日本最大級の株コミュニティ「あすかぶ!」などで知られる東大発のFinTechベンチャーFinatext(フィナテキスト)。同社はいくつものアプリを開発・運営しており、サービス利用者は200万人以上いるという。そのFinatextは2017年、大和証券と提携し、子会社として証券会社スマートプラスを設立。同社は設立1 年にも満たない昨年末、第一種金融商品取引業者の登録を完了した。Finatextの林良太社長とスマートプラス藤江典雄社長が掲げるのは「BaaS(バース、Brokerage as a Service)による証券の再発明、投資の自由化」だといい「証券3.0の波が来る」という。両社長に狙いと思いを聞いた(インタビューは2017年12月28日に行われました)。(聞き手:濱田 優 ZUU online編集長)

林 良太(はやし・りょうた)
FinatextグループCEO、同社CO FOUNDER。2008年東京大学経済学部卒業、日本人初の現地新卒でドイツ銀行ロンドンに09年入社。 Electronic Trading System部門を経て、Global Equity部門にてロンドン、ヨーロッパ大陸全域にて機関投資家営業に従事。2013年より国内ヘッジファンド大手のGCIに参画。1年で同社の海外ビジネスを急拡大させた後、2013年Finatextを創業。

藤江典雄(ふじえ・のりお)
スマートプラス代表取締役。大学卒業後、新日本製鐵、サイバード(現サイバードホールディングス)、GCIキャピタルなどを経て独立、エフスター設立。2017年スマートプラス参画。 スマートプラス(事前登録はこちらから)

「貯蓄から投資へ」が進まない理由 「金融」は「サービス業」になってない

藤江、林両社長
(左から)藤江、林両社長(写真=ZUU online編集部)

--2日前の12月26日にスマートプラスが第一種金融商品取引業者の登録を完了されたそうですが、フィナテキストグループとして、スマートプラスを設立した背景や狙いについてうかがえればと思います。

 背景としては、誰もが掲げている「貯蓄から投資へ」がなかなか実現できていないということがあります。我々Finatextもそういった問題点を解決したいと思い、愚直にサービス運営に力を注いできました。

一番大きな原因はデフレだと思いますが、それと匹敵するくらいの大きい課題が「多様な金融サービスがないこと」です。今の金融サービスは、効率化は確かに進みましたが、その一方で画一的になり、投資家からすると違いが見えにくいものになっています。こうした思いも、Finatextという会社を作った大きなモチベーションの一つです。

当社は「あすかぶ!」や投信選びの「FUNDECT」、初心者でもFXを楽しめる「かるFX」などの投資教育分野のアプリを開発、運営し、金融機関等と提携をしてきました。そこで金融機関に送客するのですが、残念ながら送客後の投資家の行動はコントロールできません。Finatextは、そこにずっと歯がゆさを覚えてきました。それは金融機関で口座開設、入金を経て、実際アクティブな取引を始める過程で非常に多くの方が脱落してしまう。我々は、ここをどうにか解決できなかと考え続けた結果、自分たちが金融機関側のサービスにも踏み込まないといけないと思い至ったのです。その後、証券への参入を去年(2016年)の12月あたりに考え始めました。僕は考え始めるとスピーディーに行動に移します。実は藤江と会ったのも12月28日。あ、まさに1年前の今日ですね(笑)。

藤江 今日の夜ですね(笑)。

 12月28日に知人の紹介で初めて会い、僕はその時に思いをぶつけ、「社長やってください」とお願いしました。そこから一気に進めたのです。

Finatextは「金融をサービスとして再発明する」というビジョンを掲げています。金融って「ファイナンシャルサービス」とはいうものの、「サービス業になっていない」と思っています。今、非金融分野のサービスは、どれも多様化したユーザーの嗜好にフィットしたサービスが展開されるようになってきました。音楽ならSpotify、料理でもレシピ動画サイトなど、これまでの画一的なサービスとは異なる様々なサービスが生まれています。残念ながら、金融サービスだけが、多様化していない。リテール証券であれば、株売買の「サービス」というよりも単一の「機能」が提供され、それらをサービスとして昇華するものが生まれていない。本当の意味でのサービス革命が起きてないのです。

だから僕らは、「金融をサービスとして再発明し、進化させる」というグループビジョンを掲げていて、その一つとしてスマートプラスを設立し、証券業に参入したのです。

--たしかスマートプラスを設立されたのは17年3月くらいでしたでしょうか。

 その通りです。16年12月に話をして3月に設立して……一丸となって進めてきました。そこに至る過程では、昨年(2016年)8月にCPIといった経済情報をビッグデータ解析技術を活用し、リアルタイムで提供するナウキャストを子会社化しましたが、サービスを作りながらデータ解析のノウハウを蓄積していました。

