金融業界において情報の非対称性の解消が課題となっている。これは、2017年4月7日に開催された「日本の資産運用業界への期待」という基調講演における森金融庁長官の発言に端を発する。

「顧客本位を口で言うだけで具体的な行動につなげられない金融機関が淘汰されていく市場メカニズムが有効に働くような環境を作っていくことが、我々の責務であり、そのため行政として最大限の努力をしていくつもりです。」と森長官が語ったのだ。この発言の真意は何か。

(写真=Aleksandr Simonov/Shutterstock)
(写真=Aleksandr Simonov/Shutterstock)

情報の非対称性が著しい金融業界

これまでの金融業界において、金融機関が提供する金融商品・サービス、取引手数料は複雑で、顧客にとって実体が分かりづらく情報の非対称性が存在していた。特に、資産運用において情報の非対称性によって顧客が不利益を被っているケースが顕著だった。それが、国民の資産形成を阻害しているとして金融庁は問題意識を持っていた。

そのような背景もあり、金融庁は、金融業界における情報の非対称性の解消を狙い、2017年3月30日に「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表した。

「顧客本位の業務運営に関する原則」は強い規範

原則7つのうち、具体的な行動規範を示した原則4〜原則6を引用、紹介する。

原則4 金融事業者は、名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細 を、当該手数料等がどのようなサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理 解できるよう情報提供すべきである。

原則5 金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4 に示された事項のほか、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を 顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきである。

原則6 金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを 把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うべきである。

「顧客本位の業務運営に関する原則」を要約すると、情報の非対称性を解消するために金融機関は取引手数料、金融商品・サービスの分かりやすい情報提供、顧客個々のニーズに合った金融商品・サービスを販売すべきであり、それを実行に移すための手段を公表しなさい、という事だ。

「顧客本位の業務運営に関する原則」は、法令などのハードローではないソフトローである。そのため金融機関自らに原則を採択すべきかどうかが委ねられている。しかしながら、金融庁が公表していることもあって、金融機関はそれらの原則を決して無視できない。原則は金融機関を縛る強い規範となるだろう。

金融機関が「顧客本位の業務運営に関する原則」を採択し、行動規則として明文化・公表し、順守しているかどうか、顧客が金融機関を信用できるかどうか判断する際の基準となり得る。

もし、金融機関が「顧客本位の業務運営に関する原則」を行動規則として明文化していない、または明文化していても遵守できていないことが露呈すれば、たちまち顧客からの信用は失墜するだろう。金融庁が公表した「顧客本位の業務運営に関する原則」は、今後の金融業界に大きな影響を与えることになるはずだ。

誠実で分かりやすい顧客への情報提供が求められる

「顧客本位の業務運営に関する原則」公表により、今後の金融業界においては顧客本位の商品・サービスを提供できない金融機関は顧客からの信用を失い、淘汰されることになるだろう。

今後すべての金融機関に共通して求められることは、情報の非対称性を解消するために、金融商品・サービス等の重要な情報を顧客に対して誠実に、分かりやすく提供することだろう。(提供: Customer Success