自分の財産は、自分の大切な人に相続してほしいと思う人もいることでしょう。その意思を尊重するために、生前贈与や遺言という制度が認められています。しかし、何の制限もなく財産の処分を許すと、相続に関して後で争い事が起きる可能性もあります。

法律では、相続人には最低限、財産を引き継ぐ権利があることを保障しています。今回は、財産を与える側も受け取る側も、知っておきたい遺留分について説明します。

誰が法定相続人になるのか

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(写真=Dmytro Zinkevych/Shutterstock.com)

まずは、誰が法定相続人になるのかを知っておく必要があります。民法で定められた相続人のことを法定相続人と言いますが、家族状況によって誰が法定相続人となるのか変わります。

配偶者は常に法定相続人となりますが、それ以外の人には相続人となる順位が定められています。第1順位は子ども、孫などの直系卑属、第2順位は親、祖父母などの直系尊属、そして第3順位が兄弟姉妹という順位で、配偶者とともに相続人になります。

つまり、死亡した人が結婚していて配偶者と子どもがいれば、法定相続人は配偶者と子どもです。万一、子どもが被相続人よりも先に死亡していて、その子に子ども(被相続人の孫)がいれば、その孫が代わって法定相続人になります。

子どもなどの直系卑属がいない場合は、配偶者と第2順位である親が法定相続人になります。親がすでに死亡していて、祖父母がいる時は、親に代わって祖父母が配偶者とともに法定相続人になります。直系卑属も直系尊属もいなければ、配偶者と第3順位である兄弟姉妹が法定相続人です。このように、配偶者以外は家族構成の状況によって法定相続人が誰になるのかが決定されます。

知っておくべき遺留分

民法によって、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された相続財産の最低限度の割合のことを「遺留分」と言います。

民法では、法定相続人の順位と同時にそれぞれの法定相続人が受け取れる財産の割合である法定相続分も定められています。しかし、基本的には被相続人の意思を尊重するため、生前贈与や遺言によって自分の財産を自由に処分することができることになっています。

例えば、相続人が妻と2人の子ども、遺産総額が1億円あると仮定します。法定相続分通り遺産分割をするなら、妻が2分の1の5,000万円、子どもはそれぞれ4分の1の2,500万円ずつ相続することになります。しかし被相続人が遺言で「自分の財産すべてを愛人に遺贈する」と指定していたらどのようになるでしょうか。いくら被相続人の意思の尊重とはいえ、妻と2人の子どもは納得できません。このような時に、本来の相続人が最低限相続できる割合を遺留分として保障しているのです。

遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人である場合は、被相続人の財産の3分の1。それ以外の場合は、被相続人の財産の2分の1とされています。

先の例でいえば、2分の1である5,000万円は相続人の受取分として保障されており、残り2分の1の5,000万円は被相続人が自由に処分できます。ちなみに遺留分の5,000万円のうち、各人の遺留分は法定相続割合に応じ、妻が2,500万円、子どもは1,250万円ずつになります。

「争族」を避けるために

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分で最低限の相続財産受取りの権利が保障されています。だからといって、遺留分を侵害する生前贈与や遺言が無効になるのではありません。遺留分は、遺留分を侵害された相続人が、遺留分減殺請求(げんさいせいきゅう)をすることによって、初めてその効果が発生します。

また、遺留分の減殺請求権は、遺留分権利者が相続の開始する時や減殺すべき贈与および遺贈があったことを知った時から1年間行使しない場合、または相続開始から10年を経過したときに時効で消滅するという期間の制限があります。

つまり、先の例でいうと、遺留分を侵害された妻と子が権利を行使しようとした場合は、1年以内に1億円を受贈した愛人に対して5,000万円分の減殺請求が必要になるわけです。そもそも愛人に財産を奪われたこと自体が納得いかないのに、半分返してくれと請求手続きをすることに喜べるはずがありません。

ここでは第3者である愛人を例としましたが、親族間でも遺留分の侵害はありえます。相続が「争族」になることを避けるためには、遺留分割合の事も考慮した上での遺産分与を遺言で指定しておくことが望まれます。遺言を残すだけでは決して相続対策にならないことを知っておきましょう。

相続には事前準備が必要

相続対策で重要なのは、「争族」対策ともいいます。相続人間で財産分与の争いが起こらないための対策は、遺言が有効とされています。しかし、遺言を残してもその内容次第では、かえって「争族」に火がつくこともあるため、遺留分のことも考慮した対策が必要です。また、分割しにくい財産がある場合は、生命保険など現金化できる資産の準備も事前にすることをおすすめします。