政府が掲げる「働き方改革」の柱の一つとして、「同一労働同一賃金」という制度改革に大きな関心が集まっています。背景には、正社員と非正規社員の間に横たわる待遇での格差があることです。2016年12月には、改善策となる政府ガイドライン案が公表されました。本来の趣旨や狙いなど、現状を探ってみました。
賃金アップで消費を底上げ、経済の活性化が狙い
「同一労働同一賃金」とは、仕事や職務内容が同じ場合には、同じ賃金を支払うべきだとする考え方です。ただし、異業種間や企業規模によると、賃金格差はあり得ます。政府は主として、「同一企業内の正社員と非正規社員間の是正」を目指しています。
厚生労働省によると、労働者の現状は、すでに約4割が非正規です。その非正規の中、世帯主や単身者が1割を超えているのが実情。従来の非正規は時給が安い主婦のパート、と改善せずに放置が許されることはできなくなっています。非正規の収入で家計を支えている方が増え、今や大きな社会的な格差を生じています。
この制度改革本来の趣旨は、格差の是正はもちろんのこと、その先に賃金を上げて、消費の底上げで経済を活性化させることにあります。
欧州連合(EU)では1997年、パートタイム労働指令で「同一労働同一賃金」を制定しました。国立国会図書館によれば、日本で非正規の賃金は正社員の6割弱が現状です。しかし、欧州各国の水準は8割から9割を占めています。そこで政府としては、今回の「同一労働同一賃金」の実現を通じて、10年後には欧州並みに近づけたい、としています。
「メンバーシップ型」雇用を日本で導入するのは難しい?
欧州各国で導入されている「同一労働同一賃金」を、日本で同様に導入、実現するのは難しく、修正が必要とされています。というのは、日本の雇用形態は相応しい仕事を任せる「メンバーシップ型」で、欧米では仕事に必要なスキルや知識がある場合に採用する「ジョブ型」の違いがあるからです。
人が中心の日本では、どの会社に入社しているかが重視され、採用されると企業のメンバーとなり、与えられる仕事も多彩。雇用は定年まで保障され、報酬は職務能力による「職能給」を採用されています。
仕事に対する考え方が異なる欧米では、仕事内容やスキル、ポストが指定され、職務を明確にして採用。報酬も基準が明確な「職務給」です。
日本では通常、若年層は働きに比べて賃金が安い場合が見られ、中高年は貢献度に比べると賃金をもらい過ぎと思われるケースも多いのが現行のメンバーシップ型。このような状況下では、同じ仕事なら同じ賃金を支払う、という新制度の導入には問題があるという指摘があります。
日本の「企業内労働組合」も導入を難しくしている
日本の労働組合の形は「企業内労働組合」が中心で、その多くは正社員が対象となっています。一方、欧州では、一般的に「産業別労働組合」が中心で、同じ産業内や職種内で賃金水準を決定します。この欧州の労組形態だと、フルタイム勤務の非正規社員にも同一労働同一賃金の適用が容易で、同じ仕事なら同じ賃金を定めやすいシステムです。
この労組の形態の違いも、日本で同一労働同一賃金の導入を難しくしている理由のようです。
待遇差が許されるケースや合理性とは
昨年末に発表された「同一労働同一賃金」に関する政府ガイドライン案では「基本給」「賞与・手当」「福利厚生」「教育訓練・安全管理」の4分野について、正社員と非正規社員間の格差が合理的と認められるかどうかの指針を示しています。
「基本給」については、①職業経験や能力、②業績・成果、③勤続年数という3つの評価基準を提示。ただし、キャリアコースの違いなどから、同じ仕事でも賃金を同じにすることは現実には難しい場合、差は認められます。
「賞与・手当」は、同じ貢献なら同一の額を支給すること」と、これまでより踏み込んだ内容。役職手当や時間外手当の割り増し、通勤手当、単身赴任手当についても同一と考えられています。
「教育訓練」は、職務内容が同じなら正社員と非正規の機会は同じとされました。
これらが実現すれば、「福利厚生」も含めて「同一労働同一賃金」に近づく運用となり、待遇差改善への大きな前進になりそうです。
許される合理的な差とは具体的に何なのかは、企業によって解釈、運用が分かれる可能性があります。また、待遇差の説明が現実には難しい場合、法令を順守する名目で正社員と非正規の「職務分離」が行われる可能性があります。そうなると、非正規から正社員への道が閉ざされ、非正規の低賃金を固定化させる恐れもあり、今後のさらなる議論が待たれます。
(提供: あしたの人事online )
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