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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

今回は、為替レートの変動を説明する理論として「金利平価説」を紹介します。
まず、金利平価説がどのようなものかについて簡単に説明した上で、「カバー無し金利平価」と「カバー付き金利平価」という2つの金利平価説について説明します。
前者は金利差による為替変動を直感的に理解する上では有効ですが、これは裁定取引が出来ません。現実には円キャリー・トレードなどが行われており、成立しているのはカバー付き金利平価説です。


金利平価説とは

為替レートの変動要因には様々なものがあります。
国内外の金利差がその代表的なもので、為替レートの変動を内外金利差によって説明する理論を「金利平価説」と言います。
このうち、為替市場における取引の仕方の前提条件の違いによって「カバー無し金利平価」と「カバー付き金利平価」があります。

ここでの取引の種類は、スポット(直物取引)とフォワード(先物取引)です。
端的に言って、カバー無し金利平価はスポットのみの世界、カバー付き金利平価はスポットとフォワード両方がある世界です。

金利平価説について解説する教科書は国内外に多数ありますが、ここではKeith Cuthbertson & Dirk Nitzsche(2004: chapter 15)に準じて説明します。


カバー無し金利平価

議論を単純にするために、スポットのみの世界で、通貨は日本円と米ドルしかないとしましょう。取引コストなどは無視した上で、どちらかの通貨を借りて株式投資を行うとします。
現在の円金利をr、ドル金利をr*とした時、現在の為替レートがStの時、来期の期待為替レートSt+1はどうなるでしょうか。また、どう投資をするでしょうか。

もし、投資家がリスク中立的(同じリターンを得られるならリスクは気にしない)であるなら、仮にドル金利の方が高いとすると、

St+1 / St = (1 + r) / (1 + r*)

になるまで、つまり、両者の期待収益率が同じになるまで円に投資されます。
これを簡単に説明すると、ドル金利の方が高い時(r < r*)は、当然円ベースで投資されると予測される(ドルを借りると金利が高い)ので、期待為替レートSt+1は下落します。するとドルが減価する事によって、金利による利益が得られなくなる水準になった所で価格が均衡します。

例えば、円金利が0.02、ドル金利が0.05、現在の為替レートが100(1 $ = 100\)の時、

St+1 = 100 × (1 + 0.02) / (1 + 0.05) ≒ 97.14

と円高になります。

これが一瞬で起こるとすると、高金利を求めて投資をしても、すぐに金利差による利益が為替レートの変化によって無くなってしまいます。
つまり、この世界では裁定取引は不可能になります。


カバー付き金利平価

一方で、スポットとフォワードがある世界を考えてみましょう。
今、ある投資家がA円持っていて、日本か米国に1年間投資出来る資金を持っているとしましょう。取引コストがかからず、フォワードによるデフォルトが無いと仮定します。この時、日本での収益率と米国での収益率が円ベースで等しければ、どちらに投資しても良い(=リスク中立的)と考えるとします。

円金利をr、ドル金利をr*として、スポットレートをS(円/ドル)、1年後のフォワードレートをFとします。米国での投資収益率はA(1+r)になります。米国での投資収益率を考えた時、A円をドルに変換すると、A / S ドルなので、1年後には(A / S)(1 + r*)になります。また、フォワードでは、1年後に(A / S) (1 + r*)Fを受け取る事が出来ます。この時、両方の収益が等しくなるまで投資されるので、

A (1+r) = (A / S) (1 + r*) F

となり、これを変換すると、

F / S = (1 + r) / (1 + r*)

になります。

この時、カバー無し金利平価と異なるのは、両国の金利が異なる場合は裁定取引機会のチャンスがあります。

仮に円金利を0.05、ドル金利を0.02として、スポットレートが100、フォワードレートが101の場合は、円のスポットを買って、ドルのフォワードを売れば、裁定取引が出来ます。(最終的にレートが103になるので、フォワードレート101との差額分の利益を得られます。)


成立しているのはカバー付き金利平価説

実際に、「カバー無し金利平価」と「カバー付き金利平価」のどちらがより為替レートをうまく説明出来るでしょうか。

下図は、日米の2年物国債利回り格差と、円ドルレートの推移を示しています。
これによると、95年頃までは概ね両者は逆相関の関係にあり、「カバー無し金利平価」で十分に説明出来るようです。つまり、金利が高い方の通貨が売られ、金利が低い方の通貨が買われる関係です。

しかし、95年頃から98年頃にかけてと、2005年頃から2007年頃にかけて日米の金利差が大きくなっている(米国金利が高くなり、日本は低金利の状態)にも関わらず、円が売られている状況が発生したのです。

為替レートにおける金利平価説

図:日米2年物国債利回り格差と円ドルレート

出典:梅田(2013: 125)より引用

この時は「カバー無し金利平価」では説明出来ません。結論は、「カバー付き金利平価」の方が説明力が高いのですが、では、何故高金利の方の通貨が買われる現象が起こったのでしょうか。


内外金利差拡大による円キャリー・トレード

これらの時期において高金利通貨が買われるという現象が起こったのは、円キャリー・トレードが活発に行われたからと考えられます。梅田(2013)は、95年以降の現象について以下のように述べています。

1995年以降、日米金利差が大きく拡大するなかで為替レートは大きく円安に振れた。……通貨先物等を利用して、低金利通貨の円を売り、高金利通貨のドル等を買う、いわゆる「円キャリー・トレード」が生じたのである。……為替介入が将来の円安期待ないしは将来の円高回避期待を生じさせたからである。(梅田, 2013: p. 124)

この現象を梅田は単に「カバーなし金利平価説で説明出来ない現象」とだけ述べ、どこにも「カバー付き金利平価説」について言及がありませんが、スポットとフォワードの両方を使って金利差を利用して裁定取引を行う手法が活発に行われている以上、「カバー付き金利平価説」が成立している可能性が高いでしょう。


参考文献

[1] Keith Cuthbertson & Dirk Nitzsche, “Quantitative Financial Economics: Stocks, Bonds and Foreign Exchange (Financial Economics and Quantitative Analysis Series) 2nd edition”, John Wiley & Sons, 2004.

[2] 梅田雅信(2013)『超金融緩和のジレンマ』東洋経済新報社

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