「やる気が続かない自分」が変わる!

GRIT,グリット
(画像=The 21 online)

今、成功者の共通点として話題の「GRIT(グリット)=やり抜く力」。継続力に自信のない人でも、グリットを育む方法はあるのだろうか。プロサッカー選手として活躍したのち、現在も多くのアスリートを間近に見ている中西哲生氏にうかがった。《取材・構成=西澤まどか》

サッカー長友選手は「グリット」も一流

成功の秘訣は「才能」──。今、その概念を覆す「グリット=やり抜く力」が話題になっている。グリットについての研究をまとめた書籍がベストセラーとなったペンシルベニア大学教授のアンジェラ・ダックワース氏によれば、グリットとは、「情熱」や「粘り強さ」のことを指し、グリットがあれば、誰でも成功を手にできるという。

この研究は、教育者、アスリート、ビジネスパーソンなど、あらゆる分野から注目された。元サッカー選手でスポーツジャーナリストの中西哲生氏もその1人だ。自らの現役時代の経験や、一流のアスリートの育成を通して、やはりグリットが成功のカギだと語る。

「グリットを自分なりに表現すると、『地道なトレーニングの積み重ねを怠らない』『近道を探さない』そして『変わり続ける』ことと言えます。スポーツに限らず、多くの人は安易に上達する方法を探しますが、そんな方法は決してありません。一流と言われる選手たちは、コツコツと地味な練習を厭いとわず積み重ねることで、グリットを実行しています。

僕がアドバイスさせていただいている、イタリアのセリエAでプレーする長友佑都選手も、強いグリットの持ち主です。彼は、できないプレーがあると次回にはマスターしてきます。才能があるからできるのではありません。与えられた課題を、人より多く練習するからです。

僕の指導は、呼吸の仕方、食べ方、舌の位置など、地味なことを多く含みます。だから、一度話を聞きに来たきり、来なくなる人もいます。しかし、長友選手をはじめとして、Jリーグ出場の最年少記録を達成した久保建英選手、なでしこジャパンのエースストライカー永里優季選手など、一線で活躍している選手はみな、地道な努力を大切にし、怠りません。みな『神は細部に宿る』ことを知っているのです」

「努力の方向性」が違えばすべてがムダになる

では、一流と言われる人々はどのように意欲を持続させ、グリットを実践しているのか。「やり抜く力=グリット」を下支えする要素のうち、中西氏はとくに3つの要素に着目している。

1つめは、「努力の方向性を見極める」こと。これは先述したダックワース氏が「意図的な練習」と呼ぶもので、結果を出すために重要なこととされる。

「やり抜くといっても、努力する方向が間違っていれば意味がありません。どうすれば目標に近づけるか分析し、何が〝肝〟かを見極め、それに沿って練習を積み重ねることがグリットです。この力に優れているのが、久保建英選手です。

久保選手が小学生の頃から指導していますが、彼は自分で課題を見つける力が非常に高く、僕の思考を先読みして、課そうとしていたトレーニングを自ら始めることがあります。

久保選手は左利きで、左脚の技術は優れています。先日、左脚で、ある一連の流れを習得する練習をしていると、彼は僕が次の指示をする前に、同じ動作を右脚でも再現できるよう自ら練習し始めたのです。子供たちも指導していますが、ほとんどの子供は自分の得意なことしか練習したがりません。でも久保選手は、これを苦手な右脚でもできるようになれば全体のスキルが底上げされると見抜き、自ら実行したわけです。こうした視点や実行力は、まさにグリットに必要なものです」

「逆境に強い脳」がやり抜く力を育てる

続いて中西氏が重要視する要素は「逆境に強い脳」を持つこと。やり抜く力とは、言い替えれば、困難に際し、それを打開する方法を模索することだ。 「僕はサッカー部のない高校に進学したにもかかわらず、日本ユース代表候補に選出されました。そうなれたのは、何より、地道に続けていた独学のトレーニングが実を結んだ結果でした。この体験から『地道に正しく努力すれば不可能はない』と学ぶことができました。

しかし、名古屋グランパスエイトに入団して、才能豊かな選手と自分の実力の差に圧倒されました。当初はスタメンではなく、ベンチに座っていることもしばしば。この状況を覆したのは『うまくいかないときこそ成長するチャンス』という発想です。一流の選手より才能で劣る自分がどうすればピッチに立てるか、必死に考えました。

サッカーの花形はシュートを決めたり、そのアシストをしたりすることです。けれどサッカーも企業と同様、全員が花形の仕事をするわけではありません。そこで僕が心がけたのは、なるべく早く前の選手に正確にパスすること。『チームへの貢献』にフォーカスしたのです。

