マイナス金利が常態化し、さらに人口減少という環境下で、貸出による収益化が厳しくなってきている金融業界では、2017年に3大メガバンクが大幅な人員削減を発表した。従来の伝統的な銀行業務などにテクノロジー企業が参入し、送金や資金決済だけでなく、銀行の本丸である融資業務にもAIを活用してコスト構造を大胆に削減することが不可欠になってきた。

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(画像= somjade dachklung / Shutterstock)

AIが個人の信用力をスコア化する「J.Score」

そんな3メガのなかでも革新的な動きを見せてるのがみずほ銀行だ。正確に言うと、みずほ銀行とソフトバンクが共同出資した「株式会社J. Score(ジェイスコア)」が業界で注目されている。

J.Scoreは2017年9月25日スマートフォンだけで手続きが完結する個人向け融資サービス「AIスコア・レンディング」を開始した。ユーザーが入力した情報をAIで解析し、借り手の様々な「可能性」をスコア化し、スコア結果から貸し付け条件を提示するサービスだ。

従来の貸付は、借入時点までの年収や家族構成、もしクレジットカードを使用していたらその利用状況などいわゆる「個人信用」を元に判定をしていたが、J.Scoreは、それらに加え、趣味やライフスタイル、お金に関する考え方、みずほ銀行やソフトバンクとの過去の取引履歴なども加点することができ、スコアを上積みすることが可能だ。さらに最大の特徴は「今現在」の借り入れできる能力だけでなく、「将来の可能性」も判断基準となることだ。

スコアの算出自体は無料だ。スコアデータは借入審査だけでなく、ビッグデータとして様々な場面で重宝される可能性を秘めており、様々なサービスへの応用が期待されている。実際に、2017年12月22日にはYahoo! JAPANとの業務提携契約が発表された。今後のJ.Scoreの動向に注目したいところだ。

中国アリババの「芝麻信用」

中国でも、同じようにAIが個人をスコア化するサービスがある。アリババグループのアントフィナンシャル傘下にある「芝麻信用」だ。この会社は個人の「身分特性」「履行能力」「人脈」「行動」などをスコア化し、個人を格付けしている。アリババの購入履歴、ネット金融の使用状況、さらには中国ならではの公共サービスのデータ、水道高熱費の未払いなども点数に影響を与える。

中国の支払いは、屋台でもQRコードで支払うなど、キャッシュレス化が猛烈な勢いで進んでいる。そのような社会インフラを支える一端としてこの「芝麻信用」の情報が使われている。

スコアの活用は恋愛市場にも?

AIによるスコアは、フィンテックサービスの垣根を超えて、恋愛市場にも存在感を出しつつある。「芝麻信用」を活用している中国人女性は、ボーイフレンドのスコアが気になるという。

恋愛市場、特に婚活市場では勤務先や年収などを重要視する人が多いのではないだろうか。今後、ますますAIによるヒトのスコア化が進んだら、スコアそのものが恋愛市場(婚活市場)の物差しになる日が来るかもしれない。

今後の展望と可能性

日本人の特性として「借金は悪」という固定観念が強いことも事実だ。当然のことながら、遊興費や生活費のために借り入れをすることは、強く戒めなくてはならない。しかし事業拡大のため、または自己投資の実現のためなど「時間を買う」といった発想の場合、しっかり返済計画を立てた上で、お金を借りることは有効な手段といえよう。

一方、中国の芝麻信用の例は、大げさな表現を使うと個人の芝麻信用のスコアが、個人の人生を左右するほどのものとなっていることを表している。国や企業にすべてを握られる怖さに対して、中国人はどのように思っているのだろうか。

マネーデザイン代表取締役社長 中村伸一
学習院大学卒業後、KPMG、スタンダードチャータード銀行、日興シティグループ証券、メリルリンチ証券など外資系金融機関で勤務後、2014年独立し、FP会社を設立。不動産、生命保険、資産運用(IFA)を中心に個人、法人顧客に対し事業展開している。日本人の金融リテラシーの向上が日本経済の発展につながると信じ、マネーに関する情報を積極的に発信。