貸出動向: 都銀を中心に2ヵ月連続で大きく鈍化

10月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、9月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.99%と前月(同3.24%)から低下した(図表1)。伸び率の低下は2ヵ月連続となる。地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比3.6%(前月も同じ)と安定的に推移しているが、都銀等の伸び率が前年比2.3%(前月は2.8%)と大きく低下したことが響いた(図表2)。主にM&A資金など大口貸出が前年に比べて少なかった影響のようだ。

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次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)(1)を見ると、直近判明分である8月の伸び率は前年比3.07%と7月(3.22%)から低下している。7月から8月にかけてのドル円レートの円安幅(前年比)は小動きであったため、見た目(特殊要因調整前)の銀行貸出の伸び率低下(7月3.42%→8月3.24%)に沿った動きとなった。昨年後半以降、見た目の伸び率上昇に作用してきた円安による押し上げ効果も一服している。

9月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、9月におけるドル円レートの前年比での円安幅は8.5%と8月から横ばいであった(図表4)。円安は外貨建て貸出の円換算額を押し上げることで見た目の伸び率を押し上げるが、8月から9月にかけての円安による押し上げ幅はほぼ変わらなかったことになる。従って、9月の特殊要因調整後の伸び率は、見た目の伸び率の低下幅(0.25%)と同程度低下したと考えられ、前年比2.8%程度になったと推測される。

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なお、8月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.524%(7月は0.620%)、長期(1年以上)が0.823%(7月は0.832%)とそれぞれ前月から低下した。短期については過去2番目の低水準となっており、3ヵ月移動平均をとったトレンド(図表5)でも低下基調が続いている。長期については、トレンドとしては下げ止まり感が出ているものの、日銀の長短金利操作のもと、今後も市場金利が極めて低位に抑制されるうえ、激しい競争環境も金利の抑制に働くため、明確な上昇は見込めない。

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1)特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは8月分まで。
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マネタリーベース: 増加ペースが再び鈍化へ

10月3日に発表された9月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は15.6%と、前月(同16.3%)から低下した。伸び率の低下は2ヵ月ぶり。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比19.3%と前月(20.2%)から低下したことが主な原因である(図表6・7)。

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一方、9月末のマネタリーベース残高は、前月末から5.5兆円増加の475兆円となり、引き続き過去最高を更新した。

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ただし、季節性を除外した季節調整済みの月中平均残高ベースでは、前月比4.8兆円増と前月(同11.5兆円増)から大きくペースダウン。概ね毎月7兆円増の増加ペースが続いていた昨年と比べても、増勢は明らかに鈍化している(図表8)。また、同じく季節性が除外されるマネタリーベース(末残)の前年比増加額を見ても、61.8兆円と2013年10月以来の小幅に留まっている。日銀の国債買入れペースが縮小していることが、マネタリーベース増加ペースの鈍化という形で現れている。

今後についても、引き続き日銀の大量国債買入れによって市中に残存する国債残高が減少に向かうため、日銀の国債買入れペースはさらに縮小に向かうとみられ、マネタリーベースの増加ペースも緩やかに鈍化していくと考えられる。

マネーストック: 広義流動性の伸びが上昇

10月13日に発表された9月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.1%(前月は4.0%)と前月からやや上昇、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.4%(前月も3.4%)と横ばいになった(図表9)。それぞれ、比較的高い伸びを維持しており、高水準の経常収支黒字や貸出増加が引き続き寄与しているとみられる。

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M3の内訳では、普通預金などの預金通貨の伸び率が前年比8.0%(前月は7.9%)とやや上昇した一方(図表10)、CDのマイナス幅が拡大した(前月▲0.3%→当月▲0.7%)。現金通貨(4.7%)、準通貨(定期預金など、▲1.2%)の伸び率は前月と変わらなかった。

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また、M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比3.8%(前月は3.7%)と上昇し、2015年9月以来の高い伸びとなった(図表9)。伸び率の拡大は11ヶ月連続となる。

内訳では、残高規模の大きい金銭の信託(前月改定値6.3%→当月7.1%)が引き続きプラス幅を拡大し、従来同様、広義流動性の伸びを牽引している(図表11)。また、外債(前月改定値12.1%→当月15.8%)の伸びも上昇した。一方、家計が大半を保有し、注目度の高い投資信託(元本ベース)の伸び(前月改定値▲0.1%→当月▲1.0%)はマイナス幅を拡大している。

投資信託の低迷については、金融庁の批判を受けて、かつての大ヒット商品であった毎月分配型投信が販売自粛されていることの影響もあるが、基本的には盛り上がりを欠く家計の投資マインドを反映したものと考えられる。実際、家計保有の預金通貨は高い伸び(8月時点で前年比7.4%)を維持しており、「貯蓄から投資へ」の動きは未だ確認できない。

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上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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