山形を中心に洋菓子ラスクを展開するシベール <2228> の株価が好調だ。特に2017年6月から株価が上値を伸ばし始めて、すでに年初比で10%程度の上昇を見せている。しかし、この株価の伸びは、業績好調が理由かと思いきや、そうではないようである。

株式の中には業績が不振でもなぜか株価が上がっていくものがあり、その背景には需給的な要因が隠れていることがある。本記事では株式会社シベールの銘柄の特徴や競合他社との業績比較なども行いつつ、株価が上がる要因について探っていく。

(本記事内における株価の終値は7月31日終値。業績数値は企業側発表の決算短信による)

ラスク販売 不振なのに株価が大幅上昇?

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(写真=PIXTA ※画像はイメージです)

シベールは、山形県山形市に本社を置く洋菓子の専門店で、山形や仙台のような東北地方で主に販売推進を行っているようだ。

扱う洋菓子はラスクフランス、焼き菓子、生ケーキであり、類似の上場企業にモロゾフや不二家がある。また菓子販売に加えて、シベールズカフェも展開している。

ここで最近の販売数値を確認してみる。8月1日発表の月次売上速報値による各月累計で見ると、店舗販売が前年度と比較して99.9%、通信販売が前年度と比較して88.3%の販売となっている。

店舗販売が好調な月があるものの、通信販売が足を引っ張っている模様だ。販売が伸び悩んでいるのであれば、株価もいいところで横ばい、もしくは下値模索の展開となっているかと思いきや、6月以降株価の値動きは絶好調なのである。以下、過去の業績数値を確認してみよう。

業績は不安定傾向が続くものの……

下記が過去3期の売上高と純利益の実績、今期の会社予想の数値である。

14年8月期 売上高34億6800万円 純利益▲1億円
15年8月期 売上高34億1600万円 純利益2600万円
16年8月期 売上高31億6200万円 純利益▲8200万円
17年8月期(会社予想) 売上高31億5200万円 純利益▲1億8500万円(業績予想修正後)

17年8月期の通期予想は残念ながら6月30日の発表時に大幅に下方修正されている。過去の実績を見ても業績的には不安定な傾向があるようだ。

業績面で買われているわけではないなら、競合他社との比較の上で買われているのかと考えてることもできそうだが、どうやらその方面でもなさそうだ。

なぜなら、洋菓子店として競合とも言える不二家やモロゾフなどはそもそも純利益が黒字予想であり、たとえ現在の株価が利益に対して割高でも赤字のシベールより買われないということはないからだ。筆者としては、シベールのような銘柄が買われる理由としては次の点が挙げられると考えている。

業績不振でも株価が上がる裏に「株主還元」あり

シベールは個人投資家好みの株主優待を年2回(2月、8月)に実施している。また配当も1株あたり30円と決して低くはない金額を赤字決算でも出し続けている。つまり業績期待でなく、配当優待を目的とした個人投資家の買いが株価を押し上げているのではないかと考えられるのだ。

「個人投資家の買いで株価は動くの?」と思われるかもしれないが、規模の小さい小型の株式で取引量の少ない株式の場合には、1日あたり数千株の買いですら株価が上昇してしまうことがある。シベールの場合、売り手が不足する中、昨今の株主優待ブームなどによる個人資産が株価を底上げさせている可能性が高いのだ。

また、同社は外国人持株比率が0%である点も注目される。業績悪化すると、容赦なく株を売却する外国人投資家による株式の持ち分が0というのは赤字幅の拡大でも株価が下がらない要因の一つとも言える。なお赤字決算企業の場合、優待廃止のリスクが存在する点には注意が必要だ。

必ずしも業績連動の株ばかりでないことをおさえておく

株価は企業の利益や財務を反映して形作られていると一般的には考えられているが、株式の中には必ずしも業績に連動せずに動くものが存在する。

売り手が存在せずに、買い手のみが存在すれば当然株価が上がっていくし、その逆も然りである。株式を買う際に適正な株価を判断するときには、その株式が市場でどんな側面から売買されているのかを見極めてから取引すると好成績が出せることだろう。

今回の企業シベールに関して言えば、少なくとも今現在は業績でなく、その他の要因(おそらく優待・配当などの株主還元目的)で上昇している可能性が高そうだ。

優待銘柄として「シベール」をマーク

株価にそれほど業績が関わらない銘柄である場合、一時的に株価が下落しても再び浮上してくる場合も多い。例えば次のような場合がそれに当たる。

1. 優待権利落ちに伴う株価下落の後
2. 相場全体の暴落に連れ安した後

上記の2パターンは、シベールのような優待銘柄が暴落した時に絶好の買い局面となることがある。特に2の場合には普段は相場とは全く関係なしに動く優待銘柄の株価が一時的にお買い得と言える状態にまで値下がることも多い。優待投資の一環としてもチェックしておくと良いだろう。

谷山歩(たにやま あゆみ)
早稲田大学法学部を卒業後、証券会社にてディーリング業務に従事。Yahoo!ファイナンスにてコラムニストとしても活動。日経BP社の「日本の億万投資家名鑑」などでも掲載されるなど個人投資家としても活動中。個人ブログ「インカムライフ.com」。著書に「超優待投資・草食編」がある