「この人は褒められて伸びるタイプだな」と上司が判断するならまだしも「自分は褒められて伸びるタイプなので……」そう自ら宣言する強者さえいる昨今の若手たち。そのような部下に対して、はたして褒めて伸ばしていくべきか、あるいは簡単には褒めずに、別の方法を探るべきかという悩みを抱えている人も少なくありません。ここではこの「褒められて伸びる部下」に対する接し方について、3つの視点から考えます。

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(写真=docstockmedia/Shutterstock.com)

「サーバントリーダーシップ」に基づいた接し方のマネジメント

教育コンサルタントのロバート・K・グリーンリーフは1977年に刊行した著書の中で、「サーバントリーダーシップ」というリーダーシップ哲学を展開しました。このリーダーシップ哲学においては「リーダーとは、まず相手に奉仕し、その後に相手を導いていくものである」というコンセプトのもと、リーダーが部下に対していかに振舞うべきかを考えていきます。組織内ではリーダーは部下の目上にあたるわけですが、実際は「奉仕する立場」にあるというわけです。

この立場から「褒められて伸びる部下」にやるべきことは、その部下がどうすれば自己肯定感を抱き「上司を含む周囲から承認されている」と感じられるかを考えて、部下の仕事を見直してあげることです。そうすれば部下は次第に「この上司は何があっても自分の味方だ」と信頼するようになり、最終的には「褒める」以外の方法でも成長してくれるようになっていきます。「部下に寄り添う」という表現がされますが、まさにそれを体現するようなマネジメントと言えるかも知れません。

用語集リンク:サーバントリーダーシップ

「褒められて伸びる」という前提を考え直すマネジメント

次に「識学」というマネジメント理論に基づいて、そもそも部下が「褒められて伸びる」という前提は正しいのか、という点について考えてみましょう。「成長」とは「できなかったことができるようになること」です。成長するにはまず「できなかったこと」を正しく認識し、できるようになるにはどうすればいいかを考える必要があります。単に褒めるだけでは「できなかったこと」の正しい認識はできないままなので、成長もできないと言えるのです。

しかもむしろ褒めることが成長の阻害につながるという考え方もできます。例えば結果が出せない「褒められて伸びる部下」を褒めようとすると、必然的にプロセスでの努力や工夫を褒めることになります。ところが結果が出ていないのにプロセスを褒めると、「結果が出ていなくても、頑張っていれば評価される!」という勘違いをしかねません。組織におけるメンバーに求められているのは結果であって、頑張りではありません。

最悪の場合、すでに結果を出している人までもが「結果より頑張りが大事」と考えるようになり、組織のパフォーマンスがさらに低下する危険もあります。また褒められることが当たり前になれば「褒められないと頑張れない」という人間を作ってしまう可能性もあるでしょう。

まず「褒められると人は成長する」という前提を疑ったうえで、部下の成長のために結果で評価すること繰り返すべきでしょう。

参考リンク:『伸びる会社は「これ」をやらない! 』

「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」に基づくマネジメント

心理学者のフレデリック・ハーズバーグは、1959年に書いた『The Motivation to Work』という本の中で、「動機づけ・衛生理論」というモチベーション理論を提唱しています。ハーズバーグは仕事におけるモチベーションには「動機づけ要因」と「衛生要因」の二種類があり、前者が仕事への満足度を高める要因、後者が仕事への不満を高める要因としました。

動機づけ要因 達成、承認、仕事、責任、昇進、成長の可能性など
衛生要因 会社の方針と管理、監督、仕事上の人間関係、職場環境、安全保障、給与など

この理論を「褒められて伸びる部下」に適用するならば、まず「動機づけ要因」に基づいて褒めるポイントを探すことができます。部下は何を達成したのか、何を承認して欲しいのか、どんな成長の可能性に期待して欲しいのか……部下とのコミュニケーションや仕事の観察から褒められるところを探す手がかりになります。

また動機づけ要因以外のところに問題があるかを検討するきっかけにもなります。なぜならいくら動機づけ要因によって満足度を高めても、衛生要因が満たされなければ不満が生じ、結果的な満足度は高まらないからです。並行して衛生要因についても確認を行い、マネジメントに組み込んでいくこともできます。

用語集リンク:ハーズバーグの動機づけ・衛生理論