昨年(2017)は「人生100年時代“元年”」とも言うべき年ではなかっただろうか。世間から注目を浴びた書籍「LIFE SHIFT(ライフシフト) ~100年時代の人生戦略(1)」の発刊を皮切りに、政府が「人生100年時代構想会議(2)」を設置したことで、「人生100年」という言葉は一つのブームのように社会に拡がったように見受けられる。

人生100年時代
(画像=PIXTA)

この言葉を見聞きしたとき、おそらく多くの人は「それだけ長生きできる時代が来たか」と前向きな気持ちを抱く一方で、同時に「どうやって100年を生きていけばいいのか」と不安を募らせたに違いない。その不安をもたらす最大の要素はおそらく生涯にわたる「経済基盤」の確保ということだろう。お金にも寿命があるように(*3)、最期まで自分が望む暮らしを継続するには経済基盤の確保が必要であり、そのためには“如何に働き続けられるか(活躍し続けられるか)”が個人にとって、また社会にとって大きな課題と言える。

人生100年時代
(画像=ニッセイ基礎研究所)

この課題については筆者も複数の自治体関係者と議論をすることがある。図表1は「人生100年時代において、“これからの若者がより良く働き続けられる地域社会(労働市場)にしていくために、自治体としてどのような取り組みが必要か”、未来志向で考えて欲しい」とのリクエストを受けてまとめたものである。未来研究手法の一つである「バックキャスティング法」(*4)にもとづき、理想の働く環境を先に考え、そのために必要な取組視点を挙げている。結果としては、さほど目新しい内容ではないかもしれないが、考え方を以下に補足したい。

人生100年時代
(画像=ニッセイ基礎研究所)

まず未来の労働市場を予測することは非常に難しい。法制面において、年金制度(年金支給開始年齢の引き上げ)や定年制のあり方(廃止など)が変わるかもしれない。AIをはじめとする科学技術の進歩により、人間が担える仕事が限定され産業構造も大きく変化するかもしれない。言語のボーダレス化が進み、外国人との協働が拡がる可能性も高い。また労働市場全体がこれまでの「メンバーシップ型労働市場」(企業に就く)から、「ジョブ型労働市場」(職に就く)にシフトするかもしれない。これらに限らず未来の変化要素は様々あり、未来の労働市場を納得的に予測することは困難である。

ただ、どうすべきかを考えたときに、(1)年齢に関わらず失業を恐れる心配のない可能性(選択肢)豊かな雇用市場の中で働ける、(2)自らしたいことにチャレンジできる社会で活躍できる(自律的な仕事ができる)、(3)自宅あるいは自宅のそばなど働きやすい環境で柔軟に働けることが、「理想」的なことではないかと考え、そのために必要な取組みとして①~⑦のことを挙げている。

取組視点の①は、地域の発展また若者の定着をはかる(都市への若者流出を防ぐ)観点から基本的なことにはなるが、その地域にしかない魅力ある新たな産業を育てることが必要と考える(例えば「スマート農業(AI・IOTを駆使した農業)」など、地域の実情に合わせた発想と創意工夫が必要である)。

②は高齢期の活躍場所の拡大をはかることは、人生100年時代には不可欠なことであり、この点については現在進行中の事業である厚生労働省主導の「生涯現役促進地域連携事業」(*5)の充実・発展が必要と考えるものである。

③④は政府が現在進める「働き方改革」の中でも目出しされていることであるが、「副業・兼業」(デュアルワーク)を進めることが若者の将来の可能性を拡げることにつながり、経済基盤の確保に向けた「自己防衛策」にもなると考えるものである。またテレワークやシェアオフィス(サテライトオフィス)を地域の中で充実させていければ、職場との距離の制約のない労働環境が整備され、働ける選択肢が拡がると考えるものである。

⑤の「モザイク型就労環境」は耳慣れない言葉かと思われるが、1人が複数のスキルを有する業務を行うのではなく、業務ごとにその業務を得意とする人が担うといったイメージである。企業を横断する形で個人が有する強み・スキルを発揮できる労働市場のことであり、ジョブ型労働市場の形成にもつながることである。ただ、こうした市場の形成は労働市場全体の変容が求められることでもあり、中長期的な視点から考えるものである。

⑥は働き方の自由度が今後さらに高まると予測するなか、「働きがい」を優先する若者がこれまで以上に増える可能性がある。そのときに「したいことをより容易にチャレンジできる環境」であることが望まれる。経験豊かなシニアがその起業を支えることも望ましい。そのような観点からの「若者の起業サポート制度」の充実である。

⑦は政府が「人生100年時代構想会議」の中で検討を進めている「リカレント教育(生涯にわたって教育と就労を交互に行うことを勧める教育システム)」や人生100年を前提とした「ライフデザイン教育」を地域の中で育んでいけば、若者の未来の可能性を拡げることにつながると考えるものである。

以上、総論的なことに止まるが、これからの若者が人生100年をより安心して働きがいをもって活躍し続けられるようにするために地域として何ができるか、この課題に直面している自治体関係者がいれば、今後の検討の視点として僅かでも参考にしていただければ幸いである。最後に付け加えると、こうした働く環境づくりは、行政だけではもちろん、いくつかの企業が取組めばできるということではない。「働く」という意味やあり方に関する文化や価値観を変えていくような大きなチャレンジであり、地域住民を含めあらゆる関係者が一体となった「未来に向けたまちづくり」の一環として取組まれることを推奨したい。人生100年時代を不安ではなく希望を持って生きられるように、各地域また社会全体がより良い方向に変わっていくことを切に願うところである。

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(1)リンダ ・グラットン/アンドリュー・スコット著、池村千秋(訳)、東洋経済新報社、2016年11月発刊
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2)人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインに係る検討を行うため首相官邸内に設置(2017年9月~)
(3)高齢期に貯蓄を取り崩していけばいずれなくなることを述べている
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4)理想の未来の姿を描き、現実とのギャップを明確にする。現実の延長線の見方や従来の固定観念を払拭し、より創造的な未来・アクションプランを導き出す上で有用な未来研究手法
(*5)前田展弘「生涯現役促進地域連携事業の実態~先進23地域の動向」(ニッセイ基礎研「研究員の眼」、2017.10.6)
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前田展弘(まえだ のぶひろ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員

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