--ナウキャストは、リアルタイム統計データベース「日経CPINow」をサービス展開している会社ですね。今は林さんが代表を務めておられます。

 ええ。私たちが今やろうとしていることは、金融サービスの再発明なのですが、フロントサービスを高度化するためには、ビッグデータ解析技術をグループ機能として持つべきだと考えました。

もう一つの重要な要素は、金融サービスにおいて株など有価証券の売買執行機能を構築することでした。しかし、単なる売買執行機能を持つのではなく、多様化したフロントサービスに対応可能な、柔軟性と拡張性が高い「売買執行プラットフォーム」である必要があります。いわば、フロントサービスと証券インフラの間に介在するオペレーティングシステム(OS)のような売買執行プラットフォームがグループ内に必要だと考えたのです。それを具体化したのが、スマートプラスなのです。

--OSやスマートプラスでつくろうとしているサービスはC(消費者)向けということですね?

 はい。もちろんエンティティごとに、B(法人)ともビジネスを展開しますが、最終的に我々FinatextグループとしてはCに対して、投資家が主役となるような利便性の高いサービスを生み出していきます。資産運用の民主化をしてくことがビジョンですから。

これまでFinatextとして主要5アプリを展開し、20代~40代のユーザーを獲得してきました。累計ダウンロード数は、200万以上になっています。また、これらの投資に興味を持つユーザーベースに加え、我々はサービス開発力とサービスの運用ノウハウを蓄積してきました。そして、Cに対してはパートナーを経由したB to B to Cの形態でも展開しています。 一方、ナウキャストの顧客はBが中心で、金融機関やシンクタンク、政府や政府系金融機関、ヘッジファンドなどの資産運用、経済調査業務を支援している会社です。

そして今回のスマートプラスは、グループビジョンをさらに進めるべく、「バース」、ブローカレッジ アズ ア サービスを掲げて、証券をサービスとして再定義しようとしています。

--SaaSはよく聞く単語ですがBaaSという言葉は初めてのような気がします。バースと言い始めたのは……。

 僕らが最初に言いだした言葉です。ブローカレッジ アズ ア サービス。「バースで到来する証券3.0の波」。これが構想なんです。

極端に言えば、アプリの開発・運営をやってきて感じるのは、アプリの機能はフォーカスすることが重要ということです。AppleがiOS向けに「News」というニュースキュレーションアプリを作っていますが、苦戦していますよね。その一方で、なぜスマートニュースのようなニュースアグリゲーターが選択されるのか。それはある機能にフォーカスしていて、ユーザーは「これをするならこのアプリ」と決めて使うものだからです。

高機能化の延長で様々な機能が乗って複雑化しますが、ユーザーには刺さりません。たとえば写真を共有するならInstagram。Facebookでもいいのに、なぜ写真の共有に特化したインスタが使われるのかということです。

そして証券や投資の分野でも、ユーザーの課題を理解し、その課題解決にフォーカスした機能やアプリをサービスとして、開発・展開しなければいけないと思います。多様化した投資家ニーズに対応するマイクロサービスをたくさん作っていかなきゃいけないっていうのが、僕の思想なのです。

証券1.0、証券2.0、証券3.0の違いとは

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(写真=ZUU online編集部)

--金融がサービス業になっていないというお話はうなずけるものがあります。

 非金融の分野では、テクノロジーやスマホが進展・普及した影響でサービスがダイバースファイ(多様化)していて、ものすごいユーザーカスタマイゼーションが起きています。しかし、残念ながら金融領域のサービスの進展は遅いです。特にリテール証券でいうと、この10年間、たしかに手数料は安くなりましたし、商品が増えました。また、ツールが高機能にもなりましたが、効率性ばかりが追求され、本質的な変化は起きていません。

例えば、対面証券の時代が「証券1.0」。これは自動車で言えば、発明されたばかりの段階。そしてネット証券の誕生が「証券2.0」。これは自動車でいえばフォードT型の誕生と同じで効率的に大量生産が可能になった。つまり、マスプロダクションができるようになって、価格が安くなりました。

そのために、僕らは証券業務に必要な機能をモジュール化して、多様な証券サービスを安価なコストで提供できるようにしたいのです。システムの効率性ばかりが追求されてきた「証券2.0」から、投資家一人一人にフィットする多様な証券サービスが生まれるマスカスタマーゼイションの時代、それが「証券3.0」だと位置付けています。

