前向きになれるから、行動も変わる
新しい習慣を身につけようとしても、三日坊主で終わってしまう。その繰り返しから脱却するにはどうすればいいのか。独自の行動習慣化メソッドを開発し、数々の企業や学校で実践している永谷研一氏は、「自己肯定感」がポイントだと言う。「できたことノート」を使った習慣化の方法をうかがった。
習慣が身につかないのは人間本来の性質のせい?
「新しい習慣を身につけよう」と意気込んだものの、なかなか長続きしない。そういう経験をしたことがある人は多いでしょう。
その原因は、「現状維持バイアス」という、人が誰しも持っている性質にあります。すでに定着した行動を変えようとすると違和感を覚えて、元に戻そうとする力が働くのです。
ですから、新しい習慣を身につけるには、ほんの少しずつ行動を変えていくのがコツ。日々の行動を振り返りながら、少しずつ調整を重ねていくのです。
そして、自分の行動を振り返るときに気をつけていただきたいことがあります。それは「できたこと」に意識を向けること。
人の脳は、欠点や不足といったネガティブな部分を強く認識するようにできています。ですから、単に振り返りをするだけでは、「やろうと思ったのに、できなかった」という失敗体験ばかりが積み重なることになり、新しい習慣を身につけるのを諦めてしまうのです。
この状態から抜け出すためのツールが「できたことノート」です。「できなかったこと」に向きがちな意識を、「できたこと」に向けるためのものです。「できたことノート」を使うことで、「自分はできる!」という自己肯定感が高まってきます。
「なりたい自分」に近づけば自己肯定感が高まる
それでは、「できたことノート」の使い方を具体的に説明しましょう。
最初のステップは、「日々のさなできたこと、より良くできたこと」を、毎日1~3個ずつ見つけて書き出す、という作業です。「食事をきちんと噛んで食べられた」「部下に笑顔で挨拶できた」といったささやかなことでかまいません。他の人と比べるのではなく、自分として「できた」と思ったことを書いてください。
次のステップは「内省」です。1週間ごとに、その週に書き出した「できたこと」の中から1つを選び、振り返るのです。どれを選ぶかは、直感で決めるのがいいでしょう。直感で選んだことは、本人が「こうなりたい」と思っている目標や理想と関係しているものだからです。
選んだら、その出来事の詳細を書きます。そして、「なぜできたのか」を分析してください。これを繰り返していると、「なりたい自分」のイメージが明確になってきます。
たとえば、「TOEICで550点を取るための勉強をeラーニングで始められた」という「できたこと」の理由を分析すると、「昇進のために550点が必要だから受講を考えていたが、外国人とコミュニケーションを取りたいとも思ったから」といったことが出てきます。すると、「自分は外国人とコミュニケーションを取ることに価値を感じているのだな」ということに気づけます。
そうしたら、次に「今、素直にどう感じているか」を書きます。「点数が取れるようになっても、実際に外国人と会話ができるか不安だ」といった具合です。
新しい行動を起こすためには、「嬉しい」「悲しい」「誇らしい」「不安だ」「腹が立った」などの感情が不可欠です。だから、「できたこと」に対する気持ちを素直に書くのです。
この感情を踏まえて、最後に「次なる行動」を書きます。「次はこうしてみよう」という新しい行動の工夫点を書きます。ただし、前述のとおり、大きな変化に対しては現状維持バイアスが働いてしまうので、「これならできそう」と思える内容に留めるようにしましょう。たとえば、「SNSをする時間を減らして勉強時間に充てよう」といった具合です。
以上のステップを毎週繰り返すうちに、「なりたい自分」に近づいていくことができ、自己肯定感が高まっていきます。すると前向きになります。前向きになれば、あらゆる行動が変わります。失敗ではなく成功に意識が向きますから、「これを習慣にしよう」と思ったことが、挫折せずに習慣化できるようになるのです。
永谷研一(ながや・けんいち)〔株〕ネットマン代表取締役社長
1966年生まれ。東芝テック〔株〕、日本ユニシス〔株〕勤務を経て、99年に〔株〕ネットマンを設立。ITを活用した教育サービス事業に携わる。行動科学や認知心理学をベースとして収集した1万人以上のデータをもとに、行動習慣化メソッド「PDCFAサイクル」を開発、多くの企業や学校で使用されている。著書に『絶対に達成する技術』(KADOKAWA)などがある。(取材・構成:林 加愛)(『
The 21 online
』2017年1月号より)
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