財政再建:2020年のPB黒字化を先送り、「再建の旗は降ろしていない」をどうアピールできるか
今回の消費税使途の変更で事実上2020年度にPB黒字化の達成は困難となり、先送りを表明することになる。新たな目標として「2020年代半ば」などが検討されるだろう。財政再建目標を先送りしたことで、今後歳出拡大圧力がいっそう高まるだろう。財政再建の旗を降ろさない政府の姿勢をどう示すのか、今まで以上に厳しい課題に直面することになる。
◆6月の骨太方針で財政再建の先送りは準備されていた
6月政府は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」を閣議決定している。この中で財政健全化目標として債務残高対国内総生産(GDP)比の位置付けを格上げし、2020年度の基礎的財政収支(PB)黒字化目標と併記した(昨年の骨太方針では、注釈として、PB黒字化と「その後の」債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すとなっていた)(図表3、4)。
来年は2020年度PB黒字化目標にとって大きな年だった。政府は20年度のPB黒字化に向けた財政健全化計画で18年度にPB赤字を対GDP比1%程度に縮減する中間目標を設定し、16年度からの3年間で社会保障費を中心に一般歳出の増加幅を計1.6兆円に抑制する「目安」を示していた。
現状では、PB黒字化は経済再生ケース(高成長シナリオ)でも2020年度の黒字化は困難であり、来年の骨太方針を決める中で、10月に予定されている消費税の引き上げを見送り、かつPBの黒字化目標を先送りするのではとの観測がでていた。そのため今年6月の骨太で財政再建の旗を降ろすのはまずいため財政再建目標として同列にした債務残高対GDP比を強調したとの見方が広がっていた。
◆今年の予算編成、来年の骨太方針決定の過程で財政再建の姿勢が堅持されるのか
財政黒字化を先送りしたことで格下げのリスクやドル調達でのスプレッド上昇などが懸念される。ただそれを最小限に抑えるためにも財政再建の旗を掲げ続ける必要がある。
ただし、今回消費税の使途見直しが4経費の縛りをなくしたことで財政拡大の流れが強まりそうだ。
消費税の増収分はこれまで、社会保障に限定すると説明していたが、教育などの他の分野にも道を開くことになるためだ。防衛費の拡充や科学技術費の積み増し、公共事業の増加といった歳出増の芽は、政府・与党内の至る所に存在する。
その意味で今年の予算編成や来年の財政再建目標の中間見直しでどのような方向性が示されるかが注目だ。
2018年度予算は16年度からの3年間で社会保障費を中心に一般歳出の増加幅を計1.6兆円に抑制する「目安」を示した。この目安に基づいて社会保障費の歳出の伸びを5000億円、非社会保障費300億円をそれぞれ抑制する方針となっている。
来年度は「診療報酬」・「介護報酬」の同時改定、「薬価制度改革」、「待機児童対策の新プラン」など、私たちの生活にも影響の大きい改革が予算に反映される予定で、歳出の切り込みができるのかどうかだ。また今回将来の消費税の引き上げを財源に幼児教育の無償化が先行歳出される可能性が高い。その場合、財政の効率化や、つなぎの(教育)国債などが発行されるのか、さらには消費税5→8%に引き上げ時の一部を回すとの案など、どのような方法で捻出されるのかも注目だ。
また来年については、19年10月に予定されている消費税の引き上げを決定するのかが最大の議論となるだろう。
引き上げが決定となれば、来年末まで軽減税率の財源確保の議論が必要となる。「酒類と外食を除く飲食料品全般」を対象品目にして軽減税率を導入すると、財源は約1兆円に上る。これまでに確保した財源は4000億円で、残る6000億円をいかに埋められるのかの議論が残っている。
それ以外では、財政健全化目標の中間見直しの位置づけが重要だ。2016年から2018年の3年間は、黒字化に向けた集中改革期間という位置づけだ。18年度はその改革期間最終年に当たる。今回黒字達成時期が先送りされたとしても、今までの改革ピッチの評価は行われるだろう。それに基づいて追加的な財政再建策が検討されるのかだ。
◆日本銀行との共同声明の見直し議論も高まる可能性も
政府日銀は2013年に共同声明を発表している。デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のため、政府は「持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」と明記されている。日銀が金融緩和策の一環で行っている国債の大量購入は、政府の財政健全化努力を前提にしており、政府がその前提を崩すと、日銀は完全にはしごを外されかねない。
年明けには4月に任期を迎える黒田総裁と副総裁2人の後任人事が本格化する。日銀が掲げる2%目標をどのようにするのかという日銀の問題もあるが、この共同声明の政府部分の議論も高まるだろう。
おわりに
今回首相が打ち出した「全世代型社会保障」の理念には賛成だ。ただし、高齢者と若者への割り振りの是正は行われているとは言いがたい。単に全世代に給付を厚くするというのは政治には痛みを将来世代に先送りし、バラマキとの批判はあって然りだろう。また負担の議論が消えたことで、お金の使い方議論は雑になる可能性は高い。
財政黒字化はこれで先送りとなる。消費税の使途変更はさらなる歳出拡大を招きかねない。財政再建のタガを外さないためにもやるべき財政再建の取り組みは続けなければいけない。
消費税の使途変更は政治的には理解できる面もあるが、経済・財政的には大きな問題を残した。
矢嶋康次(やじま やすひで)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
チーフエコノミスト
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