不動産投資によって節税できると知っている人は少なくないでしょう。しかし、節税を意識するあまり物件の調査が不足し、赤字に苦しむケースも少なくありません。

そこで重要なのが、事前のシミュレーションです。購入価格や借入額、利回りを計算し、自分の想定する利回りに達するにはどれくらいの借入額・入居率ならよいのかなどを数字として把握することが大事です。これによって、リスクとリターンをある程度想定してから物件選びにとりかかれます。

物件選び前のシミュレーションの方法と必要な情報を理解して、失敗のリスクを減らしましょう。

不動産投資に必要な事前シミュレーション

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(写真=leolintang/Shutterstock.com)

不動産投資において、実際にお金を出す前のシミュレーションは不可欠です。投資金額が大きいため、具体的な見通しを立ててから慎重に検討する必要があるからです。

不動産投資のためには、数千万円から億を超えるほどの土地や物件を購入する必要があります。万が一購入した物件の評価額が急落したり、入居率が上がらず赤字続きだったりすると、ライフプラン全体に大きな影響を及ぼしかねません。

株式や債券、投資信託などの有価証券とは異なり、不動産は簡単に売却して損切りすることもできません。結果として、赤字を出し続ける物件を抱えなければならなくなるリスクもあります。金融機関から融資を受けることがほとんどであるため、融資返済の負担も軽くはないはずです。不動産投資がうまくいかなかった場合のリスクを鑑みると、見通しの甘いまま参入するのは危険と言わざるをえません。

このときの「見通し」は、具体的な数字を含めたシミュレーションであるべきです。「2020年の東京オリンピック開催を控え、首都圏のマンション需要は下がらないだろう」という一般論的な予測だけでは十分ではありません。

物件の購入金額や想定される賃料、経費、ローンの金額や返済期間などの物件データ、地域の人口構成・伸び率などの統計データを収集し、利回りや税額などの将来の運用結果をシミュレーションするとよいでしょう。

不動産投資における事前シミュレーションは、いわゆるPDCAサイクル(Plan ? Do ? Check ? Action)の「P」のステップに当たります。購入候補となる物件の情報や地域の情報を集め、投資の成功確率を見極める重要なステップです。不動産投資は立派な「投資事業」であり、投資家はシビアに投資効果を分析しなければならないのです。

事前シミュレーションは税額だけではない

事前シミュレーションは、税額だけではなく利回りも対象に含めるのがよいでしょう。

そもそも不動産投資による利益には、インカムゲイン(家賃収入)とキャピタルゲイン(売却益)の2つがあります。節税目的でアパートやマンション経営に乗り出す資産家もいますが、節税自体は利益(手残り)を少しでも増やすためのものであり、不動産投資の主目的にするべきではありません。節税は、いわば主食に対する副食です。利益があってこそ活きてくるのが節税と言えます。

不動産投資に対するリターンとしては家賃収入を柱に据えることになるでしょう。売却益は、不動産投資の出口戦略であり、不動産投資の初心者が最初から想定するのは難しい面があります。それよりも入居率を高めて、家賃収入を安定させることを考えるべきでしょう。家賃収入は、労働の有無によらず獲得できる「不労所得」です。

家賃収入を主目的に据えることを考えると、事前シミュレーションでも家賃収入を主軸にした利回りを計算することをおすすめします。特に、投資したお金が何年で回収できるのかは把握しておきましょう。このとき税金額は、利回りの中に含まれることになります。不動産所得を増やす一つの手段として、節税が存在します。

事前シミュレーションにはツール利用が便利

事前シミュレーションの方法には、主に3つの種類があります。自分でエクセルを用いて計算する方法、インターネット上の無料ツールを用いて計算する方法、不動産投資会社の担当者や税理士などの専門家に相談して計算してもらう方法の3つです。不動産投資を検討し始めた段階では、ツール利用が無難でしょう。

自分でエクセルを使って計算するのは、手間がかかりますが知識を身につけるという意味では最高の方法かもしれません。計算するためには、必要な情報・データと細かな計算方法の情報を集め、自分で計算方法を展開しなければなりません。正しいアウトプットのためには、計算過程をいろいろと調整する必要もあります。この過程で学んだことは不動産投資をはじめる上で必ず活きてくるはずです。

しかしながら、不動産投資を必ず始めるという固い決意を持っているのならまだしも、軽い気持ちで「やってみようか」と検討している段階であれば、そこまで手間をかける必要はまだないかもしれません。

同じ理由で、専門家に相談するのも時期尚早でしょう。自分で計算すると間違えるリスクがあるので、専門知識を持っている人にお願いするのは筋が通っています。しかし、不動産投資に興味を持った最初の段階は、まだ専門家への相談フェーズではないと考えられます。

自分一人でできる限りの計算を行い、「細部に誤りがあるかもしれないが、大まかな数字は間違っていないはず」というところまで進めましょう。その数字を基にして、不動産投資の勝算が見えるようになって初めて専門家に相談する。こうした順序でも遅くはありません。専門家は、ゼロの状態から情報を入手するためではなく、入手した情報を精査するために使うのがよいでしょう。

