就業規則とは何か

労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「労基法」といいます。)によると、就業規則とは「労働者が就業上遵守すべき規律・労働条件に関する具体的細目を定めたもの」と定義されています。また、常時10人以上の労働者を使用する事業所では、法律によって就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が義務付けられています。就業規則は、高度成長期には就労契約書を社員と交わすことで提示されていました。

(写真=fotogestoeber/Shutterstock.com)
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しかしながら、この提示がなされていたのは大手企業の社員に限られ、中小企業の人々はバブル期にかかるまで「就業規則」はおろか「就労契約書」もなく「約束を交わした会社」で就労をしていました。その頃の日本において中小企業や個人の会社に就職する事は、ほとんど「口約束」に近い契約であったのです。

ここ10年で就業規則が分厚くなった理由

10年前の就業規則は条数でいえば20~30ほどでした。しかしながら毎年のように変わる労働法に則って、今では「これが一般的な就業規則」というひな形でさえ60~100条はあります。なぜ、就業規則の条項が増えていったのかというと、行間を突いて権利を主張してくる社員が後を絶たず、権利主張に対してどこまで会社が権利を認めていくのか、かなり細かなところまで、明確に取り決められていったからです。

わかりやすい例が休職に関するものです。休職の際に、従業員に医師の診断書の提出を義務付ける例がみられます。しかし就業規則がそこまでで終わっていると、診断書を用意するための費用負担義務は企業側にある、とされる例が多いのです。こうした支払い義務を回避するために、企業側は「その負担は自己負担とするものとする」という一文を入れることになります。こうした行間の細かい部分に関する主張から企業が自身を守るため、就業規則が分厚くなっていった、といえるでしょう。

就業規則の有効性は人事制度に表れる

就業規則の有効性の一つとして「人事制度の土台となる」ということが挙げられます。人事制度とは、人事評価、人財育成、組織開発・編成と様々な意味を含みます。したがってキッチリと明文化されていなければ成りません。文章化されていない場合「これが会社の常識だ」とは言えず、問題行動に対して「これをしてはいけない」と明確に指摘できないということになります。つまり就業規則とは「働き方」に関する「会社と社員」の約束を明文化したものなのです。

モデル就業規則

それでは標準的な就業規則というのはいったいどのような内容になっているのでしょうか。平成28年3月に厚生労働省労働基準監督課が公表した「モデル就業規則」を見てみましょう。就業規則に記載する事項には、労基法第89条により、必ず記載しなければならない事項は次のとおりです。

1. 労働時間関係
始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
2. 賃金関係
賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
3. 退職関係
退職に関する事項(解雇の事由を含みます。)

また、これとは別に各事業場内でルールを定める場合には記載しなければならない事項や、使用者において任意に記載し得る事項があります。その事項は以下のとおりです。

1. 退職手当関係
適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
2. 臨時の賃金・最低賃金額関係
臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額に関する事項
3. 費用負担関係
労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項
4. 安全衛生関係
安全及び衛生に関する事項
5. 職業訓練関係
職業訓練に関する事項
6. 災害補償・業務外の傷病扶助関係
災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
7. 表彰・制裁関係
表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
8. その他
事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項

なお、就業規則は、その内容が法令及び当該事業場において適用される労働協約に反してはなりません。法令又は労働協約に反する就業規則については、所轄労働基準監督署長はその変更を命ずることができます(労基法第92条)。

就業規則は会社全体の規範意識を維持する重要な要素

ここまで就業規則について説明してきました。多種多様な問題を抱える現代社会において、就業規則は非常に重要です。特に経営者の方は、就業規則を現代に即したより良い規則へと昇華させることが、社員全体の規範意識を高める手段の一つになるのではないでしょうか。

(提供: あしたの人事online

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