--「証券3.0」が「証券2.0」と異なる点をもうちょっと詳しく聞かせてください。

 これまでは、効率性重視のためシステムが一式で提供されてきました(バンドル)。しかし、売買執行機能とインフラをプラットフォームとして提供することで証券サービスレイヤーと分離(アンバンドル)できます。そうすればフロントサービスの開発期間やコストを低減させることができます。先ほど説明した「証券3.0」の本質は、バースによって証券サービス開発・投資額を減少させ、クラスター化した小規模な投資家ニーズにおいても証券サービスが成立するような時代にシフトさせるということです。スマートプラスでやりたいことは、売買執行機能とインフラに接続できる、ブローカレッジAPIの提供と整備です。これがあれば、バース上に、これまでにない自由な発想の証券サービスが数多く生まれるはずです。

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(画像=スマートプラス資料より)

--株取引に限らず今でも多くの個人投資家や消費者が古くからある金融機関をつかうかというと、やはり安定が求められるからだと思います。そこはどう考えていますか?

そこは僕らも、最も重視している点で、市場とのコネクティビティを切らしてはいけないと考えています。だからこそ堅牢かつ信頼のあるシステムを持つ大和証券さんと資本提携を含めた戦略的なパートナーシップを構築したのです。

スマートプラスの役割は、証券インフラとフロントサービスの間にバースというOSを提供することで、他の企業がサービスレイヤーに乗ってきやすいようなエコシステムを作ることです。

例えば、通信業界の「MVNO(仮想移動体通信事業者)」をイメージするとわかりやすいかもしれません。最近、新しい携帯会社やサービスが生まれていますが、その多くが使っているのはNTTドコモなどの大規模なインフラを持つキャリアの回線ですよね。私たちも大和証券さんのインフラを借りることで、信頼性が担保された証券プラットフォームを展開できるわけです。

今後は、バースによって既成概念にとらわれない、自由な発想の証券サービスが生まれてくる土壌が整います。ZUUさんのようなメディアが証券アプリを作ることもあるかもしれませんし、ゲーム会社がゲーミフィケーションを組み合わせた証券アプリを生み出すかもしれません。そういう多様な証券サービスが生まれるプラットフォームを作ったのです。

もちろん、サードパーティーが生まれるには、そのプラットフォームにある程度のユーザーがいて、やる意味があると思ってもらわないといけない。だからまず僕らFinatext自身が一つ例をお見せしようということで、自社でサービスを作って、子会社であるスマートプラスに提供するわけです。

私たちは株のソーシャルメディアやコミュニティサービスに知見を持っていますから、SNSの要素を融合させた株取引アプリを第一弾として作る。それがSTREAM(ストリーム)です。

--ストリームは2018年初旬にアルファ版がリリースするとうかがいました。

 そうですね。まずは2月頭をめどに、取引機能を制限したアプリをリリースします。徐々に取引機能を開放していきながら本開業のタイミングを見極めていきます。

--最初はどんなものが取り引きできるんですか?

藤江 日本株ですね、東証に上場している日本株なら全銘柄取引できます。

--具体的にこれまでのものとどう違うのか。体験としてどう変わってくるのか。

 ストリームで、取引の意思決定にかかる時間を短くしたいのです。狙っている層が、僕が面白おかしく呼んでるの、“トイレーダー”。会社員で仕事中にトイレなどでサクッと売買するような人たちです。(笑)要は、限られた時間でピピっと銘柄を判断して取り引きできるようなものにしたい。

まだ詳しくはいえませんが、従来の投資アプリ・サービスだと、チャートとかファンダメンタルとかPERとか、慣れ親しんだデータやグラフ、数値が現れるだけでした。これをもとに株取引経験者は売買銘柄を選定して、タイミングを見極めて売買していますよね。ストリームでは、ユーザーの集合知をうまく使うことで銘柄判断をグッと簡単にします。また、会員同士のコミュニティ・ビルディングや、ニュース情報を自然言語処理で銘柄情報と紐付けることで、スマホでの取引でも、すばやい意思決定ができるようにしたい。これまでの株取引のプロセスをガラリと変えたいです。

「BaaSならイケそうだ」ではなく「やるべきだ」と思った

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(写真=ZUU online編集部)

