インタビュー,三菱UFJモルガン・スタンレー証券,折見世記,バフェット指標,テーパリング
(写真=ZUU online)

1990年代、ロンドンで6年間のセールス・ディーラーを経て、現在は地方金融機関中心に市況見通しや投資戦略をコンサルティングしている折見世記氏。株式が専門の同氏は、相場の転換点をどのような視点で分析しているのか。(聞き手:ZUU online編集部 菅野陽平)※インタビューは2017年1月11日に行われました。

相場の転換点を測る折見式「バフェット指標」

——2016年はボラティリティが高く、テールリスクと呼ばれることが頻発した年でした。今後、個人投資家はどのように立ち向かっていけばよいでしょうか。

リーマン・ショック後、米国株式を中心に株式資産は約8年に渡ってブル相場が続いていますが、上昇し続ける相場はありません。では、いつ崩れるか。ひとつ参考にしたいのは、時価総額を名目GDPで割った数値、いわゆる「バフェット指標」です。株価の適正水準をはかる際、長い目で見たら一国の株価は経済力に見合った水準に近づくと考えられるため、値が1を超えると過熱感があるといわれています。

私は少しアレンジを加えておりまして、分母に名目GDPではなく「名目GNI(国民総所得)」を持ってきて分析しています。昔はGNP(国民総生産)と呼ばれていたんですが、現在、内閣府はGNPを発表しておらず、概念も金額も同じであるGNIに統一しています。

これ(折見式バフェット指標)で日本株と米国株を分析すると、興味深いことにボトムが50%、だいたい上限が100%なんですよ(編集部注:時価総額を名目GNIで割り100を掛けてパーセント表記にしている)。そして今、日本は100%のところにいます。

——どれくらい前から取ったデータなのですか。

1980年代の半ばくらいからのデータですね。100%前後のピークをつけてから約3年くらいもみ合い、その後、50%前後まで落ち込む鋭角的な下落となる傾向があります。

アメリカの場合、分母はGNIではなくGNPですが、リーマン・ショック後の底値は、アメリカも日本もだいたい50%です。あくまで過去のデータによると、という前置きが必要ですが、50%になったときは、もう「買い」なんですよ。誰がなんと言っても「買い」です。だいたい3年後にイグジットするイメージで、買って買って買いまくる。

でもたぶん普通の人は買えないんです。怖くて(笑)。バブルが崩壊したあと、下がって下がって、もうどうしようもなくなって、みんなが「もう駄目だ」と思っているときに50%つけますので。ちなみに、このときに買って大儲けしたのがウォーレン・バフェットその人です。ゴールドマン・サックスへの出資をはじめ、世界同時金融危機の最中、果敢に買い向かいましたよね。

過去の事例に共通するのは「金融当局の引き締め」

——過去どのような例があったのですか。

1980年代半ばから少なくとも3回、歴史は繰り返されています。ひとつはご説明した通り2008年前後の信用バブル崩壊による世界同時金融危機(サブプライム・ショック)、次に2000年前後のITバブル、最後に1990年前後の平成不動産バブルです。

これらの3つにはある共通点があります。それはバブルのピークアウトの原因(遠因)は、財務省や中央銀行など「金融当局の引き締めが絡んでいる」ということです。

平成不動産バブルの場合は、当時の大蔵省がバブルつぶしに動いて、「総量規制」という金融引締めを行いました。これは金融機関に対して不動産融資の伸び率を「総貸出の伸び率以下に抑制しなさい」という行政指導です。当然、不動産融資は減る。不動産市場にお金が入らなくなりますから、不動産価格の高騰抑制には効果があったんですけど、1980年代後半は山手線内の地価で米国全土が買えるといった試算まで出る状況までバブルが膨張していたため、急激な信用収縮が起こりました。結果として、ご存知の通りまずは株式市場が、少しタイムラグを置いて不動産が暴落しました。

——日経平均は1989年につけた最高値3万8915円を未だに超えることができませんね。ITバブルの高値は2万833円です。

ITバブルに関しては「西暦2000年問題」が関係しています。西暦2000年問題によってコンピュータの誤作動が起こり、金融システム不安が起こるのではないかという懸念から、世界中の中央銀行が1999年の秋頃から年末にかけて流動性を一気に供給したんですね。過剰流動性相場がほんの短期間に起きて、行き場を失ったお金が一気に株式に流入したのです。

