貸出動向: 4ヵ月連続で伸び率が鈍化

12月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、11月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.73%と前月改定値(同2.77%)からやや低下した(図表1)。水準としてはまだ高めと言えるが、伸び率の低下は4ヵ月連続となった。地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比3.5%(前月も同じ)と横ばいを維持したが、都銀等の伸び率が同1.8%(前月は2.0%)と引き続き低下した(図表2)。

貸出の伸び率が9月以降大きく低下した主因は、前年にあったM&A資金など大口貸出の押し上げ効果が一巡したためとみられる。実際、大・中堅企業向け貸出の伸び率が9月に低下しており、昨年9月に大きく上昇した反動がうかがわれる(図表3)。

また、金融庁から問題視されたアパートローンやカードローンで自粛の動きが出ていることも影響している。7-9月の新規貸出額を見ると(図表4)、個人による貸家業向け設備資金(アパートローン)の伸びが前年比20.5%減とマイナス幅を拡大したほか、カードローンを含むとみられる個人の消費財・サービス購入資金向けも前年比5.0%増と3四半期連続で伸びが鈍化している。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

さらに、直近11月については、前年同月に円安が進行した影響でドル円レートの前年比での円安幅が縮小(ドル円レートの前年比は10月8.8%→11月4.4%、図表5)したことが、伸び率を押し下げた。円安は外貨建て貸出の円換算額を押し上げることで見た目の伸び率押し上げに働くため、円安幅の縮小は押し上げ効果の剥落を意味する。昨年12月はさらに大幅な円安が進行していたため、次回12月の銀行貸出は為替の影響でかなり押し下げられるだろう。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)(*1)を見ると、直近判明分である10月の伸び率は前年比2.61%と9月の2.82%から低下している。9月から10月にかけてのドル円レートの円安幅(前年比)は若干拡大していたため、見た目(特殊要因調整前)の銀行貸出の伸び率低下(9月2.97%→10月2.77%)よりも若干低下幅が大きかった。

11月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、11月におけるドル円レートの円安幅(前年比)は既述の通りかなり縮小しており(図表5)、10月から11月にかけて、円安による押し上げ効果はかなり剥落したと考えられる。従って、11月の見た目の伸び率は前月から0.04%低下したが、特殊要因調整後の伸び率はむしろ0.1%強上昇したと考えられ、前年比2.7%台になったと推測される。

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(*1)特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは10月分まで。
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マネタリーベース: 増加ペースの鈍化がますます鮮明に

12月4日に発表された11月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は13.2%と、前月(同14.5%)から低下した。伸び率の低下は3ヵ月連続。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比15.9%と前月(17.7%)から低下したことが原因である(図表6・7)。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、11月末のマネタリーベース残高は472兆円となり、前月末から5.1兆円減少した。11月は日銀当座預金の増加に繋がる国債の償還が少なく、マネタリーベースが増えにくいという事情もあるが、季節性を除外した季節調整済みの月中平均残高ベースでも、前月比2.7兆円増(年間33兆円増ペース)に過ぎない(図表8)。同じく季節性が除外されるマネタリーベース(末残)の前年比増加額を見ても、11月は51.7兆円と前月(59.0兆円)から大きく縮小しており、2013年7月以来の小幅に留まっている。日銀の国債買入れペースが次第に縮小していることが、マネタリーベース増加ペースの鈍化という形でますます現れている。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

今後も、引き続き日銀の国債買入れによって市中に残存する国債残高が減少に向かうため、日銀の国債買入れペースはさらに縮小に向かうとみられ、マネタリーベースの増加ペースも緩やかに鈍化していくと考えられる。

マネーストック: 個人預金通貨の伸び率が統計開始以来の最高に

12月11日に発表された11月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.0%(前月は4.1%)と前月からやや低下、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.4%(前月も3.4%)と横ばいながら、小数点第2位まで見ると、若干低下(10月3.43%→11月3.39%)している(図表9)。とはいえ、比較的高い伸びを維持しており、引き続き高水準の経常黒字や貸出の増加がプラスに寄与しているとみられる。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

M3の内訳を見ると、最大の項目である預金通貨(普通預金など)の伸び率が前年比7.7%(前月は7.9%)と2ヵ月連続で低下し(図表10)、M3全体の伸び鈍化に繋がった。一方、現金通貨の伸び率が前年比4.9%(前月改定値は4.7%)と上昇したほか、準通貨(定期預金など、前月改定値▲1.2%→当月▲1.1%)の伸び率がマイナス幅を縮小、CD(前月改定値▲0.2%→当月0.1%)がプラスに転じ、M3の下支えに寄与した(図表10・11)。

M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比3.9%(前月改定値は4.1%)とM3以上に低下した(図表9)。伸び率の低下は13ヶ月ぶりとなる。

残高規模が大きく、これまでの上昇を牽引してきた金銭の信託(前月改定値7.7%→当月7.2%)の伸びが大きく低下したうえ(図表11)、円安幅の縮小を背景に外債(前月改定値17.7%→当月13.6%)の伸びも低下したことが影響した。

なお、家計が大半を保有し、注目度の高い投資信託(元本ベース)の伸び(前月改定値0.7%→当月0.5%)は引き続き低迷(2)。前年比横ばい圏での推移が続いている。投資信託の低迷については、金融庁の批判を受けて、かつての大ヒット商品であった毎月分配型投信が販売自粛されていることや、株価上昇に伴う利益確定売りの影響もあるが、基本的には慎重な家計の投資マインドを反映したものと考えられる。一方で、家計保有の預金通貨(普通預金など)の伸び率は上昇に歯止めがかかっておらず、現行統計開始(2003年4月、伸び率は2004年4月)以来の高い伸び(10月時点で前年比7.7%(3)・図表12)を記録。株高に伴う利益確定売りが活発化し、売却資金が普通預金に滞留している可能性もあるが、いずれにせよ、「貯蓄から投資へ」の動きは確認できない。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(2)投資信託のデータは、今回過去に遡って大きく改定されている。
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3)預金通貨の保有内訳(一般法人と個人)の公表は1ヵ月遅れるため、直近は10月分となる。
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上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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