--ちょっと話が戻りますが、お二人の出会いについてうかがいたいですのですが、どなたかのご紹介だったんですよね。

藤江 もともと私が以前、取締役を務めていたFXの会社の創業者です。その方が林を知っていて、林が相談したときに、「藤江に相談してみたら」という話をしてくださった。

その時点で、FXの会社を辞めて数年たっていて、私は独立してコンサルをやっていました。楽天さんやサイバーエージェントさん、GMOさん等が金融分野で事業を拡大する中で、特にITなど非金融の事業会社さんで金融領域に興味を持っている会社が多かった。でも私はコンサルとしても金融機関の立ち上げや参入の手伝いを長らくやっていて、相当大変なことが分かっていた。人を集めなきゃいけない、資本面でも自己資本が必要。当然ライセンスを取らないといけないし、堅牢なシステムも要る。このような準備は、当然1年や2年では難しい。金融に参入したい(非金融の)企業はサービス領域で実現したいことがあるのに、システムや仕組みづくりが大変で、途中で諦めてしまうケースを見ていました。

ただ林を紹介されて、最初に会った時に「バース」のコンセプトを話してくれました。それを聞いて、「機能を階層(レイヤー)化して、自分たちがここまでやれば、今まで苦労していた人たちが、いろんなサービスを持って金融市場に参入できる」と思ったのです。それで冒頭に林も指摘した「貯蓄から投資へ」の流れを進める上でこれまでとは違うトレンドを作り、貢献できるのではないかと思ったのです。

--会って最初話をしたときに「これはいけそうだ」という感覚があったわけですね。

藤江 「いけそうだ」というより、「やるべきだ」と思いましたね。

 小林(愛典氏。営業推進部マーケティンググループ エグゼクティブマネージャー)も藤江の紹介で入ってきたのですが、彼も藤江と同じようにずっとコンサルをやっていて、バースのコンセプトを聞いて、「世界が変わる」と感じたみたいでした。

藤江 小林は私と同じFXの会社で、彼はマーケティングの責任者を務めていました。彼に最初に話をした時は「今から証券会社をやるのは難しいのでは?」と言った反応が返ってきたのですが、「いやいや、こういうコンセプトでやるんだよ」とバースの話をしたら、「それはすごい」という反応に変わった。

--藤江さんは公認情報システム監査人という資格を持ってらっしゃいますが、林さんが探していらっしゃった方というのはそういう専門家だったのでしょうか? どういう方だったのでしょう。

 僕はどっちかっていうと点取り屋、サッカーで言ったらフォワードなんですよ。だから点をいくら取られるかはあまり気にしない。取られても入れればいい。

だけど証券は、今までのFinTechサービスと同じというわけにはいかない。「まずやってみよう」という精神は持ちつつも、「システムが落ちること」は許されない。そこは、しっかりやることが必要。

藤江は個人でもいろいろとやってきた経験もあって、信頼できる知人の紹介でもあるし、最初のミーティングで大丈夫だなと感じ取り、社長やってくださいとお願いしました。

FinTechの盛り上がりもあって、いい人材が集まってくれた

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(写真=ZUU online編集部)

--出会って3ヵ月で会社を設立、そこから9ヵ月後にはライセンス取得。その過程ではいろいろ大変なことがあったと思いますが、一番大変だったのは何でしたか?

 僕のほうから言うと、今まで僕らって、圧倒的なスピードでサービスをリリースしてきて、それが強みでしたが、気合だけで乗り切れるサービス開発じゃなかったですね(笑)。きちんと押さえるところは押さえ、手順を踏むところは学びました。

藤江 私の場合は、コンサル時代にも苦労したのですが、金融庁の登録の要件に合う人材を十分に集める点です。これがなかなか難しい。第一種金融商品取引業者に登録するには、「この責任者はこの人です」と、十分な経歴と実務経験を持ったメンバーを集めなければなりませんが、コンプライアンスからバックオフィス、コールセンター、経理や資金管理までしっかりとした経験を持った有能な人間はそういません。しかし、縁もあって本当に有能なメンバーが集まって一気に前に進みました。

--コンサル時代に金融業界の参入のお手伝いをされていて、そのときも人探しが大変だったと。

藤江 ただ何年か前と違ったのは、FinTechが広く認知されたことですね。これはかなりラッキーでした。有能な人がかなり来てくれたと思います。そして一人入ると、その知り合いを紹介してくれて……ということもありました。大和証券さんからも、今3人出向いただいているのですが、これも大変ありがたいですね。

--今スマートプラスには何人いらっしゃるんですか?

