2017年末のドル円を120~125円と円安を予想している。米国や欧州において政治的な混乱がないことを条件としており、国際政治が混迷した場合には105~110円と円高でのレンジを見込んでいる。

一方、大和証券は円高を見込んでおり、2017年末のドル円を100円と予想した。金利上昇とドル高で米経済のさらなる改善は困難となり、景気減速で金利の上昇が止まり、株価も軟調に転じることでリスクオフの円高を予想している。

年末125円がメインシナリオだが100円を目指すリスクにも注意

専門家の見通しを集約すると、2017年もドル高が継続し、年末はドル円が125円、ユーロドルは1.00ドルが目安となりそうだ。ただし、世界の政治経済が何事もなく無事に1年を過ごした場合を想定しており、メインというより楽観シナリオに近いかも知れない。

米国が「アメリカ・ファースト」を掲げて、保護主義的、排他的な外交政策を展開することはほぼ確実である。問題は中国などの反応であり、国際秩序が混乱をきたすようだと“有事の円高”となる可能性がある。英国のEU離脱プロセスが“ハード・ブレグジット”となることも懸念材料だ。

一旦リスク見通しが強まれば、安全な資金の逃避先としての円需要は急速に高まると考えられている。欧米中での政治・経済リスクを踏まえると、100円を目指すリスクシナリオがいつ発生してもおかしくはなさそうだ。(ZUU online 編集部)