加えてケガをせず、ミスを減らして、安定したプレーをし続けること。これらが実現できれば試合に出られるとわかっていたので、ベンチにいる日も落胆することなく、やり抜くことができたのです」

「裏方に徹する」という発想で、1年目から試合に出る機会を増やし、結果的に長期間現役として活躍した中西氏。活躍できない理由を探すのではなく、どうすれば少しでも目標に近づけるかを考える。これも、グリットの秘訣だ。

そして、中西氏が考えるグリットを下支えする3つ目の要素は「変化し続ける」ことだ。

「トップレベルの選手ほど、常に新しい情報を求め、取り入れています。リオ・オリンピックのリレーで銀メダルを獲った飯塚翔太選手は、ピアノを弾きます。僕がピアノの本を勧めると、『すぐに買います!』と言っていました。飯塚選手は、スポーツとは別の分野から学びを得ているのだそうです。

僕も現役の頃から現在にいたるまで、自分のコンディションを高めるため、分野を問わずいろいろな情報を取り入れ実践してきました。現役当時はインターネットもありませんでしたが、海外の文献なども漁あさり、新しい情報を仕入れていました。

変化を恐れず、むしろ貪欲にトライ&エラーをくり返し、自分に最適な情報や方法を見つける。人のやり方ではなく、自分流を探す。こうした行為は、グリットに不可欠な『没頭する力』にもつながります」

体調管理ができない人は「やり抜く」ことも不可能

では、やり抜く力に自信のない人がグリットを手に入れるには、どうすればいいのだろうか。

「目標を掲げても持続できない人には、2つのパターンがあります。1つは『自分の内なる声』を聞いていない人。理想の自分像と現実の自分とのギャップに気がついていないのです。自分で自分を理解しなければ、足りないものに気づき、持続的に努力することはできません。

もう1つは、『人として当たり前のことを大事にしない人』。仕事でもサッカーでも、テクニックだけを身につければ結果が出るわけではありません。結果を出せるコンディションを維持しなければ、一定の成果は出せないでしょう。サッカーの試合は週に1回でも、試合には残り6日の過ごし方すべてが反映されるのです。試合でのみ結果を出そうとしても、出せるものではありません。

スポーツ選手は自分のパフォーマンスを上げるため、日々身体のことを考えています。これはビジネスマンもそうあるべきではないでしょうか。仕事以外の時間も大事に過ごすべきです」

部下などの他者にグリットを身につけてほしいときは、効果的な指導法があると言う。

「持続できない体質を改善するのは簡単です。たとえば相手が部下なら、『できそうでできない』課題をやらせればいいのです。少し努力すれば手が届く課題をクリアすることで、小さな達成感が生まれます。

その達成感が次の一歩を踏み出させます。小さなことでもいいので、これを積み重ねていけば、グリットは身につきます」

信号待ちの時間で「グリット」を磨く方法とは?

グリットを磨くには、小さな努力をコツコツと積み上げることが重要だが、多くの人は「忙しさ」を言い訳に、努力を怠りがち。ラジオ番組のナビゲーター、スポーツジャーナリストとして活躍し、アスリートのコーチとして自らの知識も日々バージョンアップしている中西氏は、どのように努力の時間を確保しているのか。

「勉強したいことがあるとき、僕は待ち合わせ場所に早く行きます。そして、待ち時間に集中して本を読むのです。遅刻防止にもなり、お勧めです」(中西氏)

さらに、心身ともに健康を維持するため、現役時代以上にコンディションに気を配っているという中西氏は、人々が気にもかけないようなスキマ時間をルーティン化にあてている。

「信号待ちやエレベーターの中では、舌を回す運動をすると決めています。舌を動かし良いポジションに置くことで、姿勢から呼吸までがらりと変わるからです。渋滞など、自分ではコントロールできない時間こそ、実は、積み上げたいことをルーティン化するのにうってつけの時間なのです」(中西氏)

忙しい中でも工夫次第で時間は確保できるもの。「時間がない」を言い訳にせずに自分の行動を変えていくことで、グリットは着実に身についていく。

中西哲生(なかにし・てつお)スポーツジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。元サッカー選手、サッカー解説者、スポーツジャーナリスト。同志社大学経済学部卒業。プロサッカー選手として、名古屋グランパスエイト、川崎フロンターレで活躍。2000年末、現役を引退。現在はスポーツジャーナリストとして「サンデーモーニング」(TBS)、「Get Sports」(テレビ朝日)でコメンテーターを務める他、「中西哲生のクロノス」(TOKYO FM)でパーソナリティを務める。(『The 21 online』2017年10月号より)

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