百貨店大手の「三越伊勢丹ホールディングス」が2017年11月7日に公表した3カ年経営計画が話題となっている。早期退職支援制度「ネクストキャリア制度」を活用し、バブル期入社組に最大5000万円の早期退職金を積み増しするというのだ。

筆者は夫婦ともにバブル期就職組。他人事ではあるが、思わずニュースに聞き入ってしまった。そこで、今回は会社の勧めに応じて早期退職を選ぶことが得策なのか、FPの視点で解説したい。

バブル期入社組が早期退職の的ではない

早期退職,お金の計算
(画像=PIXTA)

バブル期とは、おおよそ1986年12月から1992年2月までの好景気のことで、民間企業がその好景気を受け業務拡大や経営多角化を行うために新卒者の募集を拡大していた経緯がある。

東京商工リサーチの2017年1-8月「主な上場企業 希望・早期退職者募集状況」調査によると、2017年1月以降に希望・早期退職者の募集実施を公表した上場企業は2017年8月末時点で20社に達し、すでに前年(1‐12月)の18社を上回った。

これは業績不振で人員削減に踏み切る企業に加え、業績好調だからこそ将来のビジネス展開を見据えた事業の「選択と集中」で、筋肉質の経営体質へ「攻め」の希望・早期退職募集を実施しているケースも押し上げた。給与の高額な社員が自主的に退職してくれれば、人件費は容易に削減できる。50歳での早期退職は、もはや他人事ではないかもしれない。

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早期退職する際に考えておくべき「お金まわり」のポイント

早期退職の最大のデメリットは、定期的な収入がなくなることだ。多くの場合自己都合ではなく定年退職扱いとなるので、勤続20年以上なら失業保険が330日受給できる。そのため、収入が途切れるという感覚が鈍くなり再就職への意欲がわかない人もいるようだ。

しかし、たとえ無職であっても、公的年金など社会保険料の負担を求められる。昨年度の所得に応じた住民税の支払いもある。想像以上に貯蓄が減るスピードは速いと覚悟しておきたい。

また、50歳という年頃は、住宅ローンや教育費で最も支出が多い時期となりがちだ。本来退職金は老後の生活を支えるためのものだが、早期退職することで老後を迎えるまでに退職金が底をつくことも十分考えられる。例えば、毎月の生活費が30万円と仮定すると、1年で360万円。現在50歳であれば、年金を受給できる65歳までの15年間で5400万円の支出が見込まれる。退職金の手取りが5000万円あったとしても足りない計算だ。

人生100年時代。平均寿命で計算しても、働かない場合は30年先まで見据えた貯蓄の準備が必須となる。

早期退職することで、将来受け取る年金額が減る可能性も考えたい。これは、国民年金に上乗せしていた厚生年金への加入期間が、定年まで働いた場合に比べて少なくなるということ。将来受け取る老齢厚生年金だけでなく、万が一のことがあった際に支給される障害年金や遺族年金の受給額にも影響がでることに注意が必要だ。

まずは、退職時に手元にいくらお金があるかを調べておこう。預貯金や退職金の他に、給与天引きしていた財形貯蓄や従業員持ち株会への拠出金など隠れた資産があるかもしれない。次に公的年金や確定拠出型年金など、将来受け取る予定の金額も確認しておきたい。退職後の生活に必要な金額を把握し、足りない部分があればどう確保するかが早期退職を選ぶポイントと言えるだろう。

退職金にいくら税金がかかり、手取りがいくらかを知っておくこと

退職金は、老後の生活資金となることから税制上の優遇措置があり、税負担の軽減が図られている。

退職所得の計算は、【収入(退職金)- 控除額(退職所得控除額)】× 1/2で求めることができる。

【退職所得控除額の求め方】 ●勤務年数が20年以下  40万円×勤務年数(80万円に満たない場合は80万円) ●勤務年数が20年超  800万円+70万円×(勤務年数-20年) ※1年未満の端数月は切り上げ

例えば勤続年数28年、退職金が5000万円だとして計算しよう。

勤続28年での退職所得控除額は、 「800万円 + 70万円 ×(28年-20年)= 1360万円」となる。

退職所得は、 「(5000万円 - 1360万円)× 1/2 = 1820万円」となる。

次に、支払う税金はいくらかを計算する。

●所得税額 1820万円 × 40% - 279万6000円 = 448万4000円 ●住民税額 1820万円 × 10%(一律) = 182万円 ●税額合計 所得税448万4000円 + 住民税182万円 = 630万4000円

本来なら5000万円に対して所得税や住民税がかかるところ、「退職所得控除」という制度を活用することで税負担を軽くすることができる。とはいえ、かなりの額の税金を納めることになるので、退職金の金額ではなく税金が差し引かれた後の手取り額がいくらになるかを押さえておきたい。勤続年数が28年の場合は、手取りは、約4370万円ということに。

一度に大きな資金を手にするチャンスでもある早期退職制度。ある程度の貯金があったり夫婦共働きだったりと条件が整えば、セカンドライフに向けて早めに舵を切ってもよいのではないだろうか。

再就職、独立への道を探る

早期退職後の心配は、早い段階で次の仕事に就けるかどうかだろう。会社が従業員のセカンドキャリアを支援するために設けている「転身支援制度」を利用するのも手だが、大量の応募者をさばいているため需給に供給が追い付かないことが多々あるようだ。

バブル経済以来の高水準にある有効求人倍率が、中小企業の採用活動に支障をきたしているとの報道があった。若者の目が大企業へと向いているうちに、中小企業の採用活動にトライしてみてはどうだろう。雇用保険の基本手当を受給しながら職業訓練校に通い、新たな技術を手に入れるという考え方もある。これまでに培った技術やスキル、人脈などを活かして、フリーランスや起業家として生きる道もある。ただし、バブル期入社組が転職するのは並大抵ではない。目先の一時金に惑わされることなく、冷静な目で将来の準備をしていただきたい。

「バブル期入社組は、きっと会社にしがみつく」とテレビの街頭アンケートに答えていた30代と思しき人がいたが、しがみついて何が悪いのかと思う。反面、優秀な人ほどチャンスととらえ会社を辞めていくのが世の常でもある。この早期退職報道がバブル世代組だけではなく、企業にも大きな痛手にならないことを祈るばかりだ。

辻本 ゆか(CFP®)
おふたりさまの暮らしとお金プランナー
企業の会計や大手金融機関での営業など、お金に関する仕事に約30年従事。暮らしにまつわるお金について知識を得ることは、人生を豊かにすると知る。43歳で乳がんを発症した経験から、備えることの大切さを伝える活動を始める。結婚を機に奈良に転居し、現在は独立系のFP事務所を開業。セミナーを主としながら、子どものいないご夫婦(DINKS・事実婚)やシングルの方の相談業務、執筆も行っている。FP Cafe登録パートナー

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