「いまひとつチームになりきれない組織も、仕事以外のリラックスした場所ならチームになれるかもしれない」「それがきっかけで仕事でのチームワークも強化できるかもしれない」そんな期待を抱いて社内運動会を企画しようとしているリーダーもいるでしょう。ここでは「チームワークの強化」を目的とした社内運動会は、どのように企画するべきなのかを、異なる3つの視点から解説します。

「組織の成功循環モデル」をもとにした社内運動会

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(写真=Yevhen Tarnavskyi/Shutterstock.com)

「組織の成功循環モデル」はマサチューセッツ工科大のダニエル・キム教授によって提唱された組織マネジメント理論です。キム教授はこの理論によって、組織が継続的成果を出すための仕組みやポイント、良い成果を出すまでの過程を示唆したモデルを示しました。このモデルの中で重要視されているのは以下の4つの要素の「質」です。

  1. 思考の質
  2. 行動の質
  3. 結果の質
  4. 関係性の質

このうち良い結果を出すために最も大きな影響力を持つのは4の「関係性の質」だとされています。組織のメンバーがお互いを認めて尊重し合っていれば、本音や互助意識を基本としたコミュニケーションを行おうという意識になり(思考の質の向上)、お互いに助け合いながら新たなチャレンジを行うので(行動の質の向上)、今までにないような結果が出る(結果の質の向上)というわけです。

キム教授の組織の成功循環モデルを踏まえたうえで社内運動会を開くのであれば、「関係性の質を向上させる」というコンセプトのもとで企画を練るのがよいでしょう。例えばチームの中で衝突しがちなメンバーで二人三脚や騎馬戦をやらせたり、自分の意見を押し殺しがちなメンバーにあえて権限をもたせたりといった工夫を凝らすのです。

何も考えずに「運動会をすれば仲良くなるだろう」では、せっかくの社内運動会もいつもの仕事の延長線上で終わってしまいます。しっかりと意図を込めた運動会にしましょう。

用語集リンク:組織の成功循環モデル

「チーミング」をもとにした社内運動会

「チーミング」とはハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱した組織マネジメント理論です。「Team」に現在進行形の「ing」を加えることで、フラットな関係性を作って変化に柔軟に対応しながら、効果的な協働によって結果を出すことを意味しています。

エドモンドソン教授がチーミングをベースにした組織の中でリーダーに求めているのは、次の3つの仕事です。

  1. わかりやすいビジョンを示し、組織の方向性を明確にする。
  2. メンバーの心理的安全を確保し、気づきや学びを発言しやすい環境を作る。
  3. メンバーが協力しやすい場やリソースを提供し、組織が正常に機能するようマネジメントする。

このうち社内運動会が貢献できるのは、主に2の「心理的安全の確保」です。エドモンドソン教授の著書『チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』によれば、心理的安全が確保されている状態とは仕事についての考えや感情についてメンバーが遠慮なく発言できる雰囲気が確保されている状態を指します。チーミングをもとにして社内運動会を企画するのであれば、この「心理的安全の確保」を目指した企画にするのがよいでしょう。

ではどうすれば心理的安全を確保できるのでしょうか。前掲書は「心理的安全を高めるためのリーダーシップ行動を挙げる」として以下のような内容を列挙しています。

・ 直接話のできる、親しみやすい人になる
・ 現在持っている知識の限界を認める
・ 自分もよく間違うことを積極的に示す
・ 参加を促す
・ 失敗は学習する機会であることを強調する
・ 具体的な言葉を使う
・ 境界を設ける
・ 境界をこえたことについてメンバーに責任を負わせる
抜粋:『チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』

チーミングをもとにした社内運動会は、各チームのリーダーがこれらのリーダーシップ行動をとるきっかけ作りになります。リーダーが苦手でメンバーが得意な種目を用意したり、言葉やボディサインを使ったコミュニケーションが必要になるような種目を用意したりして、リーダー自らがメンバーの心理的安全を高められるような仕組みを作るといいでしょう。あらかじめ各チームのリーダーにチーミングの内容を共有しておくのもいいかもしれません。

用語集リンク:チーミング

「社内運動会」は開催するべきではない

ここまでは「社内運動会はしっかり意図をもって企画する方が良い」という視点から考えてきましたが、「識学」というマネジメント理論では「社内運動会は開くべきではない」とされています。なぜならば社内運動会を開催すると組織上の位置関係ではなく、運動というテーマで位置関係ができてしまうからです。

組織にはそれぞれの役割に応じて適切な「位置」が決まっており、それぞれが位置を正しく認識し、その位置に定められた「機能」を全うすることで、組織の成果が最大化します。しかしながら、運動会では運動の上手い下手であきらかに上下関係ができてしまいます。そのため社内運動会で「社長は運動苦手なんだな」「部長より課長の方がサッカー上手いな」などと上司を下の位置と認識し、位置関係の認識が逆転してしまうと、翌日からの業務の場でもその影響が残ってしまうのです。

そもそも「社内の和を作れば、組織のパフォーマンスが上がる」というロジックは順番が逆です。本来社内の和というものは、個人が役割に応じた位置に立ち、定められた機能を全うして成果を出し続けていれば自然に生まれるからです。社内の和が結果を生むのではなく、結果に向かって行く中で自然と発生していくものです。

参考リンク:『伸びる会社は「これ」をやらない! 』