歴史上類を見ない高齢化社会の到来で、中小企業を中心に事業承継問題が話題にあがることが増えてきた。しかし、「事業継承」と「事業承継」を混同しているような言説もみられるようだ。今回は、しばしば混乱をきたす「事業継承」と「事業承継」の違いを見ていこう。
「継承」と「承継」の意味
まずは、「継承」と「承継」の意味について、それぞれ辞書で見てみよう。
「大辞泉」によると、「継承」は「前代の人の身分・仕事・財産などを受け継ぐこと。」とあり、「承継」は「前の代からのものを受け継ぐこと。」とある。
少し分かりにくいが、「承継」において後継者が受け継ぐべきものは、身分や仕事、財産といった形あるもの、社会的に価値のあるもの以外に、理念や伝統といった精神的なものも含まれる。
このように見ると、「継承」と「承継」の違いが理解できるのではないだろうか。
「事業承継」は事務作業だけではない
話を「事業継承」と「事業承継」に戻そう。「事業承継」とは、後継者に社長の地位や自社株、事業資産を引き継ぐだけではない。事業を展開する中で培われた社風や伝統、創業の精神なども含めて、次代に受け継いでいくステップだ。
代替わりの事務的な作業だけならば、法に則り、専門家の力を借りれば、時間がかかっても成し遂げることは可能だ。しかし、経営精神といった目に見えないものは、外部の人間から伝授するのは難しい。ここが、後継者選びが難しい所以だろう。
後継者探しから教育は数年ががり
経済産業省の「中小企業白書」によると、後継者探しを始めてから了承を得るまでの期間について、3年以上かかったという企業が37%と約3分の1を占める。中には、10年超かかったという企業も3.9%存在している。そこからさらに、後継者教育を始めようとすると、気の遠くなるような作業だ。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」によると、全国の経営者の平均年齢は 59 歳 9 ヵ月と過去にない水準まで高齢化が進んでおり、早急な対応が必要だ。しかし、実際には70 代、80 代の経営者ですら、後継者問題に着手している企業は半数に満たないという。
親族による承継、より難しく
かつては、同族経営の中小企業を中心に、実子や親族から後継者を選ぶのが一般的だった。しかし、少子化や人口減による国内マーケットの縮小で事業成長が難しく、実子に継がせるのがしのびないという経営者もいる。中小企業の事業承継には、大きく分けて「親族による承継」「従業員による承継」「M&A」の3種類があるが、親族による承継は年々減りつつある。
日本政策金融公庫総合研究所による2016年の調査では、対象企業約 4000 社のうち 60 歳以上の経営者の約半数が、自分の代限りでの廃業を予定しているという。その理由を問うと、「当初から自分の代限りで辞めようと考えていた」が38.2%、次いで「事業に将来性がない」(27.9%)、さらに、「子供に継ぐ意志がない」「子供がいない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者難を理由とした回答が28.6%と、3割近くに達している。
なお、この調査では、廃業を予定している企業であっても、約 3 割が「同業他社よりも良い業績を上げている」と回答している点に注目だ。今後10年の業績についても、約4割の経営者が「現状維持は可能」と見通しており、廃業理由は業績の不振によるものだけではなさそうだ。
憲法で保証された職業選択の自由をより尊重する考え方が広まり、実子や親族が必ずしも家業の承継を強制される時代ではなくなっていること。また、従業員による承継を目指そうとしても、終身雇用制の崩壊などで、事業を承継するほどの責任感ある従業員が育ちにくいという風潮があることなどが影響しているのではないだろうか。
M&Aによる第三者への「継承」も視野に
ここまで見てきたように、事業承継は決して簡単な作業ではない。ただ、親族による承継や従業員による承継が難しくなっている昨今、精神性よりも事業継続や従業員の生活保障といった現実的な観点を優先するのであれば、M&Aによる第三者への「継承」も視野に入れて、後継者対策を検討するべきだろう。(提供:百計オンライン)
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