幸い、今ではインターネット上に無料で使える不動産投資用の計算ツールがいくつもあります。必要な数字を集めて入力すれば、大まかな数字は自分でも出せるようになっています。最初の段階では、こうした計算方法でも問題ありません。

事前シミュレーションに必要な数字を集めよう

事前シミュレーションのためには、インプットとなる数字を集める必要があります。欠かせないのは、購入価格、自己資金と借入額(金利・融資期間)、建物の経過年数、構造、想定される家賃収入の5種類です。

購入価格は、当然ですが物件を購入したときの売買価格です。事前シミュレーションで最も基本的な数字となるでしょう。次の借入額については、できれば借入期間や金利の情報も投入したいところです。自己資金と借入額および金利の合計額を、物件から生み出される利益が上回ればよいと考えられます。

建物の経過年数や構造に関する情報は、経費の中でも減価償却費と関係してきます。木造22年、軽量鉄骨(LS)造19年、鉄骨(S)造34年、鉄筋コンクリート(RC)造47年と法定耐用年数が決められていますので、購入価格を残りの耐用年数で割れば毎年の減価償却費の目安を把握できます。

できれば、管理組合や代行会社に支払う管理費・修繕積立金・固定資産税などの各種経費も情報として投入したいところですが、最初はなくてもよいでしょう。シミュレーションツールのあるWebサイトによって必要な情報は変わってきますので、基本的にはそちらに合わせる形となります。

事前シミュレーションで念頭に置くべき3つのリスク

事前シミュレーションはあくまで予測であり、実際の結果と異なることは言うまでもありません。しかし、この段階でのシミュレーションが「3つのリスク」を排除していることは頭の片隅に入れておいてもよいでしょう。

その不動産投資における3つのリスクとは、災害リスク、空室リスク、値下がりリスクです。

災害リスクは、火災や地震、水害などによって物件が破損・倒壊するリスクのことです。密集地にある建物の場合、周辺の火災から被害を受ける可能性もゼロではありません。

また、言うまでもなく日本は地震大国であり、北海道や中国地方の内陸部などごく一部の地域を除き、今後30年で震度6弱以上の地震に見舞われるリスクが高いとされています。海や川の近くに位置する物件であれば、台風や大雨によって洪水が発生し浸水被害を受ける可能性もあります。

結局のところ災害リスクをゼロにはできませんが、予測が難しいだけにシミュレーションで参考にすることは困難です。シミュレーションによって利回りや税額などを計算する一方で、火災保険や地震保険に加入し、密集地や川の近く、地盤の弱い地域など災害による被害が大きいと予想される地域を選ばないといった判断も考えられます。

次に、空室リスクも事前のシミュレーション段階では読み切れません。不動産経営においては、入居率を高め、空室を作らないことがきわめて重要です。広告・宣伝や営業に力を入れれば入居率の向上につながることもありますが、入居率は地域の利便性など物件所有者だけでは動かせない要素に左右されるところが大きいとされています。

仮に物件のある地域が災害に襲われたら、当然ながら空室リスクも大幅に高まります。事前シミュレーションで読み切れないながら、経営を大きく左右するリスクであることは認識しておきましょう。

値下がりリスクとは、物件の資産価値が下がることです。最終的な売却価格に影響してきます。これもシミュレーション段階で織り込むことはほとんど不可能となり、最低限物件のある地区の人口構成や発展性を調査しておく程度しかできません。

値下がりリスクと関連して、流動性の低さにも注意を払う必要があります。流動性の低さとは、「現金に換金しにくい」という意味です。不動産を売却するには、不動産会社に査定を依頼し、媒介契約を結び、不動産会社が広告やレインズへの登録を行い、条件交渉を行い、契約を結んで引き渡し……と、長いステップを踏むことになります。

一般的な商品のように、売り手と買い手がお金と商品のやり取りをすればよいというわけにはいきません。売却するまでのステップが長いということは、それだけ売りにくいということです。例えば、物件の資産価値が下がり、損切りするべく売却を急ぎたいと思っても、買いたいと思う人が現れなければ売ることは容易ではありません。

災害リスク、空室リスク、値下がりリスクのいずれも、「未来のことは分からない」という将来の不確定性によってシミュレーションを難しくしています。不動産投資の計画を練っていると、頭が高揚してきてこうしたリスクを忘れがちになる人も多いので注意が必要です。ハザードマップや地域の発展性、高齢化率など参照できるデータには目を通しておきましょう。

専門家に相談しながらのシミュレーションがベター

自分でシミュレーションしてある程度満足できる数字が出たら、細部を詰めるために専門家を使うのがおすすめです。

自分自身が専門家であるなら別ですが、そうでなければ算出したシミュレーション結果には必ずズレがあると考えるべきでしょう。実際に物件の選択を進める過程では、不動産会社の担当者や税理士などの専門家のサポートを受けながら、シミュレーション内容をブラッシュアップさせていくことが必要です。

もちろん、災害リスクや空室リスク、値下がりリスクを完全に読み切ることは専門家でも難しいでしょう。しかし、過去の経験則から空室や値下がりのリスクが高そうかどうか判断してもらうことはできるかもしれません。(提供:Incomepress

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