当時ハイテクと名のつく銘柄は強烈に上昇しました。そのときの最高値を更新できない銘柄もたくさんあります。ところが2000年の2月くらいになると、コンピュータの誤作動もあまり起こらず、金融システム不安も起きなかったということで、今度は世界中の中央銀行が一斉にマネーを引いたんです。これによって何が起きたかというと、やはりバブルの崩壊ですね。

——そして記憶に新しい世界同時金融危機ですね。

世界同時金融危機の発生原因は非常に複雑ですので簡潔に申し上げます。当時、サブプライムローン問題が燻っているなかで、保険の市場、いわゆるCDS取引が金融機関を中心に活況だったわけです。しかし当時、保険マーケットは決済機関がなく相対取引でした。

相対取引ということは、ある金融機関が万歳してしまうと、その先にどこが繋がっているか見えない。カウンターパーティー(取引相手)リスクが高まって、不安が連鎖してしまったわけです。言い換えると、保険取引を決済する機関がないのにも関わらず、リーマン・ブラザーズを潰したことによってカウンターパーティーリスクが広がってしまったわけです。

「中央銀行が資金供給の量を減らす」サインに注目

——非常に興味深いお話です。個人投資家としてはどう気をつければいいでしょうか。

結論から言うと、「中央銀行から資金供給の量を減らす」サインがでてきたら注意が必要です。もっと具体的に言えば、「FOMC議事録でFRBのバランスシートを縮小する議論」がでてきたら、さっき言った50%への大津波が来る可能性があるので、そのときはもう儲かっていようが損していようが、いったん株式を現金化した方がいいと考えています。

段階的な利上げよりも、流動性を絞るタイミングに相当影響があると思っています。FRBのバランスシートは、債券やMBSを大量に抱え膨張しています。現在は、満期がくると再投資するのでマネタリーベースは減らないのですが、これをいつ減額していくか。FOMCの3週間後にFOMC議事録が発表されるので、再投資に関する議論には注意を払いたいですね。議事録だけでは会議の全容は分からないのですが、ある程度はつかめます。

再投資を減らす議論が全くないうちは、徹底した「押し目買い&戻り売り」のスタンスを取りたいところです。ある程度、株を持ってないと寂しいというのであれば、短期売買を推奨する気は毛頭ないんですけど、長く持ち続けないのが鉄則ですね。安全性、流動性というのを念頭に置きながら投資をすることが重要です。

先ほど申し上げたように、基本的には50%のときに一気に買い、上昇局面では押し目買いして、100%ゾーンに達するまで持ち続ければいいんですよね。100%に到達したら、利益確定できるものは一旦売って、100%ゾーンのボックス相場で、押し目買いと戻り売りを行う。流動性収縮のシグナルを確認したら、儲かっていようが損していようがキャッシュに戻す。この動きを徹底したいですね。

——現在の状況も過去3回と似ているように感じます。各国がマネーを大量に供給して、ボックス入って数年経つ。もうそろそろ、なのでしょうか。

最近、市場関係者と話していて感じることなのですが、リーマン・ショック以降に入社した人たちが結構増えています。リアルで急落局面を体験していないので、その意味では、リスク管理にはやや不安が残ります。政策当局の人は、リーマン・ショック前から第一線でやってる人ばかりですから、その点は大丈夫だと思いますが、記憶は時間とともに薄れてしまうものです。

今年か来年か分かりませんが、少しずつ転換点に近づいていることは事実だと思います。ただボラティリティは収益の母でもありますので、過去の事例から危機対応の方法を学びたいですね。

折見 世記(おりみ・せいき)
1986年、第一證券入社。6年間のロンドン駐在を経てリサーチセンター配属。つばさ証券投資情報部(チーフ・ストラテジスト)、UFJつばさ証券投資情報(チーフ・ストラテジスト)、三菱UFJ証券投資情報部(シニア投資ストラテジスト)を経て、2010年5月より現職の三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資情報部(シニア投資ストラテジスト)。ユーロマネー(Jマネー)等に執筆掲載、セミナー等講師多数。