藤江 社員は私以下16人です。開発はFinatextのメンバーも入っていますから、プロジェクトでは25人くらいでオフショアの開発エンジニアを含めると30人くらい。少数精鋭のメンバーです。

 大和証券さんはスマートプラスと資本、業務提携してくださっているのですが、やはり一番大きいのは、人材交流として3人の方が出向で常駐いただいていることですね。おそらくFinTechのベンチャーでこういうケースも珍しいと思います。

コストカットのためのサービスって出したことは一回もない

--藤江さんはスマートプラスの代表として、林さんと方向性は一緒だと思いますが、その中でも独自のこだわりというと、どのあたりでしょうか。

藤江 当然目指す路線は一緒ですが、今株の取引をしている投資家って限られていると思うので、もっと日常的なものにしたいですね。銀行の口座は、みんな持ってて当たり前ですが、証券口座はそうなっていません。普段の会話でも証券口座は話もしないですよね。だから証券口座も株もみんな持つのが当たり前で、日常的に使われるようなものにしたい。

最初は日本株だけですが、商品を広げてもっと使いやすいものにしたいです。まだ具体的ではないですが、たとえば実は証券の口座も、クレジットカードの引き落としができるんです。給料が振り込まれた銀行口座から、投資する分だけ証券会社に移して、というようなことをする必要はない。クレジットカードで家賃でも何でも払っているし、株だけ別枠にするのではなくて、ほかの普通の決済や支払いと同じ感じで株式投資するような、それが普通の世界にしたいですね。

そのためには株だけじゃなくて、もっとバースのプラットフォームを使いやすいインフラにしなきゃいけない。使いやすいものにすれば、上に乗るサービスも、いろいろ日常に近いサービスが考えられるはずです。

--スマートプラスとの協業の可能性は、金融機関だけでなくサービス業の会社もありそうですね。

藤江 カード会社もそうですし、もっと生活に近いサービスを提供している企業も考えていきたいと思っています。

--最初買えるのは日本株だけとのことですが、次の段階では、いつ頃までにどういうふうにしていたいといった構想はありますか?

藤江 まだ具体的に、決まってはいませんが、外国株や債券を2~3年のうちには買えるようにしたいと思います。

--何かしらの数値的な目標は掲げていますか?

 僕ら2018年の一番のKPIは、ストリームを出した後に、間髪入れずに自社Finatextでストリーム以外のサービスをつくって、BaaSに乗せるということです。今回思想というのはマイクロサービスなので、いかにたくさん作って、実際に作れることを見せる必要がある。

もう一つは、どこかと協業して一緒に連携を発表して具体的にリリースできるようなところまで持っていきたい。

とはいえ、そんなに攻めすぎないことも大事で、最初はきちんと堅牢に、問題ないところを見せたい。とりあえずいいものを作ることを主眼に置いています。

--簡単にそれこそAmazonの1-Click注文くらい簡単に買えるくらいにならないと、なかなか誰もが株を買いやすい状況にはならないのではないかと思います。本人確認もけっこう大変なハードルですが、ゆるくなるのでしょうか。

藤江 ゆるく、というか利便性が高くなる方向に変わっていくと思います。実は現状がもうゆるいんですよ。本人確認に転送不要郵便に使うことには限界があると当局も分かっていると思います。究極的にはマイナンバーであればオンラインで確認したほうが安全、確実なのです。

--ユーザーがやらなきゃいけないことは減らすけど、セキュリティは高くということですね。

藤江 金融庁が11月に「顧客の本人確認手続きを金融機関共同で実施するシステムの構築を検討」すると発表しており、そこで何か動きが出てくると思います。各社独自のやり方が乱立するようなことはないと期待しています。

それよりも本人確認終わってからの認証がカギかなと思いますね。本人確認した後、2回目にアプリやサイトを訪問したときの認証。また本人確認書類を見せてくださいって言わないで、一般的にはIDやパスワードを入力するわけですよね。でもそれも脆弱です。

指紋や静脈、顔認証とかいろいろ技術が出てきていますが、そこのセキュアとか利便性の両立については競争がまだまだ続くと思います。我々はそういう点でもバースのプラットフォーム上で何が一番セキュアで利便性が高いかを追求していかなければいけないと思っています。

 昨今FinTechって、自動化やコストカットという文脈でばかり語られている気がしているのです。メガバンクが何人解雇するとかね。

僕らは会社として今まで、コストカットのためのサービスって出したことは一回もありません。僕らは新しいアクションを起こさせるようなサービスしか出したことがない。だから今回も、そしてこれからもそうするつもりです。モジュール化することで、それぞれの企業や金融機関が本来取り組むべきサービスに集中できるようになる。業務とかシステムとかはどんどんモジュール化して外販できるような形にしていきたいなと思っています。

スマートプラス(事前登録受付中) https://smartplus-sec.com